第39話帰宅
会計を終えた俺達は自宅のある住宅街に向けて歩みを進めていた。
免許を取り立ての俺は、残念ながら某黒の剣士のように二人乗りはまだできないので、現在はバイクを引きながら歩いている。
「
「
「……確かに否定出来ないわ……」
徒歩の自分に付き合わせるのが悪いと思っているのだろうけど、実際に問題が起きているのだから家族として、男としてむざむざ見逃せるリスクではない。
「と言う訳で、一緒に帰ろうって言ってるんだ。男として、家族(仮)として、そして義理とは言え姉弟として男共が放って置かない
「やっぱり
そう言うと
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことないよー。こんなに出来た
――――とブツブツと呟いている。
そんなことを呟きながら家路を急いでいた時だった。
住宅街のせいか、周囲に街灯は少なく疎らに設置された街灯がポツポツと周囲を照らしている。
そんな住宅街にも信号のない横断歩道はあり、電柱の横に煌々と光る街灯が一基、そして制服に身を包んだ少女も一人立っていた。
どうやらスマホを弄っているようで、少女の頭は下がっている他人事ながら不用心だと思っていた時だった。
「喜んでもらえるような大層なことはしてないんだけど……」
「そんなことないよー。
「身内の贔屓目だよ。それに減量も調子落ちてきたし……」
「一気に痩せられるのはそれだけ太っているから、テストの点数と一緒で詰めてれば詰めるほど、思うように行かなくなるものよ。私だって中学三年で太った分をペイするのは結構かかったんだから、男女の基礎代謝の違いはあれどそんな簡単にペイされて溜まるものですか……」
少女の横を
「あれ、
声だけで理解した。
理解できた。
思い出してしまった。
俺の黒歴史。
思い出したくないあの日々の象徴。
顔から、脇から全身から嫌な油汗が吹き出し、背中がびしょびしょになり、一瞬で顔色が悪くなる。
「すず……」
油を指していないブリキ人形のような、ぎこちない仕草で振り返る。
長年の刷り込みの結果だろう。鈴を鳴らせば涎が垂れると言うパブロフの犬のように、俺は反応せざるおえなかった。
ひゅるひゅると音を立てて風が吹き抜ける。
流れるようなサラサラの黒い長髪を
しかしあの頃のすずの姿はなく、黒かった頭髪は明るい茶色に染めており、耳にもピアノが幾つも空いている。
そうこの少女こそ俺がここまで変わる原動力になった幼馴染。
「……
「なんだやっぱり
「悪かった……」
ただ俺には謝る事しか出来ない。
「そう言えば数か月前にトラック止まってたけど何? 小父さん再婚でもしたの?」
会いたくない。心の底からそう思っている相手に突然出会ってしまえば、つい先ほどまで大人と対等以上に戦っていた俺でも戦意喪失し、まるでまな板の上の鯉のようになされるがままに成ってしまう。
「実はそうなんだ……」
力なく答えるしかない。
「えっ!? 嘘ッ! 小父さんって転職してないなら忙しいハズなのに……良く再婚相手見つけられたわね……で、隣の相手は……」
父さんの職業を知っている。すずにとって再婚は相当に意外な事だったらしく驚愕の表情を浮かべている。
俺との出来事なんてコイツからしてみれば、一ヶ月単位ではそこそこ大きな出来事でも、一年単位になれば大した事件ではなくなり、二年も立てば忘れてしまうほどに小さな出来事何だろう……
本当に嫌になる。一世一代の告白に何の価値もなかったのだと、もう一度突きつけられるこの感覚、手の平に杭でも刺された見たいな鋭い幻痛を感じる。
「始めて私、
「私は、
すずからしてみれば、年の近い弟分なのかもしれないが俺からすればずっと憧れていた女の子でしかない。
俺からすれば二度と会いたくないので幼馴染とすら名乗らないで欲しい。
「幼馴染……私は
「姉? ……あぁ再婚で……」
納得が行った、とでも言いたげな表情を浮かべる幼馴染。
「そんなことより、なんで話しかけてくるんだよ! 俺はお前にフラれていらい顔も合わせたくないに……」
「顔を合わせたくないって……幼馴染なんだからしょうがないでしょ? 私を見返したいのか、分からないけど猛勉強して
「……」
余りの言い分に何も言い返せずにいるとこう付け加えた。
「それにあの先輩とは分かれたのよ?」
あの先輩と言うのはバスケ部OBの田辺先輩の事だろう。
しかし、今の俺にはどうだっていいことだ。
「……今も彼氏はいるんだろ?」
「あれから十人は出来たかしら……」
笑窪が可愛らしいこの幼馴染は、まるで男友達のような気安さで多くの非モテ男を勘違いさせる女で、それでいて運動が得意な陽キャに良くモテる。
「今でもお前のことが好きな気持ちはあるけど、あるからこそ会いたくないんだ。これからは街で会っても話しかけないでくれ……」
俺はバイクを押しその場を立ち去ろうと試みる。
「ちょっと待ってよ。別にあんたと付き合いたいなんて言ってないじゃないの……」
そう言うと立ち去ろうとする俺の腕を摑む。
「すいません。家の
言葉は丁寧だが拒絶の感情を色濃く感じさせる声音で、お願いといいつつもそれは命令に近いものだった。
「私達、幼馴染のことに口を挟まないでよ!
声を荒げ反論する。
なんでコイツはこんなに荒れているんだ? 親と喧嘩? ……それなら自室に引きこもったり、着替えてカラオケや漫画喫茶にでも行ってオールすればいいのに……
「すず。悪いんだけどウチの義姉さんのことを馬鹿にしないでくれよ……仮にも家族を馬鹿にされて「はい、そうですか」って黙って居られる訳ないじゃないか」
「でも長く過ごしているのは私よ? そりゃ告白は断ったけど……」
「告白を断られた事を恨んでいないと言えばウソになる。だけど俺は新しい家族を大事にしたいんだ。シスコンと言われてもいい偽物でも本物であろうと努力すれば、本物よりも歪でも、不格好でも俺はその方が価値があると思う……俺達はもう違う道を歩いているんだもう放っておいてくれないか?」
その言葉はすずに言い聞かせるというよりは、二年間も未練を引きずっている自分に言い聞かせるようなものだった。
恋だの愛だのと言う複数の感情の混合物に無理やり名前をつけるんだから、憧れや独占欲、所有欲なんかの綺麗で純粋な感情や汚く欲に塗れた感情と誤認するのも仕方がない。
俺は
「
「いえ。仕方ないことだと思っています。家族と呼んでもらえたことは本当に嬉しかったです」
「これから一緒にホンモノに近づけていきましょう。差し当たって、先ずは明日の食事の内一回は私が作りましょう。いつもはお母さんや、
「でも
「うん。タイタニックに乗ったつもりでいるよ……」
少しと言うには過分な不安を覚えるが、新しい事を始めるにはいい機会なのかもしれない。
ああ、今日は風呂に入る気力すら残っていない。早く制服を脱いで柔らかいベッドに倒れ、泥のように寝たい……
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『あとがき』
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【極めて小市民な悪役貴族によるスマート領地経営~悪の帝国の公爵家に転生した俺は相伝魔法【召喚魔法】で最強になる。やがて万魔の主と呼ばれる俺は、転生知識で領地を改革し破滅の未来を回避する~】
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