第22話 でーとって怖い
「「…………………」」
開始早々、気まずい沈黙がその場を流れる。
お互い黙りこくった状態の俺らは、なんとかその雰囲気を変えるために口を開いた。
「あの」
「えっと」
「あ、玲於奈から」
「いや、凪の方からで」
「「……………………」」
そしてまた振出しに戻る。
俺が目線を斜め上に逸らしながら首を掻くと、玲於奈も斜め下に逸らしてスカートの裾を握ったのが見えた。
「あー………………その」
「な、なんでしょう?」
「なんか、……………馬鹿らしくね?」
「へ」
俺が思わず言葉を漏らすと、玲於奈が小さく口を開けた後に、ふふふっと笑う。
そりゃそうだ、と呟いた彼女が袖口で口元を抑えてケラケラと笑う姿を見て、やっぱりこれがいつもの玲於奈だと微笑んだ。
「じゃ、どこいくー?」
「お昼ー」
「色気ないな………………」
「知ってる、凪? 腹が減っては戦はできないんだよ?」
「知ってるか、玲於奈? 俺たちは今から戦をしに行くわけじゃないんだ」
デートらしい、と俺が至極真面目に言うと、彼女も握り拳を作る。
そんな彼女はその後「デートって何すればいいかわかんないや」とポツリと呟いた後、何事もなかったかのように俺が広げた地図を見つめた。
彼女はそれをじーっと見た後、「それはそうと」と小さく呟く。
「まずはお昼だよね」
「まあそれはそう」
◇◇◇◇◇
「え、このホットドッグうま」
「待って本当に美味しいっ」
とりあえずイートインスペースに座り買ったホットドッグに齧り付くと、俺たちはその美味しさに瞠目する。
しばらく無言で食べた後に、先に食べ終わった俺はチラリと玲於奈を見た。
「…………」
「はひ?」
おいしい、と言いながら頬をパンパンにしてホットドッグを食べている玲於奈に「いや」と小さく首を振る。
こてり、と首を傾げた玲於奈を見て自身の頬も緩んでいるのを自覚しながら、俺はマップへと視線を落とした。
「一番近いのはお化け屋敷で、隣はジェットコースターとかのアトラクションが集まってる場所だな」
「ははひはほひはえふひはいほほほにいひはい」
「あー、それもそうだな」
とりあえず近いところがいいらしい玲於奈に頷くと、「いやなんでわかるんだよ」と陽翔の声が聞こえた気がした。
周りを見渡そうとするが、玲於奈がじっと地図を見ているの気づき、首を傾げる。
それに「どうした?」と聞くと、彼女をごくんと口に詰まってたホットドッグを飲み込んだのち、彼女もまた首を傾げた。
「ここ、もしかして私来たことある?」
「…………あるかも、しれないな」
それに曖昧に微笑むと、彼女は少しだけ寂しそうに笑う。
—————彼女は『ある一定の期間』だけ、記憶を一部無くしている。
それは日常生活に支障がないほど些細で————けれど大切だったはずのもの。
彼女には言ってないものの察しのいい玲於奈は薄々気づいているのだろう。
現に聞いたら俺が困ることをわかっているから、彼女は深入りをしない。
そっか、わかった、と頷いた玲於奈の気を逸らすため、俺はマップを指差した。
「じゃあ、一番近いお化け屋敷行くか?」
「うんっ」
早く食べ終わらないとと言ってさらに口に詰め込もうとする玲於奈を見つつ、俺は彼女に手を伸ばす。
? と首を傾げた彼女に、俺は自身の親指で玲於奈の口元を拭った。
「っ、」
「ついてる」
とれたケチャップを紙ナプキンで拭い、「そんなに急いで食べるからだ」と呆れて笑う。
何故か頬を赤くして黙り込んだ彼女に、俺はぐっと伸びをした。
「ま、俺は待っとくからゆっくり、」
「じゃー凪も食べるの手伝って!」
「!?」
小さく開けていた口に、何かが突っ込まれる。
とりあえず立ち上がって腕を伸ばしている玲於奈が目に入った瞬間、よくわからないまま彼女の「食べて」と言う指示に従った。
途中でそれが彼女の食べかけのホットドッグだと言うことに気づいて『得体の知れないものを食べている』と言う認識から外れた俺は、ふっと肩の力を抜き。
(いやこれって間接キっ—————)
「仕返しだからねっ!」
慌てて落とした肩を上げ、最後まで食べ切るその瞬間、ビシッ! と指を差した玲於奈に瞬きをする。
「いや、玲於奈っ」
「やーいやーい、間接キスだって恥ずかしがってろー!!」
顔を真っ赤にした玲於奈が小学生のような言葉を吐き、「トイレ!」と大声で言い残した後去っていく。
それを呆然と見送った後、俺はズルズルとしゃがみ込む。
「確信犯かよ…………」
死ぬ。死んでしまう。というか今死ななければいつ死ぬのか。
「デートって怖……………」
俺が熱を持つ頬をぱたぱたと顔で仰ぐと、先程から開きっぱなしの地図でお化け屋敷の場所を確認した。
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