【第一部完】極めて小市民な悪役貴族によるスマート領地経営~悪の帝国の公爵家に転生した俺は相伝魔法【召喚魔法】で最強になる。やがて万魔の主と呼ばれる俺は、転生知識で領地を改革し破滅の未来を回避する~

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第一章 幼少期編

幼少期編

プロローグ

 革鎧に身を包んだ『盗賊』が姉妹と思われる二人に今、正に長剣を振り下ろさんとしていた。

 か弱く儚い乙女達の命を手折る事こそ『楽しみだ』、と言わんばかりに盗賊の口元が残虐に歪む。

 反撃されないと判っているため、大きく振り上げられた剣が月光を反射し、ギラリと輝く。


「おねえちゃん……」


 と、呼んだ幼女を、少女は庇うように抱き抱え自身の背中を賊に向ける。


「大丈夫、今度はお姉ちゃんが守るから……」


 と短く悲鳴混じりに言い聞かせるように呟いた。

 しかし、恐怖が勝るのかぶるぶると身体を震わせ瞳を強く目を閉じる。

 恐怖に震え下唇を噛み締めたその表情から、諦めにも似たもっと他の何かを感じる。

 憎しみだろうか? 絶望だろうか? ……少女でないその身では推察しか出来ない。もし少女に数%でもこの状況を覆せるような何かしらの術があったのなら、少女は迷うことなくその術を用いただろう。


 目を瞑った少女の網膜には、つい先ほど行われた凄惨な現場が焼き付いていた。

 複数の賊に囲まれ、自分を逃がすために鍬を持って孤軍奮闘する兄の姿が……血の海に沈む父の姿が……


 点在する家や納屋には火が放たれ、農具を手に戦う村民は盗賊の持つ剣や槍で殺されています。

 それは勿論……私の父兄も例外ではありませんでした。


「逃げろ! 逃げるんだ……」


 その叫びを最後に、兄もまた物言わぬ屍となる。

 少女はせめて妹だけはと、父や兄から受け継いだ思い託すことを決め、その身を挺して守る事を選んだのだ。


 しかし、現実はそう甘くはない。一界の村娘には盗賊をどうにかできるような力はないのだから……少女を待ち受ける結末は一つしか残されていなかった。

 幼女ともども今日、今この場で死ぬのだ。


 長剣が振り下ろされる……


 来るはずの衝撃と痛みがいつまで経っても来ない。

瞑っていた瞼を開き、何事かと襲い掛かる賊を見上げた。

すると長剣は何かに阻まれるようにピタリと止まっているのだ。


「えっ……」


 呆けたような気の抜けた声が少女の口から零れる。


 どうして私は斬られていないの?


 少女の脳裏を過ったのは生への喜びではなく、何故斬られていないのか? ただそその事象への疑問だけだった。


「な、なんだお前はッ!」


 盗賊はまるで凍り付いたように袈裟斬りの姿勢で動きを止め、何か化物でも見つけたように少女の少し後ろに視線を向けていた。

 完全に無防備なその姿は、驚き、恐怖と言った感情をありありと現わしていた。

 賊の視線をなぞるように首を回しながら、少女は顔を上げる。


 そこに居たのは、商人……否、大貴族が着るような立派なジャケットに身を包んだ場違いな少年の姿だった。

 夜空のような真っ黒なジャケットに黒いズボンを履いている。盗賊が持つ長剣と打ち合えば折れてしまいそうな、細い刀身の剣を一振り携えている。


「シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒト……」


「賊狩りの貴公子かっ!」


 『賊狩りの貴公子』、その二つ名には聞き覚えがあった。

 貴族の子息ながら自ら兵を率いて盗賊を狩ると……商人や旅芸人が語っていた公爵家の若き英雄だ。


 どたどたと足音を立てて盗賊達がベーゼヴィヒト様を取り囲む……


「一応言っておこう! 武装を捨て大人しく投降しろ。

奪った財や奴隷を提出し、縛に付け!」


 そう言い放った少年は、構えることすら面倒だとばかりに拾った棒でも乗せているかように剣を担いでいる。


 その姿を見て一回り以上違う盗賊達はゲラゲラと笑う。


「幾ら高名な賊狩りの貴公子とは言え所詮はガキ! この人数には勝てないよなぁっ!!」


 じりじりと摺り足でにじり寄る盗賊を相手に、「はぁ……」と深い溜息を付いたその時だった。


 陰のような何かが伸びると、盗賊達の胴と脚が二つに別たれた。

 ボトリと水分を含んだ肉が落ちる音がしたと思えば、せ返るような血の匂いが辺りに充満する。

 私は目で屍を捉えてようやく理解できた。

 斬ったのだ。

 たった一太刀の攻撃で、十人は優に超える盗賊を全て一刀の元に斬り伏せたのだ。


「大丈夫か?」


 噎せ返るような濃密な死の気配が漂うこの場で、ただ一人この少年だけはまるで、日常に居るかのような口調で私に話しかけてくる。


「もうすぐ救助が来る! それまで頑張れ……【治癒ヒール】」


 少年はそう言うと、逃げる時に擦ったり斬られた傷を魔法で癒し、ジャケットの上に羽織ったコートを掛けてくれるのだった。


 わたしは今日と言う日の事を生涯忘れる事は無いだろう……




―――――――――――――――――――――――――――――

『あとがき』


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『好きな幼馴染がバスケ部OBのチャラ男に寝取られたので、逃げ出したくて見返したくて猛勉強して難関私立に合格しました。「父さん再婚したいんだ」「別にいいけど……」継母の娘は超絶美少女でした』

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