第12話 野次馬根性に拍手を2




「あ、友達の近くの席、空いてるね。そっちがいい?」



陽人が気を回してくれるが、近くは嫌だ。だって、あの2人は、陽人とこなっちゃんと私の関係性を全部知ってる2人なのだから。



「いや、遠くていい」

「そ、そう? でも挨拶しておいでよ。俺達、先に座ってるから」

「うん、ちょっと行ってくる」



すっごく心を砕いて、優しく喋った。本音を言えば、今にも発狂しそうなのだ。叫び出したいのをぐっと堪えて、満足に呼吸もできず、彩ちゃん達の元は向かう。



「やぁやぁ、奇遇ですね」



誠也くんは、表情ひとつ変えずに私を見上げた。その態とらしい物言いに、舌打ちしてやりたいのを堪える。胸がザワザワして、自嘲めいた笑いが込み上げて、口が半笑いになってしまう。



「……何してるの?」

「ご飯を食べに来た」

「誠也くん! からかいに来たでしょう!」



誠也くんの返事にイライラして、つい強い言い方をしてしまった。責めるみたいな言い方に、誠也くんは目を丸くしてキョトンとした。




「からかう?」



本気で、そんな気がない事は、顔や声、普段の誠也くんを思えば分かったが、それでも文句の一つも言いたくて、私はまた責め立てた。




「こんな所まで野次馬しに来て!」

「……」

「……しょ、しょう子ちゃんごめんね〜」



何も言わずに黙ってる誠也くんに代わって、彩ちゃんが謝罪をする。



「からかいに来たっていうつもりはなくて、心配になっちゃって」

「彩ちゃんまで……悪ノリしすぎだよ……」



正直、2人を見つけた時、私は嬉しかったのだ。安心して、そしたら物凄くイライラしてきて、叫び出したくなった。2人はイラついているのか、陽人とこなっちゃんにイラついているのか、自分でもよく分からない。だから、多分これは八つ当たりなのだ。そう自覚したら、今度は情けなくて、悲しくなって来た。



「しょう子ちゃん……ごめんて、そんな顔しないで」



彩ちゃんが席を立って、私の肩を抱き寄せる。



「会話を盗み聞きしようとか、面白そうだからとかじゃなくてね。しんどくなったらいつでも抜けて来なよって言いたかったんだよ、誠也くんは」

「え、俺!?」

「ね? 言ってくれれば、いつでも連れ出してあげるから。」

「彩ちゃん……」

「だから、そんな怒らないで」

「言ってくれれば……」

「そりゃ、言わないよ。こんなの余計なお世話だもん」



彩ちゃんは眉をハの字に下げて、困ったような笑顔を作る。



「辛い、無理ってなったら言いな。LINEでも、こっちの席へ逃げて来ても、何でもいいよ。私と誠也くんで、何が何でも連れ出す。強引にでもね」

「そ、……そんな事を言われたら、泣きたくなってしまうよぉ……」

「いや、早い早い! だから、大船に乗ったつもりで行ってらっしゃいな」

「……」

「……」



誠也くんは、相変わらず何も言わなかった。彼と合わせていた視線を彩ちゃんは戻して、私は頷いた。出かけた涙を深呼吸を繰り返す事で、引っ込ませる。




「行ってきます」

「……行ってらっしゃい」

「頑張ってねーん!」




最後に誠也へ視線を向けたけど、彼と視線は合わなかった。




「誠也くん」



私の声に応える様に誠也くんの目線が上がる。ようやく目が合ったら、私はまた泣きたい様な気持ちになった。



「ありがとう。……ごめんね」



八つ当たりした事、謝ると誠也くんが少しだけ目を丸くして、ほんの少しだけ笑った。


「……俺もごめん」



私はもう一度深呼吸をして、気持ちを切り替える。陽人とこなっちゃんを探して、そちらへ行くと、2人はメニューを見ていた。先に私に気が付いた陽人が声を掛けてくれる。



「おかえりー……って、なんか良い事あった?」

「え?」



陽人の言葉に釣られて、こなっちゃんが私を振り返る。



「本当だ。しょう子、嬉しそう」





こんなにザワザワしているのに、どうやら私はニヤけていたらしい。


 さっきは驚いて誠也くんに食ってかかってしまったけれど、本当は分かっている。誠也くんは普段、嫌がらせやからかいなんてして来ない。以前電話で話した時、誠也くんの『行ってやろうか?』に私が食いついたから、気に掛けてくれたんだろう。

 2人とも忙しいのに、わざわざ時間を割いて、いつでも割って入って、私を攫える所に居ようってしてくれる事がどれだけ有り難い事か、ちゃんと分かっている。大人になってから、こんなに大事に思って貰える友達に出会えるなんて、私は幸せ者だと思う。


 本当に、大事な大事な友達なのだ。




「まさか、こんな所で会うと思わないから、ビックリして、笑えてきちゃって」

「何繋がりの友達なの?」



こなっちゃんの隣に腰を落ち着けながら応える。



「習い事。隔週で、お習字やってるんだ」

「へぇー、そうなの! 大人の習い事いいね」

「うん、楽しいよ。何頼むか決めた?」

「チャミスル」



陽人が答える。



「あと、どうしようか? サムギョプサルでいい? チュクミもあるけど」

「お肉食べたい」



こなっちゃんの要望でお肉に決定した。




「チヂミどうする?」

「食べよう!」

「私、白ごはん欲しい……」

「しょう子は、肉と一緒にご飯も行きたい派なんだ」

「陽人もでしょー? こなっちゃんは?」

「私、炭水化物はチヂミで摂りたい派かな」

「あ、チヂミはエゴマとチーズか、海鮮か、豚キムチだって。どうする?」

「エゴマの葉って?」

「独特な香りの葉っぱ」

「……海鮮にしようか」



陽人の英断により、海鮮チヂミに決定した。では、店員さんを呼ぼうと声を上げる。




「すみませーん!」



こうして初恋と、初恋の初恋と、私の食事会が始まった。


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