第13話母の温かさ
いかん、いかん、病人相手に劣情を抱くなんて情けない……
そうだ。飲み物でも出してあげよう……しかし、何を出すべきか……
「飲み物、なにか要る?」
「じゃぁあったかい紅茶を……」
電気ケトルで沸騰させた湯を150mlほどコップにティーバッグと一緒に淹れ、蓋をして蒸らす蒸らし終われば数回ティーバッグを振って取り出すと、クッキーと一緒にソファーの前のテーブルの上に置く。
両の手で抱え込むようにコップを持つ。
「暖かい……」
不意に口を付くように零れた言葉の語気は弱々しい。
短い付き合いではあるが、見知っている『鎌倉菜月』と言う人物に比べても体調のせいかいつになく静かだ。
目的もなくただ誰かといたい。
けど自分からは何もしない。
何と言うか、猫みたいだ。
いつもなら、俺から話題を振ると言うよりは菜月さんは話題を提供してくれるから、彼女が黙れば俺達が言葉を交わすことは少ない。
こういう変化した一面を味わうと、俺は菜月さんに甘えているのだと強く実感する。
暦の上ではもうすぐ “春” とはいえどまだ冷える。
俺も麦茶ではなく、カフェオレにするべきだったと反省する。
「……」
「えっと……テレビでも見る? って言っても、この時間だと報道バライティとか街をぶらついている番組が多いと思うけど……」
「えっとじゃぁお願いしようかな……出来るだけ煩くないヤツ」
チャンネルを回すが予想通り、中高生が面白いと思うような番組はやっていない。
窓ガラスの反射で、菜月さんの顔が見えるが露骨につまらなそうな表情を浮かべている。
「テレビはやっぱりゴールデンタイムとか土日の7~10しかだめだな……」
「最近はゴールデンタイムも予算が掛からなさそうな、クイズ番組とか番付番組とか、歌番組とかが多いですけどね……」
最近のテレビは、取り合えず付けて置くには、煩い。
「体調が悪いと毒舌ですね……」
「女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているのだから、きっとその毒舌はスパイスの刺激でしょうね……」
マザーグース、ナーサリーライムとも言われる童謡・歌謡は、聖書、シェイクスピアと並ぶ英米人の基礎教養であものの、日本の学校教育ではあまりその出番はない。
「上手いこといいますね」
「インドではスパイスの配合が家庭の味と聞きます。お菓子にも料理にも香辛料は切っても切り離せない関係にあるのは、マザーグースの辿り付いた真実なのかもしれません」
「……そんな今日は毒舌の菜月さんでもご満足いただけるような番組があるかもしれませんよ?」
俺はテレビのリモコンを押す。
画面にはスマートテレビ特有のUIが表示される。
「動画配信サービスか……」
「ウチは四つのサービスを使っていますけど、月額5000円いかないぐらいで数十万本の動画を楽しめるので便利ですよ?」
「おじさんが言っていた通り、お家に籠る方がいいんですね……」
「新型感染症で外で娯楽を楽しむことが難しかったですから……スマホでも見れるのでまた後日、アカウントの共有をしておきましょう……何か見たい番組はありますか?」
無料をサイトを含めれば8サービスを使っているのできっと菜月さんの気に入る番組もあるハズだ。
彼女もどんな番組があるのか分かっていないようなので、映画……特に恋愛映画とドラマをメインでスクロールしていく……
「……ではジャンルはなんでもいいので、
と、言われも基本的にはアニメや特撮、戦争映画をメインで見る俺にオススメの作品と言われても……一般人受けする作品には明るくない。
恋愛アニメならまだいいか……実写映画もやった有名な作品を付ける。
「じゃぁこれで……」
全十二話のアニメを付ける……
内容としては王道の男女同数の多角関係の作品で互いのスレ違いを描いた作品だ。
………
……
…
「面白かったです……」
「映画版だと端折ってる内容をそのままやれるのは尺に余裕のあるアニメやドラマ版の強みだよな……」
一番人気があるのは当然、メインヒロインなのだが個人的にはメインヒロインというのは中庸なキャラ……言い方を変えれば作者の性癖が籠っていないキャラが多く二番目、三番目とヒロインが増える毎に作者の癖度とその作品にまだいない属性のヒロインが増えていく……
そして大体俺が好きになるのは、二番目か三番目のヒロインや幼馴染やお姉さんタイプで大体ヒロインレースで負ける。
この作品でも負ける。
そうして作者は、俺のお気に入りを滑り台送りにするのんだ(憤怒)
「映画版はそんなに違うものなんですか?」
原作やアニメ版を知らない人間からすれば、唯一のメディア作品である映画版、よしんば見ても原作の漫画版しか見たことはないのだから原作、アニメ、映画版とあってもその細かな違いにまで、知っている人間は少ないだろう。
「よかったら見てみます?」
「いいの?」
「はい。確かこのサービスで……ほらあった」
映画版を再生する。
ふとスマホに目をやると、そろそろ時刻は少し遅めの昼食ごろ、作るのも食べるのも楽なものにしようか……
俺はソファーから立ち上がると、キッチンの方へ向かい冷蔵庫を開けた。
すると書置きと共に昼食が中には入っていた。
『二人分の昼食です。レンジで温めて食べてください
ははより』
義理とは言え流石母、俺達の思考をよく理解している。
総菜や小鉢の作り置きは二人の舌に合わないといけないので、二人が越してくると決まった時に全て終わらせてあるので、今日は一から料理を作らないといけないと思ったのだが、義母が料理を作って置いてくれてあるのは有難い。
小鉢や料理を作って置くにしても、比較対象がほしいからな……
誰かに作って貰った”家庭料理”は酷く温かい味がした。
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