第24話クラス活動を決めよう

 教師はプリントを配りながら説明を始める。


「では、クラス目標とクラス活動について決めて貰います」


 クラス目標は分かる。小中と決めてやってきたことと同じだから、どんな一年にしたいか? というのを決めるってやつだ。

 

「我が校では地域貢献として、ボランティア活動や清掃、募金なんかをやっていますが、あくまでもそれは学校全体でのこと……

部活やクラス、学年ごとに地域社会への奉仕・貢献活動をやりましょうというお題目のもと行われるのが、『クラス活動です』」


 ――――と概要を説明する。


あれか? 高校版の道徳の時間みたいなモノか……仏教系なら読経したり、キリスト教系なら新約聖書の朗読や合唱でもする感じか……


 プリントを見ると、今まで行われた地域への貢献活動が幾つも取り上げられている。

 雑に言えばその多くはボランティア活動だった。


 配られた書面には再現しやすいものが乗せられていた。

 小学校に行って低学年の子達と遊ぶと言ったものや、介護施設に行って話し相手になる、病院なんかも同じような活動が多い。


 逆に裏面では、『学校』や『部活動』『クラス活動』でもより大きなモノが取り上げられている。

 近隣の海岸線の清掃活動だとか、豪雨などの被災地での土砂の撤去作業だとか、他の学校や地域を巻き込んだものなど「コレ本当に学生がやったんですか?」と言いたくなる出来事ばかりだ。


 輝かしい先輩達の功績、その一旦を見て俺達は目を輝かせて、「俺達もこんな偉業を成し遂げたい!」と語る生徒達の声に教室は包まれる。


「見ての通り、表面は例年行われているやり易いものを例として挙げている。逆に裏面は費用も時間も労力も掛かるが、間違いなく多くの人の記憶に残ることを上げて居る……」


 副担の現実を突きつける言葉に、浮かれていた生徒達は声のトーンを落とした。


「ノブレス・オブリージュ皆も聞いたことがあると思う。このフランス語の訳は、『高貴さは義務を強制する』という意味だが、この言葉を英語で使った人物は『貴族が義務を負うのならば、王族はそれに比例してより多くの義務を負わねばならない』と言った。

これは、『能力を持つモノはその能力を社会に還元しなければならい』と言う欧州圏のギフトと言う考え方による所だろう。

ギフト……才覚とは彼らからしてみれば、誰から送られたモノなのか? それは唯一神、主でありアッラーであり、ナザレのイエスだ。この考えは君たちが公民で習った『企業の社会的責任』と言う考え方として引き継がれている。因みに世界的ハンバーガーチェーン店の食育なんかが有名だ」


 話の巧さは兎も角、参加に消極的で意義や意味を見いだせていない生徒に対して、歴史や文化的背景を踏まえた説明ではまだ足りない。


「コレは有名な話だが……もし、海外の大学へ留学したいと考えている意識の高い生徒や大手企業に入社したい生徒がいるのなら教えてあげよう。諸君らも記憶に新しいと思うが『中学生活何をしてきましたか?』と言う質問に、部活以外の回答があるのは大きい。正直教師としては聞き飽きてるからな」


 ここで意識の高そうな奴が顔を上げる。


「海外の大学や大手企業……主に外資はボランティア活動を重要視する。アメリカでは親が多額の金を払ってでも、ボランティア活動の経歴を買うらしいぞ? 実績を積む為のボランティア活動ツアー100万円とかな」


 副担任の言葉に生徒一同は驚愕の表情を浮かべ絶句する。


「「「「「――――!?」」」」」


「そう言う意味では君たちは学校のバックアップの元で、規模の大小差異はあれども面接で有利に立ち回れる強みを手に入れられるんだ。私個人としては、どうせやるなら1年の時に大きなことをするといい。2年、3年は受験勉強で忙しいからな……」


 確かに副担任の言う通り、学年が上がるに連れて受験勉強の忙しさは加速度的に上昇する。

 少なくとも記憶に新しい中学時代の経験がそう言っている。ので確かに大きなことが出来るのは、高校2年までだろう……


「何かやりたいことがある人は、実現性とかは一旦気にしなくていいので意見を言ってください。ブレインストーミングって奴だね」


 意見を出させるには、意見を言いやすい雰囲気と言うモノが必要だ。

 意見が出ない理由は、思いつかない。責任を取りたくない。無理だと自分だけで決めつけているなどの理由が挙げられる。だから、出来るだけ意見が出やすい土壌を整えてやることことそが、司会進行に求められる能力なのだ。


「はい!」


 真っ先に挙手したのは、見るからにチャラそうな男子で先ほど俺を囲む輪の端に居た記憶がある男子生徒だった。

 ニヤニヤとチェシャ猫のような笑みを浮かべており、真面な意見を言うつもりは無さそうだが、彼には贄になって貰おう……


「出来れば何もしたくないっつーか、最小限の努力で最大のリターンが欲しいっつーか、ウチのクラスはぶっちゃけそういうのにしない?」


 明け透けな彼の言い分に、クラスは “笑い” に包まれる。

 失笑と言ってもいい。

 チョークを握った菜月なつきさんの肩が震えているのを目端で捉えた。

 指先に力が篭ったのか白チョークの先が砕ける。


多分、「巫山戯ふざけないで!」ぐらいの文句は言いそうだな……仕方ない俺が泥を被るしかないな……


「―――!?「貴重な意見をありがとう。方向性は分かったけど、出来れば具体例が欲しいかな? ゴミ拾いとか、ペットボトルキャップ集めとか、ベルマークとか、アルミ缶集めとかさ……皆も彼見たいに先ずは方向性だけでもいいから、『先ずは何を重要視するのか?』テーマ見たいなモノから考えてみてくれないかな?」」


 菜月なつきさんよりも大きな声を出して、声をかき消しながら議題の方向性を修正する。

 その時に相手の意見を否定することはしない。

 否定するだけでは何も生まれないからだ。


菜月なつきさん悪いけど板書お願い出来る?」


「分かった。それと……ありがとう」


・最小限の努力で最大のリターンを!

 ・清掃活動(ゴミ拾い)

 ・資源集め(ペットボトルキャップ、アルミ缶、ベルマーク等)


 ――――と板書をしてもらう。


 欲望(目標)からやることを逆算する。

 こすることで、目的と手段を取り違えることが起こりづらくなる。


さて、彼よりマシな意見が出て来るといいんだけど……

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