第27話 ブルー
◇
こなっちゃんと初めて2人でお茶してから、あっという間に2週間以上が過ぎた。最近の私は、どうにも元気が出ない。今年は年始からこの4ヶ月、ノンストップという感じで毎月何かしらイベントが発生している状態だった。その度に、もともとティースプーン一杯分しかない感情の器が溢れて、振り回されて、まさに怒涛の4ヶ月である。そんな怒涛の日々に流石の私も疲れがで始めたのかもしれない。だから元気がないのだ。
……いや、それだけじゃない。勿論、ずっと心は振り回されているし、それに疲れを感じているのも事実だが、それだけではないのだ。
こなっちゃんは、私と陽人の関係に自分の理想的な人間関係を夢見ているらしい。
彼女の話を総合すると、こうだ。『
勿論、こなっちゃんは私が邪魔だとか、居なくなってくれとか、そんな事を思っていないのは分かっている。彼女的には、こなっちゃんこそが邪魔な存在であり、自分の所在について悩んでいるのだろう。本人に自覚があるかは、分からないけれど……。
彼女は、私と陽人のコンビが好きだと公言していたし、万が一にも陽人が想いを打ち明けたとして、受け入れるとは言えないと言っていた。けれど、心の底から陽人を拒絶していないところを見ると、『
陽人と小夏を見届けて、陽人への想いに区切りを付けようと思っていた。けれど、区切りを付けたとて、私に陽人と縁を切るつもりは、特になかった。これだけ気が合うのだから、友人としての健全なお付き合いが私の最終目標地点だったのだ。そこを目指していた。なのに、ここへ来て、陽人と縁を切らなければ、陽人が報われないなんて……。縁切りという新たな選択肢が出てきてしまった事に、私は地味なダメージを受けていた。
ぼんやりする頭の中では、緊急会議が連日開かれている。それこそ昼夜問わず。
“縁を切るのも良いかもね! 過去を振り切るってやつ!”
そう主張する私がいれば、
“そうして、振り切れずに10年拗らせてきたのは、どなたでしたか? 自分の為にも『逃げない』って約束したんじゃないの?”
そう反論する私がいる。この応酬が、言葉を変え、温度を変え、堂々巡りの火の車。……って、誰の台詞だったかしら?
平たく言えば、今年が始まって1番ブルーなのだった。そんなブルーな私に構わず、時間は無情にもどんどん流れていく。気が付けば、楽しみだった【Jelly Jelly】のライブは当日を迎え、そして終わり、GWを迎え、そして終わっていた。
「ふー……今日は暇ね〜……」
「私達が暇なのです」
受付カウンターで姿勢を正す後輩エステティシャンの
「あーん……つまんないー……」
「発注も終わっちゃいましたしね」
「暇すぎて、バックヤードの片付けもしちゃった……」
「働きましたね〜」
「ねー。一銭も売り上げにならないけど……」
ぐでーんと、カウンターのデスクの上に頭を乗せる。先輩としてこんな姿を見せてはいけないのだろうが、知らない。連日の脳内会議による頭脳労働で、私はクタクタなのだ。少し多めに見て欲しいと勝手な理屈でだらけていた。そして、この後輩の乃依ちゃんは、そういう事を気にしないでいてくれる質なのだ。
「
「だってぇ……退屈だと帰りたくなっちゃんうんだもん」
「えー! 私とのお喋り楽しくないんですか!?」
乃依ちゃんは、「ひどいー」と言いながら眉根を寄せると、下唇をムイっと突き出して、拗ねたような顔をする。
「楽しいよ? でも暇じゃない?」
「暇ですけど……。あ、インスタとTikTokを更新しますか!」
デスクの引き出しを開けて、店用スマフォを引っ張り出すと「たくさんお客さんを呼びましょう!」と軽やかに言う。そうして、店内をキョロキョロとして何かを探し始めた。
「えーと……キャンディスは……」
「え! またキャンディスと撮るの!?」
キャンディスとは、人間の頭蓋骨の模型である。私の勤めるエステサロンは、綺麗で可愛らしい内装の店なのだが、その店内で異質な空気を放っているのが、そのキャンディスと呼ばれる頭蓋骨だ。私にはミスマッチで、可愛くないという風にしか見えないのだが、何故だかお客には人気が高いオブジェである。誰が始めた事か忘れてしまったけれど、お店の宣伝用アカウントに投稿する時、この頭蓋骨はかなりの高確率で被写体を務めていた。これも、誰がつけたか忘れたが、キャンディスという名前をつけられて、SNSで紹介すると、少しだけ反応が増えたのだ。以来、キャンディスは店の看板モデル宜しく、SNSに度々登場している。世の中、何がウケるかは予測不能である。
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