第17話ぼっちは善意で晒される
昨日、入学祝いで食べた焼肉(食べ放題)の御かげで寝覚め悪い朝を迎えた俺。安めな脂で顔はテカり、胃もムカムカする。
「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」心の中の三倍速の赤い人語録に共感しつつ、階段を下る。
朝食のため、リビングからキッチンを目指すと、無駄に広いリビングのソファーに腰かけた
ゲームでもしているのだろうか?
そんなことを考えていると、ふと視線を上げた
「あっおはよう。今日は遅かったんだね」
「おはよう
「LIMEよ。学年LIME」
はて?、今時の学生はクラスLIMEどころか学年LIMEが存在するのか……
何となく “違う” と分かっていても、思わず確認せざる負えない性分が邪魔をしてしまう。
「中学の?」
高校のグループであってほしくないという。
蜘蛛の糸のような、か細い僅かな希望を打ち砕いて欲しくないという儚い願いは、次の瞬間には見事に断ち切られる。
「ううん。違うわ “高校” のLIMEグループね。入試の結果が出た段階で有志の生徒が、TwitterやInstagram、FacebookなんかのSNSを通じて呼びかけながら作ったみたいで、私もSNSを通じて招待されたのよ」
「へ、へぇ~。そ、そうなんだ……」
一応、SNSをやってはいるものの合格発表とかそういうツイートはしていないので、そういう繋がりに引っかからなかったのだろうと思う事にした。
他にそう言う奴が居たとしても、大体は同じ中学の奴に教えてもらって入るんだろうなと考える。
「もしかして、
「う、うん。実はそうなんだ。ウチの中学からは俺以外合格者いないし、SNSもあんまり積極的にやっている訳じゃないから……」
「じゃぁ私が招待しておくね。学年LIMEとクラスLIME……招待しておいたよ」
と満面の笑みで敵陣に目印付きで俺を放り込む。
「あ、ありがとう……」
一瞬。
「入ってないならもっと早く言ってくれればよかったのに……」
それはこっちのセリフだ!
と言いたくなる感情を抑え、今日の朝食は軽めにヨーグルトとグラノーラで済ませることにした。
「知らなかったんだから言いようがないよ」
どうせならLIMEではなくDiscordにして、様々な用途のチャンネルを作った方が、ゴチャゴチャせずに盛り上がると思うんだけどなぁ……
中学のクラスLIMEには参加はしているものの、基本的に通知をOFにして稀に既読を付けるだけにしている。
たいして仲がいい訳でもないのに、家でもクラスメイトに気を遣うなんて無駄なことをしたくないからだ。
「それもそうだね」
取り合えず招待を受け、両方のLIMEグループに同じ文章をコピペして張り付ける。
< 早苗高校新一年生学年グループ(200) Q 3 三
今日
10:11
菜月が容保をグループに招待しました。招待中の友達が参加するまでしばらくおまちください。
10:13
容保がグループに参加しました。
既読13 xx中学出身の高須容保(たかすかたもり)
10:14 です。趣味は料理と読書です。これからよ
ろしくお願いします。
皆ヒマなのかものの数秒で通知音が鳴り、「よろしく」とか「よろ」とか言った返事が返ってくる。
一先ず面倒ごとにはなっていないようだ。
だがこの誰が招待したのか一目で分かるこのシステムは、ボッチには辛いモノがある。
「学校の皆が好意的でよかったね」
両方のグループの過去ログを遡りながら、匙でシリアルを掬い口に運ぶ。
「このグループは普段どんなことを話してるの?」
「雑談がメインかなぁ~」
やっぱり人数が多いとコアな話題にはつながっていないようだ。
兄姉がいて過去問が流れて来ていれば儲けものと思っていたが……そんなに上手くはいかないようだ。
勉強があまり得意な方ではないので、過去問で下駄を履きたかったのだ。
「部活動紹介の時に過去問ってありますか? って聞いてみるか……」
運動部の連中にそこまでの脳があるとは思えないが、赤点で試合に出れません。とならないように過去何年もの過去問を保管している部活があるかもしれない。と考える。
どうやら俺の独り言が聞こえていたようだ。
「なんで早苗の過去問が欲しいの?」
「
中学一年時点で比較的高得点を元々取って居た奴らは、塾や兄姉、先輩から過去問を入手して高い順位を取って居た。
福沢諭吉は自著の「学問のす
それは、過去問の有無や理解している人に質問できて納得することが出来たり、助言を貰えることが出来 “出来た” とういう達成感よりも “やったところだ” という信じられる刹那的な快楽の方が楽しいと感じやすいからだ。
これはこの一年、受験のために塾に通って知った事実だ。
中学までは教科書が統一されているのだが、高校では千差万別と言ってよく、単元毎での大まかな予想を立てることはできても、その高校のレベルに合ったクリティカルなものではないのだ。
だから学習塾で過去問が入手できるかどうかは正直言って分からない。
「確かに過去問があれば楽だもんね……」
勉強が出来る部類の
訊けば彼女も、駅前の大手の学修塾に中学一年の頃から通っているらしい。
「元々ゲット出来たらラッキー程度のものなので、学習塾やYouTuberでやってる授業動画を見ながら勉強してみます」
結局、近道を探して直ぐに見つからないのならば、コツコツと勉強をするのが近道となる。
「それが一番無難よね……分からないところがあったら遠慮なく言ってね?」
「ありがとうございます。それと近日中に俺の後輩を呼ぶつもりなんですがいいですか?」
俺の言葉に
「後輩って男の子? それとも女の子?」
誤魔化してもしょうがない。
プライバシーもあるので全部は言えないが、触りまでなら問題ないだろう……
「……女の子です。一個下の奴で家族と中が悪いんですよ……」
ああ……そう言う系ね……とでも言いたげな表情を浮かべうん、うんと頷く。
「なるほど、そういう子ね……私は別に構わないわよ、私自身に特別何かしてほしいっていう訳じゃないんでしょ?」
「ただ、出来るだけ時間を潰させてあげたいって感じですかね……煩くならないように気を付けますし、リビングか俺の部屋に基本居るようにしますんで……」
「それなら後は一つだけ出来るだけ事前に連絡が欲しいかな……私も友達を呼ぶことになるかもしれないし……」
確かに
「俺のワガママを叶えて叶えてくれてありがとうございます」
「別にいいよ。もし悪いって思っているなら、お野菜……特に苦い奴は量を減らしてくれると嬉しいかなぁ~って」
どんな無茶ぶりが来るかと思えば、出てきた要望は比較的可愛らしいものだった。
苦手なものは無さそうだったのに……苦い野菜嫌いなのか……
「分かりました善処します。ピーマンはこれから使わないようにします。ピーマンはビタミンCを筆頭にβ-カロテン、ビタミンEなんかの含有率も高いので美容にもいいやつなんですが残念です」
「その言い方は意地悪に聞こえるなぁ……でもまぁ私、自他共に認める美少女だから! 天上天下唯我独尊」
と言いながら俺の部屋から持ち出した少年漫画の一コマのポーズを取る。
右手を頭上に掲げ、顎をクイっと上げて上から目線で眼下にいる人物を見下し、左手で指さすような姿勢だ。
『天上天下唯我独尊』と言う言葉は、世間一般としては、ヤンキー共が『俺最強』という意味で使っていたので傲慢な言葉として認識されているものの。少し教養のあるひとは、お釈迦さまことゴータマ・シッダールタが産まれた時に7歩あゆみ、右手を上に、左手を下に向けて呟いた言葉として知っていると思うが、お釈迦さま以前の仏陀(目覚めた人)の一人である
「最強コンビの白髪の方は、一度死にかけて真の最強に覚醒していたんで
下らない
「知ってるよそれぐらい。『適当』や『
「知って使っているならいんです。俺も “新語” や “スラング” 、 “ローカルなカタカナ用語” を使いますし……」
現代を生きる若者にとって “新語” や “スラング” 、 “ローカルなカタカナ用語” は直ぐに生えてくるもで時代を象徴したようなものだから、新しい文化と言うモノ事態を否定しているわけではない。
例えば明治では留年することを意味する「ドッペる」や一人で行動をすることをいみする「短期遠征」などは現代でも流行りそうな当時の新語だ。
アメリカなどででも、性的少数者……LGBTQIA+の人物達の一部は「
因みにそれを動画で見た後に調べたところ、
一昔前の『
昨今の日本でも「くん・ちゃん」ではなく、「さん」で統一するなどして性差のある言葉を学校教育内で使わないようにしており、教育実習に来た大学生も驚いていた。
だがマスク文化と同じように人は環境の変化に適応する。
「別に新しいモノを否定している訳ではなくて、
言語化すればなんてことはない。
中二病と高二病の中間期見たいなものだ。
ただの逆張り、言ってしまえば思春期の気の迷い。
成長の過程で自己を確立するための唯の停滞期でしかない。
「確かにそうかも、辞書的な意味を白井でも生活には困らないけど知っていているのと知らないのでは確かに違うわね……」
こういう変なところにこだわるから俺は勉強が進まないのだろう……
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