第3話 山田組のファミレス会合
「名前も好きなんだ。『
「良い名前だと思う」
「なんか、雅な名前でさ、本人にもよく合ってた。出しゃばってこないのに、よく笑ってくれて、楽しい子でさ」
「そうだね」
「良い子だよね?」
「良い子だと思う」
“あー、そうそう。この人のこういう所、本当に鈍くてしんどかったわ”
当時に戻ったようなスッキリとしない感じ。いくら過去の話と言えど、あまり良い気はしない。けれど、目の前で嬉しそうに話している彼を見てしまうと「しょうがないか」て。「私しか聞いてやれない」なんて思ってしまうんだよね。
「こなっちゃんの話とか、他の人ともする?」
「しないしない! この事知ってるのだって、そんないないし、しょう子くらいしか話せないよ」
こう言われてしまっては、私はもう何も言えません。
「こなっちゃんの名前出すのも久しぶり。うあー、色々と思い出してきた」
「記憶蘇った?」
「蘇った。小5小6は同じクラスだったからなぁ……毎日楽しかったなぁ……」
10年経ってまで、私は何をしているんだと思う反面、10年も前の事で、終わった話なのだから笑って聞いてやろうとも思った。当時の事を「そうか、そうか」と聞いていると、不意に陽人がこちらに話題を振る。
「しょう子は?」
「はん?」
「しょう子は当時、誰好きだった?」
ついに来たか、その質問……。
「聞いたことないと思って。でもいるって言ってたよね?たしか」
「……んー」
緊張してしまって、変な間が出来てしまう。
「……」
「……」
私の反応を何かを感じたらしい陽人がパチパチと瞬きをした。
「えーと、もう時効だと思うから言うけどね」
いくら本人とは言え、10年も前の話するのって、こんなに緊張するんだ。正直、目は見れなかった。意気地なしである。
「私、陽人の事が好きだったんだよね……」
◇
「そう言ったら、陽人が目をこーんな見開いて『えー!?』って」
「やばー」
木曜、夜9時のファミレスで遅めの夕食を食べながら、書道教室の連れ2人に私は、正月からの出来事を披露していた。
「あいつ全然気付いてなかったらしくて、だからこれまでの事、全部言ってやったよ。『好きな人から恋愛相談される15歳の私の気持ちを想像してごらんよ』ってね。『それは辛いな』って言われた」
「おお、おお。それしか言いよう無いわな」
「でね、『言ってよー!』って。『言ってくれたら、なんか違ってたかもしれないじゃん!』ってさ」
「え!? それってアリだったって事!?」
「いや……それは違うと思うけどね。『だって、こなっちゃん好きだったのに、無理じゃん』って言ったら『ああ、そうか……』って言ってたし」
「なんだよ……」
「でもね『しょう子は昔から大人っぽくて綺麗』って言ってくれてさ。綺麗だって!」
「やばー!!」
「その言葉が聞けて、中学生の頃の辛い片想いしてた私がちょっと救われた気がしたなぁ。これで、私の引き摺ってた初恋も、ようやく区切りがつけられる気がする。消化されたかなーって」
「え、消化? 『綺麗』って言われたんでしょ?」
「んふふ、うん」
格好付けて、なんて事ない風に話していたけれど、やっぱり嬉しかったからか、思わず笑いが溢れてしまう。そんな私のだらしない表情を見て、彩ちゃんは「嬉しそうな顔」と言って、私の頬をつついた。
「それって、逆にアリなんじゃない?」
「へ?」
「新しい恋! 始まるかもじゃん!」
「それは無い。彼女いらっしゃるんで」
「あー……」
「さーせん、ドリンク取りに行ってきていい?」
この集まり唯一の男の子、誠也くんが右手を顔横くらいで、小さく挙手をしながら口を開いた。
「いってらっしゃーい」
「誠也くん、私もコーヒー欲しいな。しょう子ちゃんは?」
「私はラテ」
「そんなに持てないよ」
「お盆を使いなさい」
「へーい」
隔週の木曜日、書道教室に通い始めて2年になる。そこで、同じクラスの2人、鈴木彩奈と重守誠也とは稽古終わりに近所のファミレスで、一緒に夕飯を食べるのが定番になっている。彩ちゃんは歳が1つ上で、誠也くんは同い年。私の行っているクラスは、高校生から80代までの幅広い年齢層もあってか、同年代の2人とは自然と仲良くなった。山田雪舟先生に師事しているから、彩ちゃんは私達の事を山田組と呼ぶ。最も、呼んでるのは彩ちゃんだけなのだが。
「あららー、陽人くんは彼女持ちか……って、彼女持ちは、しょう子ちゃんと出掛けて大丈夫なの?」
「陽人曰く、大丈夫なんだって。私もちゃんと聞いたんだけど、仕事関係の飲み会とか多いからお出掛けに関して、放任なんだってさ」
ドリンクバーでテキパキと私達の分も用意してくれている誠也くんの背中を眺めながら、話を続ける。
「正直な話、期待は0じゃなかったんだ。でも、昔好きだった人であって、今好きな人じゃないからね」
「期待しちゃうの分かるよ。というか、運命じゃない? 今は好きじゃないとか言ってても、いつの間にか付き合う事になったりするんじゃない?」
「運命!? いや〜……いやいや」
「だって、ドラマみたいな再会じゃん!! ドラマだったら、再会した2人が結婚したりするじゃん」
「結婚!?」
「やばーい!」
「彩ちゃん! それ、全部妄想だからね!」
「照れんな照れんな」
「照れてない!」
「ねぇ」
白い歯を覗かせながら、ニヤニヤしていた彩ちゃんがいきなりスンっと真顔になる。
「話、大分戻るけど、占い凄くない?」
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