初恋の相手に10年越しの告白をしたら、相手の初恋応援する事になったけど、どういう事？

第26話 華麗なる着地

　元々動揺していたけれど、さっきの『情』の話をしてから、こなっちゃんはひどく落ち込んでしまったように見えた。どうにか空気を変えたくて、私も努めて明るい声で話そうした。

　つまり、こなっちゃんは現時点で陽人は無しと言いたいのだろう。けれど、反応を見るに、この無しも実はタイミングの問題なんじゃないかと思われた。好意を寄せられる事について、不快感もなく、真に受けてしまうといって赤くなった。本人に自覚は無いかもしれないが完全なる無し、ではなくて『無しの方が都合がいい』のが現状。自分でも驚くほど冷静にそう結論付けて、私はまとめに入った。

「取り敢えずさ、陽人の事は様子を見ようよ」

「様子？」

「うん。本人から明確なアプローチがあるまで気にしなくていいよ」

「うん……」

「例え、あの時報が本当に告白だったとして、流石にあれを真剣に捉えてあげる義理は無いと思う」

「……」

「あの時報に反応無いからって、手を引くような、甘っちょろい覚悟で口説いてたんなら、こっちから願い下げ！って感じだし」

「うん……」

「というか、陽人が変すぎて、私は凄く新鮮なんだけどな」

「え？」

「こなっちゃんが真剣に悩んでいるのに申し訳ないと思いつつも、もう〜変すぎて変すぎて、ムカつくような笑えるような、複雑な気分だよ」

笑い声を溢す私を見て、こなっちゃんも釣られるように口角をほんの少しだけあげた。

「何それ」

「いや、今思い出しても、可笑しいもん！あのLINE」

「へへ、そう……かな！？やっぱ可笑しいよね」

「うん。だから、気楽に面白いな〜て見てればいいよ」

「そうかな？」

「陽人は、言うべき事は、ちゃんと言える子だと私は思ってるから！」

「……」

こなっちゃんが目をぱちくりさせて、私を見る。それがどう言う感情か分からなかったけれど、構わず話を続ける。

「こなっちゃんは、自分は人としてかなり好かれてるんだと思っていればいいよ。だって、あいつは、それを伝えたいのかもしれないし。実際、特撮関連とか楽しく話せるオタ友なんでしょ？」

「うん。オタク友達になりたてだけどね」

「気の合う友達は、訳が分からないって状態で切らない方がいい」

「うん、分かった」

断言する私に、こなっちゃんは噛み締めるような返事をした。そんなこなっちゃんに気を良くして、私はえらく上機嫌に「うん！」と返事をした。残っていたチャイティーを飲むと、もう随分とぬるくなっていた。というか、冷たい。

　陽人は、「本気なんだ」と言っていた。格好悪くても、自分の全部でこなっちゃんにぶつかっていきたいのだろう。それにしても、格好悪すぎるし、斜め上すぎるけれど。

　先日言っていた『対応』な関係の実現の為に陽人も踠き中なのだ。そんな風にじたばたしている彼は、私には愛らしかったし、こなっちゃんが心底羨ましかった。ただ……彼には、こなっちゃんの様子をちゃんと窺いながら踠けと伝えたい。じたばたし過ぎて、相手ありきって事を失念している可能性大だ。

「ところでさ、今日って陽人の事で会いに来てくれたんでしょ？」

「う……うん、まぁそれがメイン」

「様子見ようとか言っちゃったけど、本当は陽人に辞めさせて欲しいって相談だった……？」

「うーん……」

吐息混じりに言うと、紙カップの蓋の飲み方に薄っすらと付いていた紅を親指の腹でなぞる。

「自分も何しに来たのかイマイチ分かってない。ただモヤモヤしてたから。誰かに聞いて欲しくなっちゃったのかな」

「でも大変じゃん？こっちまで来るの」

「うーん、陽人のLINE、普通じゃないよなって思ったの。だから、中途半端にお互い知ってる、地元に残ってるような同級生とかにこれを話すのは、陽人に悪いなと思って。しょう子以外、信用出来なかったっていうか……」

「……優しいね、こなっちゃん」

「そんな事ない！　それに結果、しょう子に甘えてるだけだったなって、今になって反省してます」

「そんな事ないよ〜」

　全然関係ない場所だからいいでしょって、全部漫談にして話していた私より、彼女はよっぽど優しかった。これが、選ばれる彼女と選ばれない私との違いなのかもしれない。

“あ、ダメ。悲し過ぎて、泣いちゃう！”

センチメンタルになる心を奮い立たせるべく、もう一度チャイティーを飲んだ。冷めて、甘さをより強く感じる。茶葉の香りは薄くなってしまった。それでも、まぁ美味しいからいいやって思えたので、大丈夫だ。

「時報については、煩わしいなら、私から陽人に言おうか？」

「しょう子が言うの、変じゃない？」

「変だけど……あいつ、こなっちゃんに言われると凹むかな？って」

「それでも……なんか私が告げ口したみたいな……」

「もう、聞いちゃったし。告げ口みたいなもんよ」

「あちゃー……」

「私が首突っ込む事じゃないかー……」

「言うて、私も言い辛いは、言い辛いんだけどね」

「……ふっ……時報って……」

「また笑ってる」

「なんかじわじわ来ちゃって……ふふ」

くすくすと笑う私を見ながらこなっちゃんに笑顔が戻ってくる。こなっちゃんはテーブルに置いていたスマフォを手に取って操作し始める。そして、終わるとスマフォを置いたこなっちゃんは、こう続けた。

「陽人には何も言わなくていいよ。言いたくなったら自分で言うから」

「ほんと？」

「うん！話聞いてもらったら、整理ついた。今度は、しょう子みたいに『その時報は変で面白い』って言ってみる。そんな気持ちになった！」

そう言うこなっちゃんに私は内心ホッとした。

“お、収まった〜……！　頑張ったぞ、私！”

誰もしてくれないから、自分で自分を讃えてやる。

「それでいいよ。今まで通り」

「そうだね。同級生って言っても、私陽人の事は全然知らないよなって思った。しょう子の言う通り、面白いから、ゆっくり知っていこうと思う。せっかく出来たオタク友達だしね」

「ふふふ」

思わず笑みが溢れた。自分でもふやけた、間抜けな顔をしてるんだろうなと思ったが、こなっちゃんがキョトンとするのを見て、「ああ、本当に間抜けな顔なんだろう」と理解する。

　いつだったか、陽人は今のこなっちゃんと同じ事を言っていた。それを思い出したら、なんだか微笑ましいような嬉しいような気持ちなったのだ。でも、2人がそんな風に以心伝心しているのが、初恋に区切りの付けられない私には悔しいから、「陽人も同じ事言ってたよ」なんて、わざわざ教えてあげないけどね。

　その後は、こなっちゃんと好きな海外ドラマの話で盛り上がった。大好きなクライムサスペンスを彼女にオススメしたりして、お互いの飲み物が空になったのを合図に、その日は解散した。