第23話係り決め


「まだチャイム鳴ってませんよ?」


「そうだそうだ」


 ――――と声が上がるが……


「お話したい気持ちは分かりますが、高校は義務教育ではありませんので……これから半年、一年と気持ちよく過ごしていくには役割を決めることが必要です」


 先生の言う事は間違っていない。

 学校で必要なことなのだから、それを決める時間が設けられているだけ儲けものと言っていい。


「それに皆さんは考え付かないかもしれませんが、オリエンテーションでは格教室の案内をするので、今を逃すと放課後に決めることになって帰る時間が遅くなります。今、放課を少し削れば帰る時間が早くなります。そうすれば、仲のいい子とカラオケやボーリング、ファミレスで談笑することもできますよ?」


 デメリットとメリットを提示することで合理性を示す実に正しいやり方だ。

 教師の一言に納得する人は2、3割、渋々ながらと従うのが同程度ではあるものの皆、席に戻る。


「――――では、学級委員から決めて行きましょう……昨今、教育委員会やPTAが色々と煩いので委員会は男女一名ずつとします」


 男女から不満の声が上がる。

 今までの経験から何となくでも、皆面倒降そうな委員会や係りの想像は付くのだろう……


 まぁ男女居ると便利なことは多いわな……


 男子たちは明確なスクールカーストを決め切れていないので、コミュ力の高い奴や大人しそうな奴に押し付けようと、耳打ちが始まっている。


 机にしまったスマホの画面が点灯していることに気が付いた。



 【西郷】 すまんが男子が揉めないために学級委員になってくれ……



 まぁそうなるよな……


 俺は西郷に向けて親指を立てると、西郷も親指を立て返した。


 一方女子は……


「やっぱり、菜月なつきちゃん一択でしょ?」


「それな!」


 少しギャルギャルしい陽キャ達からの推薦を貰っており、断ることは難しそうな雰囲気だ。

 ――――とは言え、自分ったちより可愛い菜月なつきさんを虐めている訳でも、面倒な仕事を押し付けている訳ではなく、電子世界での文字やり取りで培った『信頼』関係のようなモノを感じる。


「で、俺達はどうするよ」


 ――――と声を上げたのは、西郷さいごうだった。


「自薦、他薦は問わないと言ってもまだ誰も手を上げていないからなぁ」


「選びようがない」


 俺以外の男子共にしてみれば、今やクラス委員と言うモノは面倒ごとの象徴ではなく、クラス……否、学年、学校でも指折りな美少女の隣に立つことが出来る存在である。

 自薦は恥ずかしい。とは言え誰かに押し付けるのであれば、菜月なつきが恋人として選ぶことの無さそうな人物がいい。

 でも出来れば自分にその役目が来るように立ち回りたい。というのが多くのクラスメイトの偽らざる本音だろう。


「じゃぁ俺が……」


 ――――と空気を読まず手を上げようとした男子生徒は、他の男子達からの一睨みで上げかけた手を後ろに回し、バツ悪そうな表情を浮かべるとワザとらしく、吹けない口笛を吹く素振りを見せる。


「誰かいないの?」


 ――――と教師は声を上げる。

 どうやらタイムリミッドは近そうだ。と感じた一部の男子達は妥協の一手を打とうとする。

 彼の中にはある共通見解があった。

「イケメンやトークが上手い奴でなければ、鎌倉菜月かまくらなつきが落とされることはないだろう」と、そして「義理とは言え姉弟なんだから、高須容保たかすかたもりなら大丈夫だと」アイコンタクトでそれらを互いに確認しあった男子生徒十数名は、代表いけにえ西郷さいごうを指名すると行動に打って出た。


西郷さいごうくん立候補してくれるの?」


「いえ、高須容保たかすかたもりくんを推薦したいと思います」


 西郷さいごうの一言で十数人の輪に入っていなかった生徒も、西郷さいごう派の意図を理解したようで……


「俺も高須たかすを推薦する」


高須たかすは良い奴だからな無難にまとめてくれるさ……」


 ――――と中途半端に肯定的な意見が男子から上がる。

 女子達も俺の名前が上がった事に関しては、利害の一致の妥協の産物でしかないことは分かっているものの下心満載の男が委員になるよりはマシと判断したのか、消極的な賛成を示してくれる。


「えーご指名頂いた人気ナンバー10の高須容保たかすかたもりです。大和ホテルに乗ったつもりで任せてください」


 ――――と精一杯分かりやすいネタで挨拶をする。


 自分の知名度が高い訳ではない。

 俺の知名度はあくまでも菜月なつきさんによるところが大きい。

 だから俺自身のことを知ってもらうためにはインパクトが必要なのだ。


「なんでホスト風の挨拶なんだよ! ネタに走るなら大口叩いてナンバーワンって言えよ!」


「私がNo 1! ってか? それ流石にそんなイタイ大口を叩けるほど精神が幼い訳でも、イケメンなわけでもないんだから、罰ゲームをするわけないだろ!」


「ネタに走ってるだけで十分イタイわ!」


「それになんだよ『大和ホテル』って…… “大船おおぶね” って言いたいのかよ! ならせめて座礁も転覆も轟沈もしない船にしてくれ……って戦艦ヤマトは沈んでるじゃねーか」


「冷えたビールやラムネ、アイスクリームと言ったモノを製造・提供できる設備を持ち、将校は良いメシを食べられたという戦艦大和のような大船にのったつもりで、任せて欲しいって言いたいだけだ」


 小粋なトークの御蔭かクラスの男子達と一部の女子達がどっと沸いた。

 しかしそれは一部、雑学を知らない人間からすれば寒いだけだ。


 まあ摑みは重畳。

 

「はぁ……小粋なトークはいいから、こっからは学級委員に仕切りは任せるから前へ……」


 呆れ声の教師に促され、俺達は二人は教壇へ向かう。


「では委員会から決めて行きたいと思います。複数希望があった場合はジャンケンで決めます。じゃぁ先ず保険委員から……」


 思いの他早く、委員会や係りは決まった。




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『あとがき』


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