高校入学編
第16話高校入学
アレから自動車学校と自習、珠に後輩の面倒を見て過ごしていたら、あっという間に
高校入学前に行った車校も無事卒業し、卒検のみとなった四月の初週。
俺達は土手を歩いていた。
春の象徴
緩やかな流れは土手に並ぶ薄桃色の
雅な言い方をするなら”花疲れした
今日は高校の入学式だからだ。
周囲には俺達と同じ新一年生が歩いている。
真新しい濃紺のブレザーに、鮮やかに結ばれたタイやリボン・スカーフ。流石、地域一番のハイセンスを謳い文句にしているだけの事はある。
「ふぅ~っなんとか間に合ったわね……」
「
俺の額には汗が滲んでいた。
「ごめんて……でも間に合ったから結果オーライでしょ?」
俺はタオルで汗を拭いながら
「そんな訳ないじゃん! 新入生の挨拶するんでしょ?
先生方も困ってるって……」
ギリギリ受かった俺に比べ、この義姉は遥かに頭が良い。
なんなら新入生総代を任されているという。
「ぐっ! ……でも仕方ないでしょ。髪型が決まらなかったんだもん」
「可愛く言ってもダメなものはダメ、それに髪型が決まらないとかいつの時代のラブソングの歌詞だよ。秋元先生でも今時そんな歌詞書かないよ……多分」
ヘアスプレーとヘアアイロンで何分も格闘していただけあって、「元々芸能人かよ」と言いたくなくような容姿が数割増しに見える。
正に鬼に金棒。虎に翼、獅子に
因みに類義語としては、鬼に
「そんなことないと思うけどなぁ~」
市営バスから下車して走ること数分。
初めての経路での登校と言う事もあって、入学式から遅刻の危機であった。
温暖な春の陽気の中で “ブレザーの制服” を着ているせいかかなり暑い。
「確か校門を入って直ぐの掲示板でクラスを確認して教室に向かうんだっけ?」
「そう、だけど
ハンカチで汗を拭いながら彼女の歩幅に歩みを合わせる。
人だかりが出来ている掲示板に向けて歩いていくと……
「あら新入生ね」
声を掛けて来たのは、スラりとした背の高い女性だった。
肩程まで伸びた。濡羽色――やや青みを帯びた美しい艶髪の毛先は緩く巻かれており、
端正な顔立ち、そして分厚い冬服の上からでも分かる程に、肢体は引き締まっており、健康的な美を感じさせらる。
俺達を “新入生” と言う呼び方から察するに上級生だろう。
「はい。そうです」
「このコサージュを胸に付けて置いてね。新入生の目印だから……」
そう言うと……俺の胸元まで屈んで安全ピンでコサージュを縫い付ける。
シャンプー……否、リンス、コロンだろうか?
髪の毛からかそれとも制服?
兎角先輩から漂ってくる甘い良い香りで理性がガンガンと削られて行くのを感じた。
「はい。できたわよあなたも……」
そういうと菜月さんの方へ屈む。
内心のもう終わってしまったのかと言う気持ちと、理性が持って良かった。という安堵感で俺の内心は、四色定理で塗り分けられた絵画のように滅茶苦茶になっている。
まるでピカソの絵のようだ。
「改めて、入学おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「さ、早く掲示板を見て来た方がいいわよ。後からクラスに入るとそれだけで注目されるもの」
確かに不用意に目立ちたい訳ではないので先輩の助言には、素直に従おう……
「ご忠告ありがとうございます。では失礼します」
と言って礼をして立ち去ろうとした時だった。
「あ、先輩探しましたよ……生徒会の人達が先輩を探してて……私、どうしていいか分からなくてぇ~~」
どたどたとどんくさい足音を立てて、並みの中学生よりも背格好の小さな女性が走り走り寄ってくる。
しかも、ばいんばいんと大きな胸が揺れている。
すると万乳引力の法則によって揺れる胸に視線が吸い寄せられる……
「教えてくれてありがとう。
「げっ! 先輩私、また動くんですかぁ」
体躯の小さな女性は、やけにハイテンションで不満を述べる。
「そうじゃないと今以上に色んな所にお肉が付くわよ。それに単位オマケして貰ってるんだから、先生方から文句が出ない程度に働きなさい」
「はーい」
そんなやり取りを見せつけられながら先輩達は目の前から居なくなる。
「凄い人たちでしたね……」
「ああ、キャラ立ってるわ……やり取りから察するに3年生と2年生の可能性が……」
「まさか……でも胸は凄かったです。重そうです。重そうといえば
「まだ数キロですけどね。筋肉を付けているせいで全然体重が落ちないんですよ」
「まぁ仕方がないことだとおもいます」
おろし立ての冬服に身を包んだ少年少女達は、普段は見向きもされないであろう掲示板に群がっている。
俺の他にこの学校を受験した生徒を俺はしらない。
だから、クラス訳に対するドキドキなんてものはあまりない。強いて言えば可愛い女の子が同じクラスに居ればいいかな? と言う程度、狙ったレアキャラ引き当てる程度の確率を少し期待している程度だ。
カ〇コンが技術供与していると言われている。物欲センサーに引っかかる訳にはいかないからな……
物欲センサーを回避するよう。わざと聞こえるようにこう呟いた。
「俺のクラスはどこかな~~」
自分の名前を沢山あるクラスの中から探し出すのに苦労していると……
「あ、1組だって……」
俺の隣で鈴が転がるような声がする。
「
「何を隠そう私も1組なの」
「ああ、なるほど……」
自分の名前を探していたら偶然俺の名前も見つけたといったところだろうか。
「じゃぁ私、職員室に行ってくるから教室の雰囲気とか教えてね……」
「了解」
………
……
…
教室のドアは保護者や生徒への配慮のためか、前も後ろも空いている。
教室のドアに張り付けられた座席表を見るにどうやら俺の席は、前の方のようだ。
因みに俺の真後ろは、
「はぁ」
思わず短い溜息が口から洩れた。
別に面倒だとかうっとおしいと思っている訳ではない。
自分のせいではないのに不用意に注目されるのが嫌いなだけだ。
比較的空いている前のドアを潜る。
少し姿勢が悪いことを自覚しているので、胸を張って歩き始める。
教室に入ると複数の視線が俺に集まるのを感じる。
好奇心と品定めと言ったような少し不快になる視線だ。
向けられた視線を返すように軽く、教室内を軽く見渡すが見知った顔は存在しない。
機械的に名前順で割り当てられた座席は既に8割方埋まっている。残りの生徒もトイレや両親との写真撮影や、同じ中学の奴のクラスや座席に話に言っている。
俺はリュックサックを机の横に置いて、椅子を引いて席に座る。
暫く待つと恐らくこの学年を担任すると思われる教師が来て俺達を体育館に誘導する。
真新しいとは言えないものの、手入れの行き届いた体育館の中に中年男性の声が響いた。
「では新入生代表!
真新しい紺のブレザーに身を包んだ年頃の男女の中で、体育館への移動中に合流した
「はい!」
錆の浮いたパイプ椅子から立ち上がり、座席の間に開けられた道を通って行く……するとヒソヒソとした話し声と共に彼ら彼女らの視線が
「代表って事は成績トップって事でしょ……」
「勉強も顔面も強いって天は二物も三物も与えるのかよ……」
(容姿は生まれ持ってのものだが、二物も三物もという言い方は、彼女の努力を踏みにじっているようで癪に障る)
脇から回り込んで壇上の上に上がる。時代遅れの蛍光灯が集中して照らされているためか、少し顔が赤い。
緊張しているのだろうか?
胸ポケットからカンペを取り出して、スタンドに乗せられたマイクのスイッチを入れる。
するとスピーカーから、キーンというハウリング音が聞こえる。
だが焦ることはない。
「本日は私達新入生の為に、盛大な式典を開いて頂き誠にありがとうございます」
彼女の演説の読み合わせにはかなりの時間付き合っている。
容姿の整った人物が、表情と声のトーン、身振り手振りに気を使って話せばどう名乗るだろうか? 答えは単純、演説の中身関係なく彼女に好感を持つ人物が増えるという訳だ。
例えば、人間は印象によって物事を判断する動物である。対して似ていないモノ真似でも誇張して印象の操作すれば一芸になる。
「暖かく穏やかな春の陽気に包まれ、私達はこの、伝統ある学園の一員となりました。新しく始まる学校生活では、学業はもちろん学校行事や部活動にも励み、自分自身を向上させていきたいと思っております。本日は盛大な式典を挙行していただき誠にありがとうございました」
声の調子や抑揚、聖母マリアのステンドグラスやモナ・リザが浮かべているような柔和な微笑を浮かべつつ、出席者や重要な人物への目配せをする事で、自分個人に訴えていると錯覚させるテクニックだ。
内申点で有利になるために、生徒会役員共またはそれに準じる役を経験したいという明確な目標の有る
まぁ本人曰く、保険とのことだがそこまで器用に立ち回れる自信のない俺には真似できない芸当だ。
こうして俺の新しい生活が始まった。
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