第38話ファミレス

 愛車を飛ばし二校目の中学校から帰っている時の事だった。


「面倒な相手が多かったなぁ……」


 独り言を呟きながらバイクを走らせる。

 帰宅ラッシュに突入したことが災いして、予定よりも時間がかかっている。


「不味いな……」


 スマホを見ると時刻は女の子の一人歩きを許容するには遅すぎる時間だった。

 するとスマホに一件の通知が来る。


【菜月】今日のご飯一緒に外食にしませんか?  



 今から帰って料理を作るのは正直勘弁願いたい。渡りに船と言わんばかりに菜月なつきさんの提案に乗る事にした。



いいですね? 菜月さんどこか行きたいところはありますか?


【菜月】そうですね……ファミリーレストランなんてどうでしょう?


いいですね……大体でいいので集合場所教えて貰ってもいいですか?


【菜月】分かりました。


 菜月さんが返信をして暫くすると、地図情報のURLが送られてくる……タイミング悪く信号が変わる。


「おっ、危ね、危ね」


 バイクを少し加速させてから、親指の腹でスマホの画面を触り位置情報をスマホに表示しルート案内を開始する。


「少し時間がかかるな……次の信号で先に頼んでおいて下さいって言って置くか……」


 そんな事を考えながらバイクを走らせる。


………

……


 店の駐輪場にバイクを止め、ドア開け店内に入る。

 ドアを開けると中から香ばしいチーズの匂いがフワリと香ってくる。

 店内に視線を向けると、店内は盛況と言った様子で座席は埋まっており、なんなら待ちの人間がいるほどだ。

 時刻は丁度夕飯時、塾前や仕事終わりのリーマンや家族連れ、オマケに就労していると思われる外国人で店内は一杯になっている。

 流石我らがサイゼリア……


 店内をきょろきょろしていると、店員に名前をボードに書くように促されるが……店内にツレがいる事を話して通して貰う。


 きょろきょろと辺りを見ながら、ボックス席に目を向けると、A4用紙を広げた制服姿の女の子が目に入った。

 腰まで伸びた濡羽ぬれば色の艶髪は、一本の枝毛もなく、店内の照明を反射し天使の輪を髪に描いている。

 後ろ姿からでも判る端正な顔立ちに、分厚い冬服の上からでも分かる程に引き締まったその躰は、モデル顔負けの抜群のスタイルと言って良く、青少年の情欲を掻き立てられる……まぁ義理姉菜月さんなんだけど……


 そんな彼女は今、絶賛三人の馬鹿に絡まれていた。


「ごめんなさい。今は家族ヒトを待っているので……」


 けんのある声で簡潔に答えると、鬱陶うっとおしそうに流し目でボックス席を囲む男子達を一瞥すると直ぐに視線をスマホに戻す。

 ストリート系が好きそうな金よりの茶髪のチャラ男が話しかける。


「そんな釣れない事いわずにさぁ、ちょっとだけお話ししようよ」


 低身長で少し太った如何にも不良と言った容姿の男が同意する。


「そうそう、先っちょだけ先っちょだけだから……」


「先っちょだけとか言って全部入れてだろ?」


「突き出た部分だし先っちょだけでしょ?」


 などと下品なジョークを言いうと三人でゲラゲラと笑う。

 どうやら俺を待っている間にナンパ野郎に絡まれてしまったみたいだ。

 一見、三人組は彼氏にするには適切な人間ではない。と個人的に感じるものの可愛らしい女性が一時の過ちとして、こう言う悪ぶった奴になびく気持ちは分からないでもない。

 最低限見てくれは悪くない彼ら三人は、根拠のない自身にあふれており、なよなよとした新学校の草食系男子よりは女子受けはいいように思う。事実、中学時代の塾帰り、こう言う制服の違うヤンキーと勉強が出来る女の子の組み合わせは結構多かった。

 確かに、菜月さんと居ても俺よりはさまになる。……なんて、完全に他人事みたいに考えてしまっていた。


 まぁ、ボックス席で一人座っているのだ。勘違いしたイケイケな奴らには格好の餌食と言っていいだろう。

 彼女の優れた容姿と躰はこういった害虫を呼び寄せるのだろう……


さて、どう解決したものか……


 二件だけだとは言えかなりの疲労感を感じている俺には今すぐやり合うほどの精神力は残っていない。出来るだけ穏便にかつ出来るだけ早期の収束が望まれる。

 

彼氏オトコがいると分かれば相手も引くか……


菜月なつきさんごめんなさい! と内心謝りながら開けていた距離を詰め、こう言った。


菜月なつきさんお待たせ、この人たちは知り合い?」


「あ゛? オメーなんだよ?」

 

 低身長の不良は、ナンパの邪魔しやがってと言いたげな表情を浮かべると、ギロリと下から睨み付け、ドスの効いた低音で威嚇してくる。が、低身長なせいか? 正直言って全く怖くない。ブルドッグが威嚇しているような可愛さすら感じる。あ、まったでもコイツの顔は可愛くない。


「その女性ヒトのツレだよ……で、お前達は何?」


 三人の制服をじっくり眺めると、ふと嫌な思い出と共に思い出した。松ヶ浜まつがはま高校と言う偏差値の余りよろしくない高校の制服だったのだ。

 なんで知っているのかって? 猛勉強する前の成績だとそこが滑り止めだったからだ。

 それに二度と会いたくない長南すず幼馴染が進学した高校だから記憶に残っているんだ。


容保かたもりくん……」


 心細かったのだろう。

 菜月なつきさんは噛み締めるように、俺の名前を口にした……


「それで、松ヶ浜まつがはまの生徒と何かはなしでもあったの?」


「いえ。私は何の用事もなかったんだけど……」


 そう言いながらあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべ、小さく溜息を付いた。


「なんで学校バレテるの!?」


 三人の内一人が驚愕の表情を浮かべる。


「お客様……」


 事態を嗅ぎ付けた店員が来て事態を収束させた。

 終始、笑顔のままでマニュアルと思われる文言だけでナンパ野郎を店外に追いやろうとするも、文句を垂れるヤンキー共。

 この情報社会でスマホと言う、移動型監視カメラが一人一台のレベルで普及するこの世の中で、よくもここまでバカなことが出来ると心底感心する。

 言い争う店員とヤンキー共の写真をパシャリと一枚とって置く……


「何してるの?」


 ヤンキー共が怖かったのか向かいの席に座ったのに、態々隣に座り直してくる。その甘えたがりな態度にドキッと来る。

 同じ洗剤・柔軟剤を使っているに……何でこんなにもいい匂いがするんだろう? シャンプー? リンス、ボディーソープそれともフェロモンの影響なのだろうか?


「お守りだよ」


 俺はそう言うと座席に座りメニュー表を眺める。


 ゴネるヤンキー共に最後の一撃を決める。警察呼びますよ? の一言で顔を青くして立ち去るそのようすは、滑稽以外の何物でもなかった。


………

……


 菜月なつきさんの勧めで普段は食べないサラダ系のメニューとドリア、シェア出来るピザなどを頼むと今日あった愚痴が始まった。


「私の方は色い良い返事は貰えなかったわ……」


「そうなんだ……」


容保かたもりくんはどうだった?」


「二校ともなんとか協力してくれることになったけど……あまり協力的はなかったね……」


「それでも協力を取り付けられたんだ……やっぱり容保かたもりくんは凄いなぁ……」


「そんなことないよ。今日断られたとしても日を改めて行ったり、他の学校から協力を打診して貰えばいい。もしそれが無理そうなら諦めるしかないけどね……」


「そうだね……」


 彼女の言葉には力が無かった。


一校目の半魚人もその上司もその態度は到底協力的といえるものではなかった……アレ半魚人の名前なんていったっけ? まぁいいか……


 二校目は純粋に直近で体育祭があるらしく、準備に追われており連絡が遅れてしまったらしい……本当かよ? と思ったのだが、プリントを配布し回収するだけと説明すると、少し時間はかかるけど責任をもって対応してくれる事になった。

 一校目にもこれぐらいの機転を利かせた対応をしてほしかった。


「暗い話はこの辺にして、美味しいご飯を食べようよ……」


「そうね……今は気にするよりも、気分転換した方がいいわね」


 そう言ってコップに口を付けるが、既にコップは空になっていた。

 コップをテーブルに置くと飲み物を取る為に、立ち上がろうとする。

 少し強引にコップを奪うと質問した。


「俺が取ってくるよ。何がいい?」


「ありがとう……じゃぁジンジャーエールをお願い」


「了解」


 短く返事を返すと、ドリンクバーに向かうため脚を進める。

 すると店内の至る所に掛けれらた。レプリカの数々に改めて圧倒される。

 ネットで見た話しによると、サイゼリアに始めて来た外国人の多くは、サイゼリアを高級レストランと勘違いするらしい。本当かよ……と懐疑的な目で見ていたのだが、コレは確かに高級店と言われれば信じてしまいそうになる。

 ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、『プリマヴェーラ』、ラファエロの『システィーナの聖母』、フラ・アンジェリコの『受胎告知』など宗教画や神話画は、陶器のような肌に塗られているものの極めて精密な絵画は、美術的なセンスの無い俺の目をも引き付ける。


おっといかんいかん。ジンジャーエールを補充しておかないと……と。


 ジンジャーエールとコーラを携えた俺は、菜月さんの待つボックス席に戻る。


「ありがとう」


 そう言って菜月さんは、ジンジャーエールの入ったコップを受け取る。


「いいよ。別に……今日は疲れたでしょ?」


「私も疲れたから、容保くんはもっと疲れたんじゃないかな? って思ったの……だから外食にしようって誘ったのよ」


「気を使ってくれてありがとう……それにしても金曜日でまだよかったよね」


「ホント。疲れるし、不快な気持ちになるしで何もいい事はなかったわ……独善的だけど、こんな人たちのためにボランティアをやらないといけないの? って何度思ったことか……」


「俺の担当の学校もそうだったよ。みんな仕事は増やしたく何だろうね……」


「そういうモノなのかしら……」


 小エビのサラダにフォークを刺して口に運ぶ、サイゼリアソースが程よくかかったサラダは、プリプリとしたエビの甘みとレタスのシャキシャキ感が良くマッチしていて旨い。


「そういうものなんだろうね……」


 そんな事を言いながら、匙でドリアを掬うと口に頬張る。

 ホワイトソースとミートソース、チーズの味が複雑に絡まった。

 深い味わいが舌を覆い尽くす。

 粉チーズが有料になったり、ドリアの上のミートソースから挽肉が少なくなったりと、昨今の物価上昇の影響が至るところに見え隠れしているのことが、この国の哀愁あいしゅうを感じさせる。


 個人的にはどこかで見たフォッカチオにガムシロップを付けるて食べる。と言うデザートをやりたいのだが、仮にも女の子を連れている今、そんな意地汚い真似をする勇気は無かった。


「今日は色々とありがとう。私のワガママでサイゼリアに行くことにして……助けてくれて……」


「そんな事無いよ。良い気分転換にもなったし、こっちこそ誘ってくれてありがとう」


「そう言って貰えてうれしいわ」





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『あとがき』


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