第3話再婚
仕事の為か? 外食が多かった父のせいで冷蔵庫で萎びかけていたキャベツを大量消費するため、
父は缶ビール片手にプロ野球を観戦していた。
「はい。枝豆と中華冷奴」
小鉢に移した冷凍枝豆はともかく、豆腐は賞味期限の都合上、明日の味噌汁の具か昼食の冷奴になるハズだったので丁度いい。
豆腐に、
「ありがとうな」
「いいよ。賞味期限近い豆腐と冷凍モノの枝豆だから直ぐだせるし……今、
「父さんな、
普段とは違い、随分と改まった態度でそう言った父。
何というか笑ってはいけないのは分かるけど、普段と雰囲気が違い過ぎて笑ってしまいそうになる。
「早く帰って来たと思えば急に何?」
俺はいつものテンションを保とうとして、無理に上ずった声でそう言った。
すると――――
「いいから聞きなさい。お前も座れ……」
「
いつもなら、「お茶がほしいって合図? もしかして
……気まずい。
まるでそんなに会った事のない、親戚の葬式に招かれた時みたいだ。「ご愁傷様です」以外の言葉が出てこないアレだ。
底冷えする葬儀場の中、ギシギシと軋むパイプ椅子に長時間座り、焼香の時間になれば既に脚は痺れ、アレ?焼香のやり方ってどうだっけ? と前の人を観察する、あれだ。
坊さんの読経の上手い下手、容姿の面白い人やアレ絶対親族だろ……という答えの分からない無駄遊びに興じる以外、やる事の無い苦痛な時間に似ている。
テレビからは『素晴らしい活躍ですね』などと、相変わらず中身のないアナウンサーのトークが聞こえ、アメリカで活躍する選手が相手チームを抑える、まるでお通夜みたいな試合風景が流れているばかりである。
そして、その静寂を破ったのは父だった。
「父さん、お前に話があるんだ。お前も薄々気が付いていたかもしれないが実は……」
え? どっち系の話? 実は……の後って無限に変化球ある。
「好きな人がいるんだ」とかその亜種の「再婚するんだ」とか、「お前の本当の父親ではないんだ、実は取り違た子供で……」見たいな、今流行の
「お前に許嫁がいる事を黙ってたんだ」とか、「実は父さん男としてではなく女として生きたいんだ」とか……今直ぐパッと思いつくその後の言葉だけでも、数種類は出て来るんだどれが来てもこのシングル家庭が多く、多様性を叫ぶこの時代には可笑しくない。
身構えておかないと……そして父さんのためにも、どんな変化球が来ても同様した素振りは見せない完璧なキャッチャーようにしないと……
この間僅か0.5秒!!
「実は……父さんな、好きな人が出来て結婚する事になったんだ」
「それは素直におめでとう……」
続柄上、自分の継母になるのだから事前に顔合わせぐらいはしておきたかった。と言う言葉を飲み込んだせいで思わずぶっきらぼうな声音で答えてしまった。
人間幾つになっても色恋をしていいと思っている。
僕としては別に再婚自体に反対するつもりはない。
男手一つで義務教育まで育て上げ、ひと段落ついたのだから、自分の人生に華を添える事自体に、異を唱え
想定していた話題の中で一番現実味があって、
――――と思う反面、相手がどんな方なのか分からないので、諸手を上げて大歓迎とは言えない。
例えば相手が夜のお仕事とかだと、幾ら職に貴賤はないと言う建前とはいえ、万人に喜ばれる仕事ではない。
逆にいい年した男が息子とそう変わらない年齢の女性を掴まえて来たら、犯罪ではないモノの無性にロリコンコールをしたくなる。
(ロリロリローリロリ、ロリロリローリロリ)
女房と畳は新しい方がいい。という奴だろうか?
因みに『畳』を『味噌』に変えると古い方が良くなる←これマメな
そう言う年頃の複雑な心境も理解して欲しいとまでは言わないが、あんたも男なら忘れて欲しくない。
「実は話しておかないといけない事があってな……」
ホラ来た。追加効果発動!……って事は、さっきの「好きな人が出来たんだ」発言は、
「でなに? 再婚するのは構わないけど、せめて再婚を決める前に顔合わせぐらいはさせてほしかったな……」
「す、すまん……もう決めたことだけど、顔合わせの食事会をやろうと思ってな。時間を融通してくれないか?」
現在受験の結果待ちで、自由登校前だがセルフ自由登校している身としては否とはいえない。
「構わないよ」
「そう言ってもらえると思って、先方の都合に合わせると言ってしまってね……女の子だから美容院にも行きたいだろうしね。」
思わずジト目で父さんを見る。
父よ、それはセッティングとは言わない。
ただ単に俺の退路を断っただけだ。
どうせ、俺が結婚に反対しても「まぁそう言わずに、会うだけでいいんだ」とでも言い、何かと理由を付けて面談には持っていくつもりでセッティングしていたのだろう……
――――それに女の子? それは義母の事だろか? 年齢が離れていれば父からすれば成人女性でも女の子なのかもしれないが、仮にも妻となる女性に対する言い方だろうか?
「……娘さんでもいるの?」
「女の子だから娘に決まっているだろう?」
何を言っているんだ? とでも言いたげな表情を浮かべるその顔は酒のせいか赤かった。
おい父よ、相手の家族構成すら聞いてないんだが――――
どうやらアルコールが回って脳が機能していないようだ。
「……まぁこれから家族になると言っても、血のつながりもそれを埋めるような時間を共に過ごしている訳でもない。
同居人、俺の恋人とその娘 程度に思えばいいさ、そうだな……強いて言えば家族(仮)だな」
昔流行ったソシャゲのタイトル風に弄って来やがった。
鳶が鷹を生むと言う訳ではないが、いわゆる価値観の形成が
「ちな、いつになったら(仮)が取れるんだろうね……」
「最初は本当に仮のタイトルだったらしいが、ゲームは10年以上も(仮)が取れず今じゃ(仮)が正式なタイトルだ。
今度の家族のカタチももしかしたら一生(仮)のままかもしれん……つまりは、まぁそう言う事だ。
仮にも受験生にガタガタ言って悪かったな……」
――――と少しだけ反省の色を覗かせる。
「本当だよ全く……高校に入学してからで良かっただろう?」
俺は少し嫌味を言った。
「すまんな。今日は遅くに付き合わせて悪かった……早く寝なさい」
「へいへい」と生返事を返し、俺は二階へと続く階段を昇る。
今は居ない母が着けたやけにカラフルなネームプレート『KATAMORI』が今日は自棄に目に留まり、その小洒落たフォントから ~(仮)でない~ あの時の家族の香りがした。
自室のドアを開け、倒れる様にベッドに横たわった。
俺、どんな顔して新しい家族に会えばいいのか分からないよ!
心の中で
「うるせぇ! よッ!」
俺は枕を放り投げ毛布に顔を埋めた。
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