第33話 誠也くんとファンの集い2






 お酒さえ入れば、陽気になる面子が揃っていたらしい。最初は、あれだけ緊張していたのに、乾杯してお酒を飲みすすめた今は、時々敬語が飛び出しながらも、タメ口で皆楽しげに話をしていた。同い年であれば、昔観ていた番組も、聞いていた歌も同じわけで、懐かしトークに花が咲いていた。



「ガンダムと言ったら〜? せーのっ!」


「SEED!」

「オルフェンズ!」

「oo(ダブルオー)!」

「……」




 こなっちゃんの掛け声に続いて、私以外の3人が快活に自分にとっての思い出のガンダムシリーズを叫んだ。



「S EEDって、古すぎるでしょう、こなっちゃん!」

「オルフェンズは新すぎるでしょう、陽人!」

「新しくないよ!」

「というか、アナザーガンダムばっかりだね」



 ケタケタと楽しそう方を震わせる3人をポカーンと見つめる。いくらお酒が入れば陽気になれる連中が集まっていたとは言え、なんて楽しそうなんだ。それも初対面で。私は、もっとビクついた固い飲み会を想像していたのだが……それは、大きく裏切られた。



「重守くんは、oo(ダブルオー)なの? 『俺が、ガンダムだ!』」

「あー! 藤原さん、馬鹿にしてるだろう。かっこいいのに」

「分かる。私、刹那の声聞いた時、カッコ良すぎて衝撃的でした」

「俺も衝撃的でした。カッコ良すぎて……」

「俺はoo見てなかったんですよね〜」

「市川くん、観てないの!?」

「……待って待って、話を腰を折ってごめんなんだけど、アナザーガンダムって、そもそも何?」



 私の乱入に3人とも似たような顔で目をぱちぱちと瞬きしてから、「えー!」と驚きの声をあげる。まるで、話について来れない人がいるとは思わなかったとでも言いたげな反応に、私は疎外感から唇を尖らせた。



「なんか除け者にされてるみたいな反応! イヤ!」

「あー! ごめんごめん」



 目の前のこなっちゃんが慌てて私の手を撫で摩って、慰める。



「しょう子は、ガンダム観てないの?」



 陽人が目の前の鰹のタタキに箸を伸ばしながら尋ねる。




「観てない……ね。というか、やってた?」

「やってたよ!」




またここで3人の声が重なる。




「幼稚園の時に」

「高校の時に」

「小学生の時に」


「……なんて?」




 そうして、3人が全く別の事を、声を揃えて言うのだから大変だ。私は聖徳太子じゃないんだぞ。




「だからね、私が言いたいのは、丁度、世代になる時期にやってなかったでしょ?って。適齢期に放送してなかったでしょ?って言ってるの」

「ガンダムに適齢期はない」

「それな」




言い切る誠也くんに2人が同意する。



「面白いからって言うんでしょ?」

「その通り」

「当時のアニメーションて、今と違って1年とか放送するじゃん。長いから追いつけないよ」

「まあ……」

「確かに……」

「どれも50話くらいはあるもんね……」

「SEEDに関しては、続編も50話くらいあるんじゃない?」

「超大作なの!」



グッと拳を握って力む、こなっちゃん。そして私を見て、少し声のトーンを落ち着けた。



「しょう子は、所謂オタク〜って趣味じゃないんだね」

「え? でもしょう子って、凄い漫画好きじゃなかった?」



 こなっちゃんの言葉に陽人が首を傾げた。



「俺、しょう子と趣味合わねーなーって思ってた記憶あるもん」



 確かにそれは、事実だった。陽人は、男子バレー部に入ってから、バレーの話ばっかりで、共通の話題0だったのだ。懐かしい。



「私が好きだったのは、少年漫画と少女漫画だし、原作厨なの。原作を先に読んじゃったら、アニメは観ない」

「へぇ! そういう感じだったんだね」



 純粋に感嘆の声をあげるこなっちゃんとは、打って変わって、陽人はビシッと私を指さすと、指摘するような口調で言う。



「しょう子! しげちゃんを前にして、なんて言い草なんだ!」

「だーかーらー」



 面倒臭い絡み方をしてくる陽人に思わず厳しい声が上がるし、眉毛も真ん中に寄せてしまう。



「誠也くんの前ではそういう話してなかったのー」

「あ。俺、気ィ遣われてたんだ」

「待って待って! 原作に先に出会っちゃうと、アニメも実写も無理なんだよね?」

「そう」

「じゃあ、原作読んでなければ……?」

「アニメも観れるよ」

「へへへへ」



 陽人が変な引き笑いをするので、さっきよりもっと深い皺を眉間に作って、不快感を顕著に表す。睨みつけてみるけど、本人は全然気にしていない様子だった。




「何?」

「しょう子ってば、とっても面倒臭い人だねぇ、へへへへへ」


“いや、貴方にだけは言われたくない!”


「気持っち悪い笑い方! 一番にわか臭ぷんぷんの陽人には、何にも言われたくない!」

「オルフェンズの何処がにわかだって!?」

「オルフェンズに罪はないわ!」

「なら、良し!」



 一通り言い合って、カチーンと手にしたグラスをぶつけ合って、それを煽る。私も陽人も酔っ払っているのだ。そんな私と陽人のやりとりを呆然と見つめていた誠也くんが「ほぅ」と声を漏らした。



「しょこたと出会って2年経つけど、初めて知った新事実だったなぁ」

「誠也くんと漫画とかアニメの話って、全然しなかったね。健康とか美容の話ばっかりで」

「あ、やだ……この2人意識高いキラキラ系だったの……?」


小声で怯える陽人は無視する。



「誠也くんもしなかったしね」

「うん。俺も仕事的に、解禁前の話とか口を滑らせないようにしなきゃって、意識しちゃうから。なかなかそういう話も振れなくて。墓穴掘りそうだし」

「すみません……うちら何も考えずにぺらぺらと……」



こなっちゃんが身体を小さくしながら、謝ると誠也くんはにこやかに否定する。




「大丈夫! 俺も子供の頃観てたアニメの話、したいんで」

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初恋の相手に10年越しの告白をしたら、相手の初恋応援する事になったけど、どういう事? 青柳花音 @kailu_kai

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