第27話 一方そのころ尾行組〈星那〉
「特に変な箇所はなし………と」
トイレ内の鏡の前でくるりと周り、特に服装などで問題はないと確認する。
流石に本条家が変な格好をするわけにはいかないよね、と小さく呟き、私は軽くメイクを直した。
本条家だから変な格好をするわけにはいかないだけだ。決して、一緒にいる『アイツ』を気にしてなんかいない。いないったらいない。
「れー達は…………コーヒーカップからの休憩中か」
あまり時間が経っていないことに安堵しながら、私は建物から一歩出た先でキョロキョロと辺りを見渡す。
すると突然大きな泣き声が耳に届き、私は小さく肩を揺らした。
「…………子供?」
泣いているその声には、時々「お母さん」という単語が入っているので、おそらく迷子だろう。
そこまで考えたところで不意にその声が小さくなったのがわかり、私は首を傾げた。
「見つかった………の? いや、でもまだ小さく泣いてるし…………」
そこまで考えたところで行動する方が早いと首を振り、私は声がする方へと小走りで移動する。
けれど声がする先には探していた人がしゃがみこんでいるのを見て、私は思わず駆け寄った。
「伊吹? まさか…………泣いていたのは伊吹………?」
「んなわけあるかっ!」
私が思わず立ち止まると、伊吹はそう言った後少し困った顔をする。
その目の前には泣きじゃくっている子供がいて、私はパチパチと目を瞬いた。
「……………誰?」
「知らない」
「なんでよ」
思わずそう返事を返すと、「……………多分、迷子」という答えが返ってくる。
それを聞いて先ほど泣いていたのはその子かと納得しながら、私はとりあえず同じようにしゃがみこんでハンカチを取り出した。
「おっ、お母さああん、おかあさあんっ」
「ほら、泣かないで」
「………………ひくっ、えぐっ…………お、おねえちゃん、だれ?」
五歳ぐらいだろうか、青いTシャツ着た男の子は涙で滲んだ目に私を写し、小さく首を傾げる。
持っている鞄に『櫻井 真』と書かれているのを見て、おそらく櫻井食品—————招待されている人たち的に間違いないだろうとため息をついた。
「真くん、だよね? お母さんは今日どんな服着てた?」
弟の小さな頃————といってもまだ弟自身も小2なのだが————のことを思い出しながら、私は目線を合わせる。
迷子センターに連れて行くにしろ母親の特徴を知らないとと質問をすると、その子は微かにしゃくりあげながらも素直に答えた。
「白のスカートっ、に、…………えと、青のふく…………」
「そっか、ありがとう。じゃあ、お姉ちゃん達と一緒に着いてきてくれる?」
私が笑いながらそう言うと、こくりと頷いたその子供は私の手を握り—————そして、隣に立っていた伊吹に向かって手を差し出した。
「…………え。オレ?」
「状況的にそうしかないでしょ」
「…………じゃあ、お願いします」
「んっ!」
差し出された手に伊吹自身も手をずっと伸ばすと、それは精一杯腕を伸ばした子供に掴まれる。
最初ほど泣いていない…………むしろ泣き止んで少し笑ったその子の手を引いて、私たちは迷子センターの場所を地図で確認してから歩き出した。
(…………でも、意外だったな)
伊吹が子供の相手をするなんて、と考えたところで、何故そんなことを思うのだろうと考える。
そして記憶を辿り理由がわかったとき、私は一瞬迷った末に隣の人物へ問いかける。
「伊吹、子供苦手じゃなかったっけ? 治ったの?」
「…………いや、今でも子供は苦手だよ」
その言葉に、ならどうしてと首を傾げる。
しかし、次の瞬間「ただ、」と続けられた声に、私は開きかけた口を閉ざし、まっすぐに子供と向き合う彼を見た。
「—————苦手だから助けない、は違うだろ」
その瞳の強さに、目が奪われた。
昔も今も、彼はずっと真っ直ぐだと考え————その後、そっと目を伏せる。
彼を気にしてはいけない。
私と彼は
(…………良いことなんてない、のに)
小さく胸元を握りしめる。
そんなことをしても、痛みは和らいだりなんてしないのなんてとうに知っている。
けれど、「どうして」なんて少女漫画のヒロインみたいなセリフは自分には似合わないし、言いたくもない。
「あー、もう」
「は?」
そう声を上げながらバッと前を向き、大きく何度か深呼吸する。
それに不審な目を向けてくる伊吹をスルーしながら、私は当初の目的であった
二人は私が見ていることも知らず、ベンチで楽しそうに談笑している。
それを目を細めて見つめていると、ふととても重大なことに気づいた私ははっと息を呑んだ。
(男女二人が一緒に遊園地........これってデートでは!?)
これは推せる、と小さく呟く。
その瞬間、先ほどからどこかそわそわした様子の伊吹が不意に口を開いた。
「な、なあ本条。今オレとお前が一緒にいるのって、知らない人から見たら何に見えると思う?」
「いきなり何? 三人兄弟じゃない?」
「そうじゃなくて。ふ、二人だと」
なぜそこで気まずげに目を逸らすのだろうか。
そんな顔をするならば聞かなければいいのに、と思う私は悪くないだろう。
そう思いながら私はそっと顎に指を当て、考えながら声を出す。
「..........姉と弟?」
「あ、もういい。お前に期待したオレが悪かった何にもない」
「なんなのよ」
そう私が言うと、不思議そうな顔をしながら手を握っていた男の子は、くいっと私たち2人の腕を引っ張り首を傾げる。
ん? と私がペットボトルのお茶に口をつけながら伊吹と2人でかがみ込むと、彼はにっこりと笑いながら口を開いた。
「————おねーちゃんとおにーちゃんは、結婚してるの?」
「「……………んっ??」」
その瞬間、口に含んだお茶を吐き出さなかった自分を全力で褒めてあげたいと私は思った。
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一週間以内に更新できませんでした、すみません。
次の更新は来週の金曜日の予定です。その後はテストがあるので少し期間をあけてから毎週金曜日に更新………という形に落ち着くかなと思います。
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