第23話 お化け屋敷って何だっけ
でーとである。
ついでに言うと、初でーとである。
今さらながらにそれを実感した俺は、熱い頬をそのままにぐっと握りこぶしを作った。
しかしすぐにトイレへ行くと宣言した玲於奈がすぐ帰ってきて、俺は手を振って場所を伝える。
「あっ、いたいた」
ととと、と駆け寄ってきた彼女は俺に手を振りかえし、何事もなかったかのように隣に並ぶ。
それに対してまだ頰の熱が冷め切ってない自分に僅かないたたまれなさを感じながらも、俺は玲於奈に向けてマップを開いた。
「今いるのがここで、さっきその隣にあるのがお化け屋敷って言ったよな」
「うんうん」
「で、そこに向かって歩いている途中なんだけど」
「ふむ」
「..................これ、どっちに進めばいいんだ?」
「確かに」
◇◇◇◇◇
「やっと...............やっと着いた」
「迷ったねえ」
俺が苦笑いでお化け屋敷の前に立つと、同じく苦笑いした玲於奈が隣に追いつく。
途中、普通に通っていたら絶対に見かけないはずのジェットコースターまでもを通り過ぎていたのは気づかなかったふりをする。
「二名様ですねー」
そのまま受付に行くと中に通され、俺たちは並んで入っていく。
夏が近づき蒸し暑いこの季節にも、建物の中はどこか薄寒く感じた。
「なんかひんやりしてるー、って、わあ」
「もう少し驚いてやれよ................」
最初だからだろうか、気合が入っているように勢いよく飛び出してきた幽霊に対し、玲於奈は特段驚くことなく通り過ぎる。
その瞬間少しお化けがしょんぼりしているのが見えた俺は、心の中で謝りながらそのまま進んでいった。
「墓地かな?」
「だから少しは怖がってあげればいいのに」
「だって怖くないじゃん」
「俺は玲於奈が怖い」
女の子だから、とは言わないけれど、さすがにお化け役の人たちが気の毒になってくる。
昔から玲於奈は幽霊が怖いというタイプではなかったが、ここまでとは予想外だった。
「デートってなんだろうなあ」
「
ちょっと怖がった振りしようか? と玲於奈が俺の顔を見上げる。
暗がりで見えなかった分思ったよりも近かったことに僅かに頬が熱くなりながら、俺は首を縦に振った。
「ああ、さすがにちょっとアレだし................頼む」
「まっかせて!」
「いや待て嫌な予感が」
自信満々に首を縦に振る玲於奈に第六感が働き、俺は一気に顔が引きつって彼女を止めようと手を伸ばす。
だがしかし、その手は無残にも空振り、彼女は次の瞬間大きく息を吸った。
「キャーーーーーーーーっ!!」
そんな大きな悲鳴に、俺はもちろん驚かせたはずのお化け役の人たちがビビっている。
顔をくしゃりと歪めて今にも泣きだしそうな玲於奈の姿に、俺は思わず目が遠くなるのを感じた。
................ああそうだ、彼女は国民的アイドルに恥じないその容姿で目を引きがちではあるが、ドラマの主演を務めるほどの実力派女優でもあった。
「いやっ、来ないで!!!」
こちらがはっとするような演技力で人を惹きつける彼女の演技は、見るものすべてを魅了する。
しかしながら美少女に拒否されたと思ったお化け役が少し涙目になったのも同情せざるを得ない。
「れ、玲於奈。少しやりすぎっ、」
「凪!」
なんだなんだとお化けが集まってきてどんどん騒ぎが大きくなってきたため、俺は顔を引きつらせて彼女に声をかけようと口を開く。
その瞬間少しの衝撃とともに腰に腕が回る感触がして、俺は思わず動きを止めた。
「え"っ」
「私っ、ほんとに怖くてっ」
少し潤んだ瞳で俺を見上げてくる玲於奈に、ぐっと息が詰まるのがわかる。
一気に頭部に熱が集まるのを感じながらも、俺は必死で頭を働かせた。
(これ、これは、合わせるべきか? こんなに玲於奈が一生懸命やってるんだから、俺も、)
「凪ぃ................」
「いや、ダメだろ!!」
目をつむり、自分の中の一番の力を出して彼女を押す。
ぐぐぐ、と押される感覚に薄っすら目を開けると、不満そうな顔をした玲於奈と目が合った。
「凪は嫌なの?」
「勘弁してくれ................」
熱くなった顔でそう呟くと、不思議そうな顔をしながらも玲於奈は離れてくれる。
そのまま俺が
「っ................!! ~~~っ!!」
「?」
「っ、あの...............なんか、すみません................」
顔に熱が集まっているのを自覚しながら、やりきって満足したような顔をしている玲於奈を引きずってその場を去る。
その後、後ろから「末永く幸せになれよ!!」という叫び声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
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