第14話買い出し

 菜月なつきさんと俺が学校を自主的に休んでから二週間が経過し、双方が通っている中学校も無事、自由登校期間を迎えていた。


 この二週間で何となくたが家事の分担や、旧鎌倉家との味のすり合わせ(あくまで基本的な)も終わり、俺の作り置き総菜や小鉢品程度なら邪魔にならないことが分かったので、料理への参加を希望したのだが……



「本当に容保くんは気が利くのね、正直ありがたいわ。

私も今はまだ忙しいからやってくれると助かります。

でもね、今は一番成長に大切な時期だから自分を優先していいのよ。

 作った料理や使った材料を家族LIMEで共有すれば、買い物管理も楽になるわね、でもくれぐれも無理はしないでね。」 



 ――――とは義母の雪菜ゆきなさんの談である。



 父子家庭で殆ど仕方なく(現実逃避と言う実利も兼ねて)料理を始めたが、元々おいしいモノを食べることが好きな自分には合っていたのだろう……今は結構楽しく料理してる。


 そんな話し合いの結果、現在は昼食と夕食の仕込みが主に俺の担当だ。

それ以外の家事から解放された俺には結構空き時間ができた。


 父さんからも「今まで家のことを任せてしまって済まなかった。資格や高校の予習で金が必要なら言ってくれ。」と有難いお言葉と資金援助の申し出があったので、折角だから『普通二輪免許』を取る事にしたのだ。

中学校に行っていないのも全ては車校で免許を取るためだった。


 今日は座学も教習もなかったので、家で勉強を……と思っていたのだが雪菜ゆきなさんから買ってきて欲しいと言われた物があるのを思い出し、隣の部屋をノックする。


容保かたもりくんどうしたの?」


甘い香りと共に、ラフな格好で半身を乗り出した美女と目が合った。

 

「俺、今日は特に予定なくて雪菜ゆきなさんから頼まれた買い物に行ってくるつもりなんだけど、どうする?」


 補足すると別に俺が彼女と会話したくってノックしたわけではない。

先日互いの関係性を深めるため、家にいるときは向き合ってやり取りをする。と菜月さんの要望で(ここ重要!)決まったのでその約束を果たしているという訳だ。



「うーん、予習も飽きたし私も行こうかな?

そろそろ日に当たらにとカビちゃいそうだしねw

あっ、でも春の方が紫外線が強いって言うし、日焼けしちゃうかな?」


 そういうと運んだ時に無駄に重かった化粧机の引き出しから何かを取り出してくる。


「それは?」


「ん? 日焼け止めだよ。

容保かたもりくん肌白くて綺麗だから焼けるともったいないでしょ?」


「俺は焼けても気にしないよ……」


「ダメ、ダメ、ダメっ! ぜーったいダメ!! 

義姉あねとして綺麗な義弟ぎていの肌が焼けるのは気にいらないの!!」


「はぁ……」



 美容に疎い俺にはよくわからない概念だ。

顔がテカらず不潔でなく、体臭がきにならなければ良いんじゃないのか?



「実感なさそうな表情かおしてるけどこれは決定事項です。 

義姉あね特権として義弟おとうとの美容は私が守る!! 

と言う訳で私も塗るけど容保かたもりも塗ってね。

はい、コレあげる」



 そう言って差し出された日焼け止めを受け取ると腕や顔、首周りに塗りたくる。

 ベタ付きが嫌いなのだが、これにはそう言った不快感がない。


「えへへへ、いいでしょこれ? 嫌なベタ付きが全然ないのよ」


「そうですね。これなら俺が塗ってもいいかも……」


「今の時代、男女関係なく美容に気を遣う人は居る訳で、恥ずかしがる必要はないんだよ?」


 彼女は彼女なりの方法で距離を近づけようとしてくれている。


「三分……否、30秒で支度してくるから待ってて!」


 数日前ロードショーでやっていた落ちモノ系ヒロインが出てくる作品でもオーマージュしたつもりなのだろうか?


「30秒や3分と言わず30分ぐらいは全然待つよ……」


「やさしい男はモテる……と思うよ!」


「そこは嘘でも断言してください」


 そんな心配りを俺はありがたいなと思いつつ、俺達二人は家をでて近所のスーパーに向かう。


 ここまでの美女と二人で歩いていると流石に緊張する


 スズやサラと比べ、頭一つ抜け出た女優顔負けの美女とのお出かけ、しかもその隣を歩いていると思うと、急に周囲の視線が気になる。


高校入学までに少しは体重落さないとな……


「今日は何を買うんですか?」


 家の近所にある何件ものスーパーマーケットや、薬と化粧品も売ってるスーパー状態のドラッグストアを、モノによって買い回り、その差額を小遣いにしていた買い物マスターな俺だが、さすがに菜月さんを連れまわすほどの根性はない。



 そのため徒歩圏内で大型のスーパーマーケットに来ていた。

 

 菜月さんの今日のお買い物着は上下のパーカーと、オシャレさに欠けるものではあったが、美女が着るパーカーはそこら辺のハイブランドにも負けていない気がする。


雪菜ゆきなさんに頼まれた野菜とかお肉がメインかな……」


「それならそんなに重くならなそうだね」


「ちなみにお昼はどんなものが食べたいですか?」


「そうだね……こってり系かな」


「菜月さんって案外女の子っぽいもの好みませんよね……」


 個人的に女性は、パンケーキとパスタやサラダチキンが基本メニューというド偏見があったのだが、菜月さんの好みは男子高校生並みに茶色い系の食事なのだ。


「容保くん、いいかい! 人間というのはね『売れてる』とか『期間限定』とか『○○で人気沸騰』とかそういう情報を食っているのよ」


「は、はぁ……」

なんか変なスイッチが入ってしまったらしい。




「土用の丑の日にウナギを食べるだって『う』の付くものなら本来何でもいいハズなんだけど、平賀源内の御蔭で私たちはウナギを食べてる……」


「因みに私はブヨブヨとした皮と小骨が多いからあんまり好きじゃない」と付け加える。


「御節料理だってここ100年、200年ちょっとの新しい風習だし、だから私は情報をたべることをすることはあってもリピートするのは気に入ったものだけなの、パスタをあまり食べないのはレトルトソースを買えば私でも美味しい料理が出来るから」


「つまり、美味しいモノが食べたいと……」


「イグザクトリー」


「わかりました! 出来るだけのことはしましょう……」


 俺は商店街にある洋食屋の一人息子ではないので、「この程度の○○くらい、俺だってつくれらー!!」と言って料理勝負をすることはない。

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