第11話 野次馬根性に拍手を







 4月、桜も散らきって、そろそろ毛虫の季節だろうという頃合いだ。



 こなっちゃんと陽人と3人での食事会の日である。陽人から、こなっちゃんは地元埼玉にいると聞いていたけれど、私も陽人も都内住みだからという事で、此方まで出てきてくれた。



「こなっちゃーん!」

「しょう子!」



 仕事終わりに待ち合わせた駅の改札を出たところには、既にこなっちゃんがいた。彼女とは、成人式の時に一緒に写真を撮っていたから、大人になってからの容姿が記憶にあったので、見てすぐに本人であると分かった。成人式の時とは違い、髪の毛は品の良いブラウンで、長いらしいそれを綺麗に纏めていた。とても大人っぽい印象だ。

 手を振るこなっちゃんへ駆け寄る。



「ごめんね、お待たせ! 今日は、こっちまで出て来てくれて、ありがとう」

「全然大丈夫だよ。私、仕事休みだもん。2人はお仕事お疲れ様」

「ありがとう〜……って、陽人は? まだ?」

「まだみたい。しょう子と合流したよって連絡入れておくね」



言うとすぐにスマフォを取り出して、こなっちゃんは陽人に連絡を入れた。私もこなっちゃんに会うのは5年ぶりだし、何の仕事してるとか、いつ陽人と再会したとかそんな事を話して時間を潰す。

 陽人は、15分もしない内に合流したが、2人で待っている間に陽人とこなっちゃんが会った時の話を少し聞いた。どうやら陽人は、川口まで帰って、こなっちゃんに会いに行っていたらしい。結構な行動力である。こなっちゃんによれば、その時に私の話が出て、今日の食事会へと繋がったんだとか。




「陽人がしょう子にその時の彼女との事とか相談乗って貰ったのに、速攻別れる事になって、申し訳ないような恥ずかしいような気不味くなったって言うから、私面白くなっちゃって」

「別れちゃった話ね」



こなっちゃんが思い出し笑いを噛み殺そうとしているが、結局堪えられず「くふふ」と笑った。



「私も聞いた時、こんなに急なのって絶対陽人がフラれたでしょって思った」

「あ、そうなの? どっちが振ったとか聞いてなかったから」

「これは邪推だよ。私も陽人から聞いてないもん。でも別れようと思ってる相談内容じゃ無かったし」

「それは、邪推じゃなくて女の勘てやつじゃない?」




こなっちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべながら私を見る。その顔を見て懐かしさを感じた。



「そっか。女の勘ね」



こなっちゃんは、面白い事が好きで、友達同士の恋バナとかを聞くのも好きだったなぁと思い出した。でも彼女、口が固いから、そういう所も好かれていた。私も好きだった。




「陽人がね、しょう子はアドバイスが凄い説得力だって言っててね、あまりにも的確だから、結婚に一度失敗してるとか言うの」

「はぁー?あいつ、何をしょうもない事言ってんの」


頼りにされているのは嬉しいが、何分こなっちゃんを前に調子に乗りすぎだ。今度、チクチク言ってやろう。




「ねぇー。流石の私も、これはテキトー言ってるなって思ったけど。でもしょう子の事はめっちゃ頼りにしてるんだなぁって懐かしくなっちゃった。昔から仲良いもんね、2人」

「え? そう?」

「うん。だからずっと繋がってると思ってたの。陽人の話とか聞いてて。そしたら、最近再会したって言うから、びっくりしたよ」

「そんなに? 本当にずっと会ってなかったよ。でも結構すんなり元の距離感に戻れたかな」

「友達ってそうなんだろうね」

「友達……」



ジクジク……嬉しいはずの言葉が少し痛い。続ける言葉に迷っていると、陽人が息を切らしてやって来た。無事に合流となったので、この話も一旦終わりとなった。







 行く事になっていた南大門という韓国料理屋は、待ち合わせたしてた最寄駅から徒歩15分ほど離れたところにあった。店の名前の印象から少し古びた小汚い店を想像していたけれど、最近改装したらしく、店構えは洒落ていた。

 店に入って店員さんに声を掛けると、好きな席へ座ってくれと言われた。店の混み具合は、そこそこといった所だろう。何処にしようかなんて、3人でキョロキョロしていた時だ。




“!?”



「え!?」





思わず声が出た。だって、そこには彩ちゃんがいる。そして、誠也くんと思わしき背中が見える。

 一度目を瞑って、もう一度見てみるけれど、何度見てもよく知った2人がいるのだ。




「ねぇ、あの席は? ……ん? しょう子?」



陽人に声を掛けられて、我に帰った私は、慌てて陽人を振り返る。誤魔化そうとして、余計に怪しい動きをしてしまった。



「え!? 何!?」



声も変に大きくて、上擦っていると分かる。



「席……」

「うん! そこにしよう!」

「しょう子、」

「はい!」



こなっちゃんに声を掛けられて、彼女に目をやると彼女は彩ちゃんと誠也くんが座っていた方を向いたまま、そちら側を指差しながら「知り合い?」と尋ねてきた。

 改めてそちら目をやると、彩ちゃんは満面の笑みで手を振っているし、誠也くんは此方を振り返って、ぺこりと会釈した。


 釣られて、こなっちゃんと陽人も会釈を返していた。



「と、友達なの」

「え!? すっごい偶然!」



もう誤魔化せないと思って、観念する。素直に驚くこなっちゃんに、此方は変に恥ずかしくなった。




“絶対に仕込みです! 小夏さん!”





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