第29話 フラグ回収早くなーい?

「あー、回った回ったー」



休憩から戻り、色々なところを回り切った俺たちはどさりと腰を下ろす。

定番のジェットコースターの後はバイキング、

空中ブランコ、メリーゴーランドなどなど色々なところを回ってご満悦の玲於奈を見て、俺は笑いが溢れた。



「えっ、どうしたの?」

「いや、満足そうだなと思って」

「まー、そりゃーそうでしょう。現役時代アイドルはこうやって遊園地に来ることすらできなかったしー? 旦那様との初デートですしー?」



旦那様、と言われた言葉に反射的にぐっと息を詰める。

頰に熱が集まっているのをなんとか誤魔化そうとしながら、俺は小さく口を開いた。



「…………楽しんでいただけたようで何よりです」

「うん、とっても!」



キラキラキラーという効果音が付いてきそうな眩しい笑顔で幼馴染が頷いたのを見て、俺はその星を甘んじて受け入れる。

けれどなんだか気恥ずかしくなってしまった俺は軽口を叩こうとして————けれど名前をあまり呼んではいけないことに気づいてウィッグを掻き回すだけに止める。



「あーっ、もう。ウィッグとれちゃうよ」

「大丈夫。取れない取れない」



出る前に結構固定したし、と俺が笑うと、玲於奈は少し疑い深い目で見る。

それに対して俺がさらにぐちゃぐちゃと髪をかき混ぜると、頬を膨らめた彼女がそっぽを向いた。



「もう知らないっ。ほら、何か言うことは?」

「安定で可愛い。さすが俺の推しアイドル」

「そうじゃなくて!」



ああああああ、と顔を赤らめた玲於奈が頭を抱えてうずくまる。

それを見て俺が小さく首を傾げると、彼女はいきなり俺の顔をがしっと捕まえた。



「へぇふぉな?」

「そーやって言われると、ちょーし狂うの!.................ね、」



そのまま頭を捕まえて動けなくした状態で――――玲於奈の顔が、近くまで迫る。


(あ)


小さく目を見開いたときには、ぱっとその手は開かれた。



「ちょっとは動揺してよ!! ドキドキとかしないわけ!? ていうか止めてよ! 寸止めどころじゃなくて本当にしちゃうところだったよ!」

「...........................」

「凪?」



顔を真っ赤に染めあげた彼女を俺は呆然と見上げ――――ようとするけど、とっさに下を向く。

ど、どうしたの? と一瞬でうろたえた玲於奈に、俺は「ごめん」と右手を挙げた。



「鼻血出た..................」



寸止めじゃない方がよかったな、と思わずそのあとに呟いた言葉は、慌ててティッシュを取り出している本人に聞こえてなくてよかったと、心の中でそっと胸をなでおろした。






◇◇◇◇◇







「なんか私だけドキドキしてバッカみたい................」

「玲於奈?」

「なんにもないっ」



肝心の本人はなぜか鼻血出してるし!? と憤慨している玲於奈は、只今九度目のジェットコースターの列に俺とともに並んでいる真っ最中である。

俺が再度首を傾げると特大ため息をついた彼女は、あきらめたように周りを見渡した。



「やっぱり、思ったより有名人も多いねー」

「まあ、陽翔と本条も有名人だよな」

「そうじゃなくて。SNSとかで有名な子」



ほら、あの人はSNSのアカウントでフォロワー100万人越えの子だし、といった視線を追いかけるが、どうやら見覚えのない人。

知らない、と俺がぽつりとつぶやくと、彼女は「ええ!?」と声を上げた。



「YUMEちゃん知らないとか............凪って実は女の子に興味ない?」

「玲於奈以外に興味ない」

「そうじゃない!!」



この鈍感! と叫んだ玲於奈に、なぜこれだけ言っても伝わらないと思わず地団太を踏みたくなってくる俺は悪くないだろう。

どっちが鈍感なんだか、と呟いた俺に対してまた玲於奈が頬を膨らませたのが見えて、俺は急いで話題を変えた。



「俺は、社長とか社長夫人とか、その子供とかしかいないと思ってた」

「...............まあ、私に届いてたぐらいだからなあー。多分インフルエンサーとかにも来てるんじゃないかな。話題性として」

「玲於奈にも来てたのか」



さらりと言われた言葉に目を見開くと、係員さんが呼ぶ声が聞こえる。

俺たちは声がする方へとゆっくり歩きながら会話を続けた。



「うん。多分話題性として集めてるんだと思う。私が引退する前に来てた招待券だから」

「なるほど」



やっと慣れてきた距離感の最前列の椅子に座ると、数秒の間ののち乗り物が動き出す。

しかし視界に入った玲於奈のウィッグからピンが少し見え、俺はすっと手を伸ばした。



「凪。もうすぐ頂上だよ?」

「大丈夫、すぐ終わるから――――!?」



瞬間、ぶおおおんっ、という音とともに、『なにか』が飛ばされたのが視界の端に見える。

そのなにかは黒髪の何かに見えて――――まあ、冷静に考えなくても玲於奈の頭に『あった』はずのウィッグであった。


まあしかしウィッグで外れたとはいえ、インフルエンサーなので身バレ防止のためウィッグを普段から被る人はいる。

けれど————ほとんどが黒髪である日本人の中、玲於奈の色素の薄い明るい茶色の髪は、目立つのだ。



「大丈夫ですか…………え、」



そして地味なメイクをしても目立ってしまう、神様も文句のつけようがない黄金比の顔面偏差値。



「き、如月玲於奈ちゃん!?」



そして話題性としてインフルエンサーを多数呼んでいるとは言え、国内でトップクラスの人気と抜群の話題性を誇り。

さらに彼女は、『理由不明で電撃引退した』—————国民的アイドル。


そして思い当たる理由は一つ。



『あーっ、もう。ウィッグとれちゃうよ』

『大丈夫、取れない取れない』



――――あっ、やらかした、と。



反射的にそう思った時、咄嗟に言葉が口をついて出た。



「「の馬鹿ー!!!」」








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





お久しぶりです。

実は昨日はこの作品の一周年記念でした。まあ、ご察しの通り魔に会いませんでしたが................。

一周年ですね、つまり一年。この作品を投稿してから一年が経ちました。投稿された話数、30話ちょい。


すみません(スライディング土下座)。


これからはもう少し投稿の頻度を増やし、そして安定していきたいと思っていますので、何卒この二人の不器用すぎる恋愛を見守ってあげてください。


ついでに昨日は作者の誕生日でもあったので「ついでに作者もおめでとう」という人は応援マークをぽちりと押していただくとうれしいです。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら星を入れていただくと幸いです。

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自殺しようとしている国民的アイドルの幼馴染に「お前の何にでもなってやる」と言ったら、次の日夫になっていた件。 沙月雨 @icechocolate

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