第23話 これは、どうにも様子がおかしい
まぁ、向こうが切り出すのを待つか……と思い、陽人の為にこなっちゃんの好きな物でも探ってやるかと思った時だ。こなっちゃんは、唐突に切り出した。
「しょう子って、陽人と毎日連絡取ってるの?」
「へ?」
予想にもしていなかった問いに、ついつい間抜けな声が出たが、慌てて気を立て直して、答える。
「毎日はしてないよ?」
「そっか……」
私の返答に対して、どうにも歯切れの悪いこなっちゃんが引っ掛かる。彼女からの質問の真意を見極めようと、目を凝らして彼女の顔を見てみるけれど、当たり前だが、全く分からない。話が途切れても、変な空気になるので取り敢えずそこを広げようとしてみる。
「こなっちゃんは?」
まぁ、既に陽人経由で、3日程しかやり取りが続かなかった事は聞いているけれど、そこは知らないふりをする。しかし、私の予想に反して、こなっちゃんはすぐに「取ってないよ」とは答えなかった。
「んー……」
“その考えている様子は何なんだろう?”
「連絡を、取り合ってはない」
「……随分と含みのある言い方したねぇ」
「んー……」
彼女は、私の感想に対して、まるで意を決したように深い呼吸をすると、自身のスマフォを取り出して、操作する。
「あの……最初に言わせて欲しい」
「はい」
「私、しょう子と陽人って本当に仲良いと思ってるし、なんなら凄く相性も良いと思っていて、将来的に突然2人が結婚しますとか言われても、全然驚かないのね」
「は!?」
カッと顔が熱くなる。
「交際0日婚約があると思ってるレベルなんだけど」
「ちょ、ちょ、ちょ、」
スマフォから目を離さず、ペラペラと口が止まらないこなっちなん焦って、手が伸びる。
恥、喜び、照れ、虚しさ。そんなものが一気に湧いて、渦巻いて、頭がパンクしそうだ。彼女を黙らせねばと思って、私も慌てて口を開くが、言葉にならない。「な」とか「は」とかそんな音ばかりが口から溢れていて、何の頼りにもならなかった。
こなっちゃんに向けて伸ばされた手を、こなっちゃんがキュッと優しい力で握る。
「ごめん! でも聞いて!」
そう言われて、私は仕方なく一度唾を飲み込むのと一緒に全ての音を飲み込んだ。そして、忘れていた呼吸を再開する。落ち着こう落ち着こうと自分に言い続けた。
「2人の事は、それくらい関係性が出来てると思ってる。色恋とかでは無く、信頼関係の方ね」
「あ、ありがとう……?」
「なんというか、2人のそういう友人関係に割って入ろうとか思ってないという事をご理解頂きたいのと、」
「う、うん?」
「陽人の事なら誰より理解がある。そういう友達だと思って、話すんだけど……」
あまりの前置きに恐怖が湧いてくる。今から私は何を言われるのだろうか……。ゴキュリも喉が鳴る。
「これを見て欲しいの」
そう言って差し出されたのは、こなっちゃんのスマフォで、見れば陽人とのトーク画面だった。
“え!? これ見ていいやつ!? というかこなっちゃん、見せるのはダメじゃない!?”
そんな事を思って、咎めようとした瞬間、脳が画面上のやり取りに正しく『違和感』を覚えたのだ。その『違和感』を確かめたいという欲求に勝てず、思わず内容を確認してしまった。
『おはようございます』6:30
『好きです』6:30
『こんばんは』19:06
『好きです』19:06
『おはようございます』6:32
『好きです』6:32
『こんばんは』19:01
『好きです』19:02
「……」
「……」
「……え、時報?」
「毎日なの」
————…バシッ!!
私は思わず、机を叩いていた。
“何してんだコイツ!!”
“しかも毎日告白してるし!!”
頭の中に『しつこく誘ってウザがられたくなくて』なんて文面が浮かぶ。
“どの口が!?”
私はあまりの混乱に頭を抱えるようにして、両手で髪を混ぜた。
「しょう子ともこういう感じなのかな?って、気になって。私初めてこういうLINEもらったから」
“いや、こんなんおかしいって!!”
よっぽど「こんな異常なLINEは来た事がない」って言ってしまいたかったけれど、私がこれを言う事で、陽人の恋路にマイナスの要素を投じてしまうかもしれないと思うと、口を開けない。しかし、これが陽人の通常運転と思われるのもマイナスだろう……。どうすればいいのか、正解が分からず「ゔぅー……」と喉の奥から、呻き声が漏れる。
私の様子をそこまで気にしていないのか、こなっちゃんはそれまでと変わらないトーンで続ける。
「私も最初は返してたんだけど、なんか面倒くさくなっちゃって」
しかも、時報ばかり気にされて、後ろの告白が全く相手にされていない事実に私の方が切なくなる。
“陽人さん、貴方の奇行のせいで大事な告白、何も響いていませんよ……”
しかも、面倒くさいと切り捨てられているし! こんな悲しい事実、可哀想すぎて、私にはとても報告出来ない。
“これ……どう答えるのが、正解なの?”
ドッドッドッドッドッ……
心臓の鼓動が速くなるのを聞きながら、顔の真下の机の木目を凝視しながら、頭はフル回転だ。冷や汗も浮かぶし、呼吸する余裕もない。なんで、彼の愚行で私がこんなに追い詰められているのか、甚だ疑問だが仕方がない。これが共感性羞恥心だろうか? なんだか無性に恥ずかしくて、私が泣きそうである。
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