デートとは戦である

第21話 じゃ、帰りに集合しよう

「とーちゃーくっ!」



たたたっと小走りに駅を出た玲於奈が声を上げる。

「これがシャバの空気ってやつですかねー!」と言った玲於奈に苦笑いしながら、オレは彼女の隣に並んだ。



「玲於奈、あんまり目立ちすぎないようにな」

「大丈夫だよ! ウィッグもしてる、凪お手製のメイクもしてる、カラコンまでつければ安心だって!」

「それはそうかもしれないけど…………………」

「それに、逆に遊園地にきて冷静な人の方が目立つと思うよ?」



凪みたいにさ、こういう感じ! と言った玲於奈が『スンっ』と真顔になる。

それを何とも言えない気持ちで見つめていると、後ろで盛大に噴き出す音が聞こえた。



「陽翔………」

「いやだって……………あまりにもそっくりで…………っくく」

「おい」



時々思わずといったように噴き出す陽翔を睨みつけると、その隣に並んでいた女子が鼻を鳴らす。

邪魔、と至極冷たく言ったそいつは、はしゃいでいた玲於奈にギュッと抱き着いた。



「れー、今日はなーがナイトになってくれるみたいだから、めいいっぱい楽しもうね!」

「いや言ってない…………」

「え? 言われなくてもなるつもりなの? なー男前ー!」

「耳鼻科行け……………」



いやまあ見つからないようにはするけどさあ……………と呟くと、もともと笑顔だった星那の笑みがさらに深くなる。

それを睨みながらも何も言えずに口をつぐむと、「じゃあ」と玲於奈が口を開いた。



「星那のナイトは伊吹くん?」

「ぶっ」

「「……………」」




俺が思わず吹き出すと、先ほどまでニヤニヤしていた二名が黙り込む。

何も言わずともじとりと睨みつけられている気配に、俺はなんとか口を開いた。



「すまん…………のどに変なものが詰まった…………っふ」

「おい凪」

「今度100倍でやり返してやるからね」

「いやちょっと待て!? 俺は日ごろの恨みを晴らしただけだし、というかこれは不可抗力だろ!」



俺が慌ててそういうと、二人はしらっとした顔で「はーい凪への仕返しをいつにするかもう決めましたー」と言ってくる。

おいおいおいおい、と俺が頭を抱えると、無邪気な玲於奈が首を傾げた。



「あれ? 違った?」

「「………………何にもないです」」



無垢な天使に屈した悪魔は、「違う」とも「違わない」とも言えずにただ言葉を濁す。

それに再び噴き出した俺を見て、玲於奈はなにがなんだかわからないというように再び首を傾けた。






◇◇◇◇◇






「あっつ………」

「お前なあ。折角のデートに何色気がないこといってんだよ」




俺がパタパタとシャツを扇ぐと、陽翔が呆れたようにいう。

暑いもんは暑いんだからしかたがないだろ、と俺が言い返すと、そいつは押し黙ったあと微かに同意した。



「…………まあ、そうなんだけどさ。もう6月だもんなあ」



それに比べて女子のスカートは涼しそうで良いよな、と陽翔が星那と玲於奈を一瞥する。

星那はその視線に素早く気づくと、ブルリと身を震わせて悍ましいものを見るように陽翔を見た。



「なに?…………もしかして、着たいの? ていうかその発言はセクハラだよ」

「アホかお前は!」



まるで毛虫を見るかのような視線に、陽翔は「誤解させるようなことを言うな!」と叫ぶ。

別にそういう人もその人らしく生きれていいと思うけどさ、と言った陽翔と星那は、それから口を開きかけて閉じた。



「………陽翔?」

「いや、なんにも」



それに静かな拒否を感じて、俺は口をつぐむ。

その隣で静かになった星那が、なにかをポツリと呟いた。



「………星那?」



横で話を聞いていた玲於奈が、心配そうに星那を見る。

するとそいつは玲於奈に向かって笑顔を向け、ひらひらと手を振った。



「あーあー、伊吹のせいで変な空気になっちゃったよ」

「いやお前のせいな!?」

「はいつまんないー」

「つまらん」

「ごめん伊吹くん、今のはちょっと………」

「なあ違うんだが!?」



皆がいつにも増して冷たい………と陽翔が泣き真似をし始めると、しらっとした目で俺と星那はそいつを見つめる。

キモい、下手くそ、と続けて吐かれた言葉に、そいつは泣き真似をやめてこちらをじっと睨んだ。



「……………お前ら、覚えてろよ」

「今忘れた」

「凪の如月さんの惚気トーク学校中に轟かせてやるからな」

「ごめんなさいすみません」

「「え、何それ聞きたい」」

「勘弁してください………………」



マジでごめんって、と俺が言うと、お前の今後次第だからな、とニヤニヤしながら陽翔が告げた。

キラキラした目でこちらを見てくる女子二人組の視線を感じながら、俺は必至で視線をそらした。



「ほら、もう入場始まってるからさ」

「あ、話逸らした」



早く進むぞ、と俺が促すと、そいつらはブーブー言いながらもなんだかんだで一緒に歩き始める。

遊園地久しぶりだから本当に楽しみ、と笑った玲於奈に、星那が笑って頷いた。



「たくさん楽しんできてね!」

「ん?」



たくさん楽しんできてね? 沢山楽しもう、ではなく?


その意味を理解した瞬間、目の前でチケットが切られる。

焦って隣の陽翔と星那のチケットを確認した際きちんと切られているのを確認して、俺はほっと胸をなでおろした。


流石に気にしすぎか、とため息をつき、「じゃー最初どこに行く?」と三人に問いかける。


すると玲於奈以外の二人はニヤッと笑ったのが見えて、俺は小さく首を傾げた。



「陽翔? 本条?」

「オレ、どっか別の場所で楽しんでくるな!」

「は。え? は、陽翔?」



笑顔を浮かべた親友に対し声を上げると、そいつはサムズアップしてさらに笑みを深める。いやグッドじゃない、何もグッドじゃない。

助けを求めるように星那を振り返ると、何も理解していない様子の玲於奈と目が合い、そのあとやっぱり星那を見た。



「だって私、一緒に乗るなんて言ってないじゃん」

「えっ?」

「はっ?」

「まあ、そういうことだからさ」



ポン、と俺の肩に手を置いた星那を唖然として見返すと、にっこりと笑顔を返される。

せめて陽翔は止めないと、と周りを見渡すと、そいつは何とも憎たらしいことにギリギリ俺の手が届かないところで無駄な笑顔をまき散らしていた。



「「じゃ、帰りに集合しよう」」

「へえっ?」

「はあ!?」



アデュー、と言ったその二人組は、俺たちが呆然としている間にどこかへ消えた。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





ちょっと本当に受験がやばくてやばいので次の更新丁度一か月ちょい後になるかもです……………すみません。


できれば今週末にもう一回だけ更新できるといいな、という感じです。多分二月中は難しいので…………本当に申し訳ございません。



少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら星を入れてくださると大変うれしいです。

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