第7話 それからどうした
「でもさ、その陽人くんの初恋の人と連絡取ってどうなったの? 上手くいきそうなの?」
「んー…一応ご飯に行く約束はしたみたいですけど、結局延期になったそうです」
「それ、脈無しなんじゃないかしら?」
「分からないです」
「そっちの方も成就は難しそうだし、しょう子ちゃんが諦めなければ、こちらに可能性があるんじゃない?」
「え?」
彩ちゃんはワクワク顔で続ける。
「私は、しょう子ちゃんと陽人くんて合うと思う。話聞いてて、2人って相性良いと思うんだよね。だからこそ、突然の初恋にびっくりしちゃったんだけどね。そっち行く!?って」
「彩さん、俺は諦めさせようとしてるんです。焚き付けないでよ」
誠也くんの抗議に、彩ちゃんはペロッと舌を出して悪戯っぽく笑った。
「こういうのは理屈じゃないんだから、やめとけって言われてやめられるなら、しょう子ちゃんだって、こんなに泣かないでしょ」
「……」
彩ちゃんは、黙る誠也くんの手をポンポンと励ますように優しく叩いた。そして立ち上がる。
「ドリンクバー行くけど、欲しい人!」
「はい」
「はぁい……」
「何欲しい?」
「俺、カモミールティー」
「私は、ラテを」
「おっけー」
ドリンクバーへ向かう彩ちゃんの背中を見送る。チラリと目だけで誠也くんを見ると、私と同じ様に彩ちゃんを見送っていた。べしょべしょと情けなく泣いたばかりで、少々気まずい。涙脆い性質だけれど、誠也くんと彩ちゃんの前で泣いた事はなかったはずだし。気まずいからって訳じゃないけど、誠也くんとは特に会話もなく、彩ちゃんとドリンクを待っていると、ソファー席の椅子の上に置いていたスマフォが鳴った。見てみると陽人からだったので、タイミングが悪いなぁと思って、見て見ぬ振りをしようと画面を下に隠す様に椅子に置き直した。
が、誠也くんは目敏くそれを見ていたらしい。
「何?」
「え?」
「怪しい動き」
ジトーっと疑うような視線を向けてくる。誠也くんはいつも、気付いていても態々指摘しない人だから、こんな風に突っ込んで聞いてくるのは珍しい。
私も誠也くんの真似をして、同じジト目で返してやる。
「別に怪しくないし」
「いいや、怪しい。いつもは、『LINE返して良い?』ってさっさと返すし、通知ためないじゃん。なんで、今はスルーしたの」
「公式からだったんですぅー」
「……下手な嘘ついて」
「ちょっと、何ー?2人とも不細工な顔してる」
彩ちゃんがドリンクを持って帰ってきた。私達に配膳しながら隣に座る。
「彩さん、しょこたが怪しい動きしてる」
「してないってば」
「LINEの通知だけ確認して、画面隠したんですよ。俺は初恋野郎からの連絡を疑っている」
ドキーッとした。ポーカーフェイスを意識していたが、その一瞬の動揺を2人は見逃さなかった。
「しょう子ちゃん……陽人くんからなのね?」
「……」
「観念しろ、しょこた」
「……陽人からLINEが」
「やっぱりな」
「なんか、タイミング悪いから、後にしよーと思って……」
「まぁ、私も人のLINEまで読む趣味ないしね」
責められている様な気がして、下げた肩を彩ちゃんが摩りながら言う。
「でも、良かったね!LINEは続いてるんだ」
弾む声に、相変わらずしゅんとしたまま答える。
「続いているというか、気まぐれに送ったり、送られたりで。2、3言を4日くらいかけてやり取りして途絶える……みたいな」
「何そのもどかしいLINE」
「2、3言に4日もかけるなよ。気持ち悪いなぁ」
誠也くんが辛辣。確かに、流石にズルズルしすぎて気持ちが悪い感じになっている自覚はあったけども!
「それで? 陽人くんは、何て?」
「へ?」
……今し方言っていた「人のLINEを読む趣味ないしね」はなんだったんだ。
彩ちゃんは、ニコニコ顔で、私を見つめる。
「いいじゃーん。教えてよ、何て来てたの?」
「えー……」
別に見せるのが嫌だった訳ではないので、LINEを開いて確認する。昨日の夜に送った私の返信で止まっていたから、その返信が来ているのだろうと思っていた私は、画面に映し出された文字に一瞬怯む。
『こなっちゃんに会えました』
「まじ……?」
「何が?」
私の声に彩ちゃんが私の手元を覗き込む。私はトーク画面を見せながら、陽人が初恋のこなっちゃんに会えた事を伝える。
「えー!?」
彩ちゃんの大きな声が店中に響いて、誠也くんが慌てて「しー!」と人差し指を立てる。彩ちゃんは、「ごめん」と謝って、でも興奮冷めやらずといった様子だった。
「急展開!」
彩ちゃんとは裏腹に私は、なんとも微妙な気持ちである。
「なんて返信すればいいかな?」
「『おめでとう!』は? ……それも変か」
「しょう子ちゃん、電話! 電話しなよ!」
「え! 今?」
「今今今!!」
「いいよ、嫌だもん」
「も〜!」と彩ちゃんは頬を膨らませた。
「どうせ、たった2言に4日もかけたりして、状況分かんないまま終わるよ?」
「う……」
「それは違うじゃん。それはモヤモヤして余計に気持ち悪いじゃない。だからちょっとかけてみてって。相手が出なきゃ出ないで良いんだから」
「……分かった……。じゃあ、ちょっと電話してくる」
席を立ってファミレスの出入り口に向かう。通話ボタンを押して耳に当たるけど、呼び出し音よりも自分の心臓の方が大きな音でよく聞こえない。
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