第22話質問と風邪


 L H Rロングホームルームを終えた生徒たちは、池に投げ込まれたに群がるコイのように、俺と菜月なつきに群がっていた。


「お、おい! さっきの話本当なのか?」


――――と先陣を切ったのは、西郷さいごうだった。


「……事実だ」


 「「「Oh……」」」 


 俺の返答に男子たちは洋画のような声を上げる。


 目だけを左右に動かして周囲を窺うと、十人強の人間が行き場はなく俺を包囲している。

前にも後ろにも逃げ場ないその様子は、まるで異端審問のようだ。


(お前ら警察とか秘密結社とかかよ!……まぁ、気になるのは分かるけど、吊るし上げるほどでもないだろうに……)


 などと内心考えながら、短い溜息をつく……


 群がってこない落ち着いた生徒も居るには居るが……しっかり聞き耳は立てているようだ。


「何で本当のことを言ってくれなかったんだよ!」


 先ほども俺を囲んでいた男子が声を上げた。


「『中学は違うけど知り合いで親同士が仲が良いんだ』『菜月なつきさんは優しいから、グループに所属していない俺に気を使ってくれた』と言った言葉には何一つ嘘は付いていない。まぁ誤解を産むような言い方はしたけどな?」


「「「……」」」


 ようやく自分たちの言っていることの可笑しさに気が付いたようだ。

 中には納得できない奴も居るようで……


「先ずさ、義理の姉弟とかそう言うプライベートなことをほいほい言うデリカシーの無い奴ってお前ら信用できるか? 例えば西郷さいごうが熟女好きだとして……」


「おい! 俺を熟女好きに仕立てようとするな!」


 西郷さいごうから否定のツッコミが入るが一旦無視をする。


悪いな西郷さいごう……お前と菜月なつきさんぐらいしかクラスメイトの名前覚えてないんだ。

お前から話しかけて来た。お前の行動を恨むんだな……


「それを知り合って直ぐの最低一年ほぼ毎日顔を合わせる奴に言えるのか? 俺には無理なことだな。俺は良いんだけどさ、ただでさえ血の繋がらない男と一緒に暮らして、ストレスが溜まっている菜月なつきさんに、これ以上負担を掛けたくないだよ……」


 厳しい言葉の後に優しい言葉をかけることで、人はより優しい言葉を掛けられた。と誤認する。

 ブラック企業の洗脳や、DV男などが使うテクニックだ。

 マッチポンプや飴と鞭ともいう。


高須たかす……お前……いい奴なんだな……」


「普通、あれだけ美人な義理の姉ができれば、この世の春と思うハズなのに……自分のことじゃなくて、相手の事を考えるなんてお前すげぇいい奴なんだな」


――――と口々に俺を称賛する声が上がる。


「なんだよ。やぶから棒に……」


 俺は彼らの態度の変容に戸惑いを隠せずにいた。

 否、言葉や表現を選ばずに言えば引いていた。


「否、全然突然じゃないでしょ」

「そうそう、俺達はお前の行動を褒めてるの!」


「「「うん、うん」」」と、他の男子たちは頭を上下に振って頷いた。


「……自分ならどう思うかって考えただけだ」


 少しぶっきらぼうに返事を返す。


高須たかす……少し顔赤くないか?」


 西郷さいごうの言葉に俺は少しドキっとする。

 確かに褒め殺しされるようなこの現状に、俺は気恥ずかしいを覚えている。


「そ、そんなことはないと思うが……」


「もしかして……」


 西郷さいごうにこの事実を指摘されたら、俺は今よりも顔を赤く染めることだろう……

 その一言は以外なモノだった。


「風邪か?」


「え?」


「自覚ないならまだ引き始めか? 親の再婚とか高校入学とか急に美人な義理の姉弟が出来るとか、今までのストレスが出たんだろうな……」


 西郷さいごうの言葉に他の生徒も同調する。


「LIMEでも、今までの会話でも高須たかすくん気を使ってくれてる感強いもん。多分ストレスだよ」


「そうそう、学年のグループLIMEの利用で男女がもめた時も、Discordってアプリでゲーム用とか雑談用って用途を分けてくれたのも助かったしな……」


――――と俺からすれば何てことはない出来事でさえも、彼らからすれば気を使っているらしい。


「いいよ。あれぐらい。俺は出来ることをやっただけだし、同じグループでみんなが違う話をして揉めたり混乱するよりは、他のことは外部アプリでってした方が皆いいでしょ?」


 ウチのクラスの奴の利用がメインだが、クラス外の奴も使いたいというのなら使わせることはできる。

 “皆使っている” と言うこと以上の利便性を与えてやれば、人は他所へ移るのだ。


「バトロワ系FPSやるのに凄く便利だよ」


「それは良かった」


「今度、高須たかすもやろうぜ?」


「ああやろう」


 ――――と言葉を返すも内心では、(それって建前じゃないよね?)と疑ってしまっている自分がいる。


ホント自分の性格の悪さが嫌になる。


 リュックサックの中から常備薬の入った巾着を取り出す。

 絆創膏に湿布、包帯、などなどが入っている。


高須たかすって持病とかあるの?」


「いや、特にはないよ。あっても昔軽い喘息だったとかその程度……これは常備薬だ」


 ? が浮かんでいるクラスメイト達に説明をする。


「外で腹を降したら一大事だろ? 大に行けば小学校ではウンコマンとかトイレの神様とか言われかねないし、試験や電車なんかの逃げようのない場所や時に腹痛に襲われてしまうと……」


 俺の言葉で彼はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 皆、思い当たるフシや経験があったのだろう……


「そんな経験と不安から、俺は何種類かの常備薬を持ち歩いているという訳だ」


 そんなことを話している間に葛根湯かっこんとうを見つける。

 乾燥タイプなので水筒に入れた麦茶で飲み込む。

 西郷さいごうは男子が、聞き耳を立てていた女子が思っていたことを代弁した。


「お前……極度の心配性なんだな……」


「……」


 他愛ない会話をしていると、先ほどの担任……はて名前はなんて言ったか……がぱちぱちと手を叩きながら声を張る。


「はーい。皆さんお静かして、今から係り決めをしたいと思います」


 彼女の口調は中高生に言い聞かせるというよりは、小学校低学年に言うような言い方で恐らく距離感を摑みかねているのだろう……

 どうやら一時間目を潰してクラスでの係りや員会、掃除当番を決めるつもりのようだ。


 これは面倒ごとの予感がする。

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