第15話リクエスト

「容保くん大好き!」

 

 そういうと一目も気にせず抱きついて来る。


(ちょ! いきなり抱きついて来るなよな! 

その大好きってグラム幾らの大好きですか? 

『愛』と一緒でコンビニの棚に298円ぐらいで並んでるんですか? だったら買うけど……)


「あくまで自分好みの料理なんであんま期待しないように」


「はーい」


 間延びした返事が返ってきた。


 カゴの乗ったカートに頼まれた野菜や肉をいれていると、少し離れたお菓子コーナーが目に入った。


「あー お菓子買おうよ! お菓子!!」


「いいですね!予算は潤沢ではないので一人500円程度でお願いします」


「はーい」


 と元気よく返事を返すと、お菓子コーナーに向かていく……


 チョコやらガムやらクッキーやらが乗せられていく……そう言う俺が買うのはガムの類。

 口を動かすことで満腹中枢を刺激し、空腹感を紛らわせることができるからだ。


「調味料探してくるからカート任せてもいい?」


「判ったわ」


 趣味の中華料理で各種ジャンを使いすぎたことを思い出し調味料売り場へ移動、両手で抱えたジャン数種をカートのカゴに入れる。



「ほぇー、結構買うんだね」


「趣味で使うからね、量が欲しいんだよ」


「小鉢とか容保くんが作ってるもんね、調味料は使うか……」


「まぁそんな感じかな」


 そんなことを言いながら、小松菜、豆乳、豚挽肉、花椒ホアジャオ、中華麺を購入する。

 今日は担々麵の気分だ。


「コロッケでも買ってく? ここの牛コロッケおいしいんだよ」


「そうなんだ。じゃあ二個買わない?」


「いいね」



 帰りながら食べたコロッケは緊張で味なんて分からなかった。



 他愛ない話をしている間に俺達の家に着いたのだが……

何故か菜月なつきさんは『高須』と書かれた表札をじっと見つめながら立ち止まった。

不思議に思いながらも開錠し振り向いたのだが、未だに門の所で脚を止めている。


 訝し気に自分を見つめている視線に気が付いたのか、止まっていた彼女は動き出す。


「あぁーっ、えーっと、なんていうか……ちょっと、言葉が見つからないんですけど、ここが新しい自分の家なんだなって、改めて実感した。といいますか……」


 彼女の言葉はそれでは終わらない。


「それで……もう自分の家になる訳なので、『お邪魔します』は違うし、『失礼します』じゃ他人行儀すぎでしょ?

かと言って無言っていうわけにもいかないくて……何て言えばいいのかなって、不意に考えてしまって……」


 二週間程度が経過したとは言え、彼女にとっては未だこの家は自分の家ではないのだろう。


その気持ちは十二分に判る。


 俺も菜月なつきさんや雪菜ゆきなさん……旧姓『鎌倉』家のことを “家族” と呼べるほど心を許せているわけではないからだ。

 

「俺も『お邪魔します』とか『失礼します』なんて言われるの嫌ですよ

いきなり“家族” になるのは難しいかもしれないけど、そうやって言葉で線を引いてたらいつまでも関係はかわらないんじゃないかな?

『いらっしゃい』って返すような関係より『ただいま』『お帰り』の方がいいな」


 俺は買い物袋を玄関に置く。

 ドアを空いたままにできる程大きく開け、未だに止まったままの菜月なつきさんの手首の辺りを摑む。


「続柄としても菜月なつきさんは俺の義姉だ。

初対面の時に菜月なつきさんが俺に言ったことだろう?」


「……」


「だから、俺がここを菜月なつきさんが帰る場所、帰ってきたいと思える家にするよ

その手始めに、『お帰り菜月なつきさん』」


「……はい、ただいま容保かたもりくん。

自分で義姉を名乗っておいてこんなに気を遣わせるなんて……

私、義姉あね失格ね」


 そう言った菜月なつきさんの表情カオはまだどこか暗い。


「義姉って言っても一ヶ月やそこらの違いじゃないですか、

べつに無理に義姉ぶらなくてもいいんですよ? 

だって家族として義姉弟きょうだいとして新人なんですから」


「あははははは、そうですね。私、思い詰めて馬鹿見たい」


 遠慮なく笑う菜月なつきさん。

今までの作り物のような張り付いた笑顔より、多少表情が崩れていても今の向日葵のような笑顔の方が親しみやすい。


「でも、やっぱり私の方がお義姉ちゃんなのよ

同級生で血の繋がらない姉弟、だから面倒なことや我儘を沢山言うかもしれない。

やっぱり私みたいな美人な義姉がいう我儘って、男の子的には役得なものなのかしら?」



 困り顔の俺を見ているのが楽しいらしい


 俺が摑んだままの手を引いていっしょに家に入ると、タイミング良く吹いた強風でドアが閉まる。春風だろうか?



「女の子はね、みんな面倒なの。

それに……義姉と言う者は弟を振り回す者だって

容保かたもりくんの視聴履歴にあったんだけど……」


「誇張されたフィクションと現実を一緒くたにしないでください。

それと親しき中にもプライバシーへの配慮ありでお願いします。」


 呆れ顔の俺に向けて満面の笑みで菜月なつきさんはこう言った。


「お帰りなさい容保かたもりくん。

改めて、ふつつかな義姉ですが今後ともよろしく」



 そんな義姉と食べるため作った担々麵は、いつもよりも少しだけ美味しかった。





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『あとがき』


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新作異世界転生ファンタジーのもよろしくお願いします

【極めて小市民な悪役貴族によるスマート領地経営~悪の帝国の公爵家に転生した俺は相伝魔法【召喚魔法】で最強になる。やがて万魔の主と呼ばれる俺は、転生知識で領地を改革し破滅の未来を回避する~】

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