第21話 初恋と初恋の初恋は、進展しない





 陽人のLINEにより、誠也くんと誠也くんのファンの集いが実現する事が決定した。詳細はこれから詰めていく形になるけれど、まずはその旨伝えなければと思って、2人に連絡をした。陽人はすぐに「嬉しい!」と素直な返信が来たけれど、こなっちゃんから返信が来たのは、1日経ってからだった。




『ごめん、脳が追いつかなくて』

『本当に良いんですか? 迷惑ではないですか?』




 彼女の動揺が伝わってくるようで、画面を見ながら笑ってしまった。こなっちゃんに『気負わなくていいよ』というような内容を送ってから、『申し訳ないけど、こなっちゃんが東京まで出て来れる日に合わさせて欲しい』旨を連続して送れば、こなっちゃんからは『当然そのつもりでございます! 馳せ参じます!』と返信があった。




 日程や店のすり合わせは、私が間に入って行った。誠也くんは、私の手間を気にして連絡先を2人に教えていいと言ってくれたけれど、それは2人と誠也くんが本当に友達になってからにしようと説得して、現状に留まっている。皆それぞれ仕事もあるし、間に私を挟むやり取りは少し時間が掛かったけれど、GW明けてからに決まったし、お店も決まった。その頃には、3人で食事会に行ってから1週間ちょっと経っていた。そんな頃だ。こなっちゃんから、会えないか?と連絡が来た。誠也くんの事以外で、彼女と連絡を取った事がないので、それ関係だろうか?と予想する。

毎回毎回こなっちゃんにこっちに来てもらうのは悪いので、たまには私がそっちへ行こうかと思い、スケジュールを確認した。



『5月に入ってからでも良ければ、そっちに行く用事があるから、その時とかどうかな?』



そう提案するが、急ぎの用なのか、彼女は4月のうちに自分が早番の日に此方まで出て来ると言う。申し訳ないと思いつつも、差し迫った用事なのかと思い、こなっちゃんの都合が良い日に此方へ来てもらう事となった。








“……そういえば、陽人はちゃんとこなっちゃんをデートに誘えたのだろうか?”







ふと、思い出してこちらにも連絡を入れる。



 陽人は前回の食事会から、3日ほど密にこなっちゃんと連絡を取り合っていたらしい事を聞いたが、上手いデートの口実が見つけられないと嘆いていた。改めて、その後の進捗を聞くと、共通の趣味である特撮は、劇場版が上映されるのが、夏なのでそんな遥か先の約束をして止まっているそうだ。阿呆か。




『は?』

『じゃあ、夏まで2人で会わないつもり??』




不甲斐ない陽人に呆れてしまって、ついつい強い書き方をしてしまった。女心の分からない人だとは薄々思っていたけれど、呑気も呑気……相手が私なら、陽人に合わせていくらでも待つけれど……そんなに甘くないはずだ。これは惚れた弱みという奴だから。その調子でよく今まで歴代彼女を口説き落としてきたものだ。



『しつこく誘ってウザがられたくなくて』



陽人の言い分はこうであるが、それじゃあ私は納得しないだ。




『私の高校の同級生(既婚女性)は言いました。男女の恋愛は出会って3ヶ月で、片が付く』


『え、まじ?』


『どこかのお笑い芸人(独身男性)は言いました。2週間連絡を取らなくなったら、お互いに興味が無くなった印なのだ』


『まじでか』


『恋愛は、世間一般ではスピード勝負です』

『早く彼女の興味を引くネタを探しなさい』


『すみません……』


『特撮以外に共通の趣味はないの?』


『分かりません……』



“いや、分かりませんじゃないから!!”



『探せっ!!!』


『はい……』







「はぁー……」




 無意識のレベルで溜め息が出る。自分の耳で重々しいこの音を聞いて、自分が溜め息を吐いているのだと理解する。


 その音は学生時代を思い出させる。当時、私はこんなに陽人に親身になってアドバイスしたり、アプローチの作戦を立てたりなんて、していなかった。ただ、彼の惚気と「切なくて苦しいのだ」という悲劇のヒロインのような愚痴の聞き役を懲りずにずっと続けていただけだった。あの時も、自分の気持ちが漏れないように唇を噛みながら、ひたすら話を聞いて、陽人の「しょう子だけ」って甘い言葉に優越感を感じて、それが中毒みたいになっていた。けれど、1人になると、今みたいにずっと溜め息をついていた。重くて重くて、虚しさと悔しさで重くなる胸を少しでも軽くしたくて、息ばかり吐いた。



“あー! ダメだ引き摺られる!”



両手で視界を塞いで頭を振る。囚われるな囚われるなと必死で言い聞かせる。また誠也くんの声を思い出した。





「ちゃんと向き合って。それで、しょこたの事を見もせん男は、忘れろ」





 ザワザワ、ドロドロとした気持ちが少し落ち着いた気がして、私はゆっくり視界を塞ぐ両手をどけた。そうして最後にもう一度息を吐いて、気を取り直す。



 本来、こういう事は陽人自身で頑張らねばいけない事だと思うから、敢えて彼には言わずにいたけれど、今度こなっちゃんに会う事になっているから、それとなく彼女の好きな物を調査しておいてやろうと思った。陽人がほとほと困り果てたって時に助言の一つもしてやれないんじゃあ、アドバイザーとは言えないしね。しかし、今回はそれで良いとしても、陽人が目指している『対等』で素を見せ合える関係性は、きっと共通の趣味だけじゃなく、好きな物、嫌いな物、何に喜んで、何に怒るのか……それを隠さず教えて貰える間柄になるって事だろうと思う。というか、必須事項だろう。自力で相手に心を開いてもらわなければ意味がないのだ。だから、私は決してこちらから「手伝いますよ」と言ってはいけない。



“私、優秀すぎないか?……それにしても……”




この陽人のもたつき加減を見ていると、こなっちゃんて相当心のガードが堅いタイプなのかもしれないな……。



 ……と、そんな事を考えていた3日前の自分に言ってやりたい。私が10年も夢を見続けた陽人は、多分こと恋愛において、しょーもないポンコツだぞって。




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