第9話 漫談にはならない
思わず頭を抱えたが、私も腹を括る。
「私、応援するわ」
「え?」
「その恋、応援するわ!」
「おうえん……?」
電話の向こうの陽人が言葉の意味を反芻するように呟く。
こうなったら、陽人とこなっちゃんを全力で応援して、なんならくっ付けて! 私も終わりにするのだ。この、10年も続いたくだらない片想いを。そう思ったら、さっきまで寒かった身体に熱が戻ってきたように温まってくる。ポポポッと熱と一緒にやる気まで出てきた。視界まで開けてきた気がする。
「なんでも相談乗るし、なんでも手伝うわ!」
「え?」
「まかせな! 私は、友達からアドバイスが的確ってお墨付き貰ってるの!」
「あ、ありがとう」
「そうしたらまずは作戦会議だね」
「えぇ?」
「また連絡するわ! 急に電話ごめんね」
「それは、全然大丈夫なんだけど」
「じゃあ、おやすみ!」
「へ?あ、おやすみなさい」
電話を切って、この熱い決意を抱えたまま意気揚々と店内へ戻る。ドリンクバーにいた誠也くんが、出入り口から戻ってきた私を見てギョッと目を見開いた。私は、誠也くんに向かって、力強く頷いて席へと戻る。
「お! やっと来たねぇ」
「うむ! 有意義な話であった」
彩ちゃんが笑顔で迎えてくれる。フンフンと鼻息荒く、席につく私に彩ちゃんが面白そうな顔をする。
「しょう子ちゃん、どうしたの?何か元気だね」
「良い話だったの?」とニヤニヤ尋ねてくる彩ちゃんと、私はしっかり身体ごと向き合う。そしてもう一度大きく吸った息を鼻から吐き出した。
「私、本格的に陽人と初恋を応援する事にしました」
「……」
「……」
「……え?」
◇
こなっちゃんと私の関係性は、『悪くはない』くらいがしっくりくる表現だと思う。小学校5、6年生と中学3年の時にクラスが一緒だった。小学生の時は、同じ仲良しグループに属していたから、休み時間も一緒にいたけれど、中学に入って、部活やクラスが離れてからは、疎遠になった。中3でまた同じクラスになった時も、雑談はするけど、お互いつるむグループは違ったから、仲が良いと言える程の関係性は無かったと思う。だから、今現在の連絡先も知らないのだけれど……。
手の中のスマフォの画面に映る、陽人からのLINEを眺めて暫く経つ。画面が少し暗くなる度にタップして明るくする動作を、もう4、5回は繰り返していた。
『こなっちゃんが、しょう子にも会いたいってさ』
『しょう子が良ければ、3人で飯行かない?』
“ふー……そう来るのか……”
正直、応援するとは言ったけれど、目の前でイチャコラされるところを見たい訳じゃない。そこまでのマゾヒストではないのだ。一緒にご飯なんて、ストレスしかない気がする。というか、陽人も2人っきりの方が良くないか?私の存在は邪魔だろう。
『私は邪魔でしょう。2人で会いなよ』
素直にこう送る。私は、返信に随分時間を掛けたが、陽人の返信は早かった。
『全然邪魔じゃない!』
……この人は、仮にも私の初恋の人が貴方ですって話したばかりなのに……。自分は初恋を引きずっているくせして、私への配慮は0かい! 腹立つなぁ!
イライラして、スマフォをベッドの上に放り投げてやった。
“でも、応援するとか言ったのは私自身なのだ。陽人は悪くない”
『分かった。じゃあ、2人でいくつか候補日上げてよ』
『それより、チャットルームに呼ぶ!』
『待ってて』
そう返信が来て、数時間後くらいに2人のチャットルームに招待された。
久しぶりのこなっちゃんは、文字の上だけではよく分からなかった。少々お互いまだ距離感が掴めない感じは否めないが、店選びは順調に決まった。何の問題もなく終わったのに、どうも釈然としない。今週は、書道教室もお休みで、誰とも会う予定がない。今、私が置かれている状況や気持ちを話したいような話したくないような……どっち付かずな気持ちだ。誰かに話したいのは本音だった。
だからって、何故彼に電話を掛けてしまったのか分からない。誠也くんの顔が頭に浮かんだ時には、もう通話ボタンを押していた。
〜♪
発信音をボーっと聴く。心の中で【DANZENふたりはプリキュア】のサビを歌い終わるでに誠也くんが電話に出なかったら、今日は切って寝ようと考える。
誠也くんは、サビ中盤くらいで出た。思っていたよりも全然早かった。
「はい」
「あ……と、もしもし誠也くん?」
「はい」
「しょ、しょこたです」
「うん、どうしたの?」
緊張している私と違い、誠也くんは普通だった。いや、当たり前か。
「どうもしないのだけど、今って大丈夫?」
「うん」
「誠也くん何してた?」
「収録終わりで、家に帰ってるところ」
「え、タイミング悪くない?電車とか」
「ううん、もう最寄りから家までの道歩いてるだけ」
「そっか〜。遅くまでお疲れ様」
「しょこたは? もう家?」
「うん、家。ご飯も食べ終わった」
「何食べたの?」
「冷凍うどん! 煮た!」
「いいね」
電話なんてするのは、誠也くんと出会って3回目くらい。しかもこんな雑談で電話をするのは、初めてだった。なのに誠也くんは、用事はないよと伝えた後も普通に話を続けてくれている。用がないなら、電話なんて即切り上げられそうな、クールな見た目をしているが彼は案外気長で優しいのだ。
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