第4話 山田組のファミレス会合2



「そう! 占い凄くない!? 陽人、絶対Bさんじゃん」

「だよね。もう既に出会っていて、しょう子ちゃんの事を子供の頃から知ってる仲なら、そりゃかっこ悪い事も既に知られてるしね」

「しかも出会う場所、HOMEって……めちゃめちゃ地元」

「ある意味HOMEよ。凄すぎる〜! 私も占い動画見ようかな」

「彩さんは、旦那さんいるじゃん。はい、どうぞー」




戻って来た誠也くんが、店員さんよろしく、ドリンクの配膳をする。




「結婚してたって、色々あるの」

「誠也くん、ありがとう」





私のお礼に、誠也くんは短く返事をして、向かいの席に座った。




「彩さんは、結婚しても恋人でいたいタイプなんですか?」

「当たり前でしょー。一生『可愛い』って言われて、プレゼントとか渡されたいタイプだよ。誠也くんは、違うの?」

「違わないけど」

「え! 誠也くんて、そういうタイプ? イチャイチャしたいタイプ?」


“意外すぎるよ……”


「家族になるのが嫌とかじゃないけど……。奥さんには、綺麗にしていて欲しいって事じゃなくて、ふとした時に『自分の奥さん可愛いな』って思える関係がいいよね」




持ってきたカップの中身に「ふーっ」と息を吹きかけて冷ましながら、さらりと言う誠也くんに、私だけじゃなく、彩ちゃんまでもが驚いたように目を丸くして、開けた口を両手で隠す。まだ湯気の立つティーカップに一口、口をつけてこちらの表情に気付いた誠也くんが、眉を寄せて目を細めた。



「なんすか、その顔」

「随分、可愛い事を言うなぁと思って」



彩ちゃんの発言に誠也くんの眉間のしわが深くなる。フォローしようと思い、私も口を開く。



「誠也くん、良い旦那さんになるよ」

「当たり前だろう」

「ひぃ! 強気ー!!」



いつもの事と言えば、いつもの事だけど誠也くんはなかなかの自信家だ。



「声だけじゃなくて、性格までアニメキャラなんだよねぇ」

「馬鹿にしてるよね、それ」




 誠也くんのお仕事は、声優だ。誠也くん曰く、売れない声優らしい。けど、今放送中のライダーのロボットのキャラ(?)の声を担当しているんだとか。特撮に出演してるって、凄い事だと思うけど、だからってお仕事が増えたりするわけではないんだとか。

 先々週に会った時も今度アニメ化される少年漫画のオーディション受けるって言ってた。結果はどうだったのか……。誠也くんは、受かっても落ちても、あまり結果を教えてくれない。何も言ってこないから、落ちたのかと思ってたら、ちゃっかり受かっていて、ショート動画で誠也くんの声聞こえたりするし、じゃあ当たり前のように受かってるのかと思って、話を振ると落ちてるし。



「しょこたはさ、」


考え事をしていると誠也くんが私に話を振る。


「結局その後、初恋とはどうなったの?」

「ご飯食べて、帰ったよ?」

「それは分かるよ! その後なんかあったら、まずいだろうが! 後日談の話!」

「LINEは、結構続いてるよ」



……とは言っても、ここ3日ほどは返信来ていないけれど。



「そいつ、彼女居るのに本当に大丈夫かよー」

「んー……まぁ、彼女の事も少しばかり相談されたけど。もう付き合って長いから、将来の話もするらしいのね。それで、家事の分担っていうか……生活上のルールのズレ……とか?」

「同棲してるの?」

「違うって」

「将来の事考えてるなら、一緒に住み始めてもいいのにね」

「彩ちゃん達は、同棲長かったんだっけ?」

「私は、付き合って1年で同棲して、同棲2年目中にプロポーズされた」

「トントン拍子だね」

「そうだね。私は順調だった」

「旦那さん、彩さんより年上だもんね」

「えー、でも4つ上でしょ? 男の人って、20代のうちに結婚考えないっていうでしょ?彩ちゃんの旦那さんはしっかりしてるよ」

「うん、うちの人しっかりしてると思う。考えてない人は多いね」

「誠也くんもそうでしょ? 考えないでしょ?」

「この流れで俺に振るのか。失礼だなぁ。俺は、付き合う段階で結婚を視野に入れてるけど?」

「重っ! 激重じゃん!」

「そう? つか、しょこたは違うのか」

「元カレの時は……将来とか考えられなかったなぁ」

「だから、別れたんだろ」

「ぐっ……」



クリティカルヒット。痛い所をつかれて、思わず胸を押さえた。



「あらら〜、誠也くんイエローカードです」

「え」

「自分の重さを棚に上げて、しょう子ちゃんの傷を抉るのは、反則プレーです」



隣に座る彩ちゃんが、私の肩を抱き寄せて頭を撫でてくれる。



「誠也くん、ずっと黙ってたから、しょう子ちゃんと陽人くんの話、聞いてないのかと思ってたけど、ちゃんと聞いてたんだね」

「俺にも耳はあります」

「何拗ねてるの」




〜♪




 その時、テーブルの上に放っていた私のスマフォにLINEの通知が来た。手に取って確認する。




「あ、陽人だ」



噂の彼の名前に、彩ちゃんも誠也くんもピクリと反応する。



「え、何て何て?」

「……来週会えるかって」

「え!?」



彩ちゃんが両手で口を押さえて、目を丸くする。彼女は、こういう絵に描いたような反応が、どうしてこうも様になるのだろう。


「デートのお誘いじゃん!」

「いや、彼女! いるの!」



陽人とのLINEは、一緒に飲んだ日から、1ヶ月近く続いていた。と言っても、1日に一往復するくらいで、親しい友人という距離でもなく、辞め時を見失ってしまったような、ダラダラした続き方だった。最近は、返信が3日ほど空いていて、遂にブチられたかな? と思っていた矢先だったのに「来週会えるか」って……随分急だ。



「え、会う? どうする?」

「うん、友達だしね。でも来週は無理」

「だってよ、誠也くん」

「何で俺に振るのよ」

「でも急に何だろう……。相談事かな」

「しょう子ちゃんに揺れてるんじゃない?」

「それはないって。一途な男なんですよ、陽人は」




結局、やっぱり来週は予定が合わなくて、再来週になった。

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