第17話 反省会



 こなっちゃんは仕方がないという風に嬉しそうな?得意げな顔をする。



「友達の友達だし、完全プライベートだったしね。ファンなら守ってやらねば!」

「こなっちゃん偉い!」



陽人が拍手を送ると、こなっちゃんは酒で赤くなった頬を緩めて「えへへ〜」と照れ笑いした。




 3人で駅へ行き、電車に乗る。こなっちゃんは乗り換えの為に1人だけ早めの解散となった。



「今日はどうだった?」



 こなっちゃんと別れて走り出した電車内。陽人と2人並んで立ちながら話を振る。陽人は、「んー」と少し考えて照れくさそうに目を伏せて頬を掻いた。




「前回よりリラックスして話せた思う。次の約束が出来なかったのは、残念だけど……」



 確かに終わり際は、誠也くんに持って行かれて、次の約束所ではなかった。こなっちゃんに至っては、誠也くんの事しか覚えていないんじゃないかと思えてならない。



「しょう子は、見ててどうだった?俺、完全に脈なしかな?」

「脈は、分からなかったけど、こなっちゃん楽しそうに見えたよ」

「本当!?」



 目をキラキラと輝かせる陽人にキュンとする。素直な反応がとても可愛く感じてしまう。



「けど、こなっちゃんは陽人の事、完全にノーマークだと思う」

「ノーマーク……」

「マジで友達の距離感だった」

「それって……脈なしじゃん!」



 ビャッと泣きそうな顔をする陽人にまたもや胸がキュン!とする。酒のせいもあるのか、上機嫌のせいか、表情のコロコロと変わる様がいつもよりオーバーで可愛い。少し子供っぽいが、それもまた良きと私の顔が緩んでしまう。




「いや、嫌われてないって時点で、脈はいつでも出てくると思うから!」



 力強く言うが、陽人は全く納得できない様子で、相変わらず泣きそうな顔なのだ。



「まずは、認識して貰わないと」

「?? 認識はされてるはずだけど?」



 今日会ってきたばかりじゃないか、とでも言いたげな顔に、私はわざとらしくため息を吐く。私が言いたいのは、そういう事ではない。



「されてない! 女にとって、好きでもない男なんて、その辺のカタツムリと大差ないからね」

「カタツムリ……」

「人間として認識されているかも怪しい」

「酷すぎる。というか、それは暴言!」



 陽人はぷんすこしだすが、それは無視する。大体、今日だって誠也くんに全てのハイライトを奪われていると言うのに、やる気はあるのだろうか?




「現実を見なさいよ! 男だって、好意0の女はジャガイモにしか見えないでしょう!?」

「あー……そう言われるとーって、そんな事思ってないから! それは偏見!」

「陽人は違っても、大体の人はそうなのよ」

「そうかなぁ……」

「世の中シビアなの」

「うぅ……世知辛い」

「そうよ。その中で生き残らにゃならんのですよ」



 酒により赤く染まった頬で、口を尖らせ、不満そうな顔をする陽人は、幼くて可愛らしい。同い年と思えば痛々しいという感想も出てくるが、私にはどうにも可愛く写ってしまう。

 そんな可愛い幼馴染は、これまでの私の言動に分かりやすく拗ねているらしかった。




「じゃあ、未だカタツムリの俺は、どうすればいいの?」

「んー……」




 問題提起が出来ても、解決策の模索は難しい。私が考えている間、陽人は一切口を挟まなかった。それこそ、「寝た?」と疑う程だったが、視線をやればちゃんと起きていて、こちらの答えを待っていた。





「やっぱり、2人で会う回数は増やした方がいいし、毎回陽人が男である事を意識してもらえる行動をとるべきね!」

「男を意識させる……?迫るって事?」

「ぶっ!!」




 なんの悪意もなさそうな、キョトンとした声で言われて、噴き出してしまった。




「そんな事言ってないじゃん!」

「違うの?」

「全然違う!紳士的な振る舞いをしろって言ったの!」

「……じゃあ、真逆だね」



 解釈不一致を指摘されて、陽人は気まずそうに乾いた笑いをこぼした。





「紳士的って、レディーファーストって事?」

「それもそう。私が言いたかったのは、男らしい優しさを見せるって事だったけど、同じ意味よね。この人と一緒になったら……を想像させるようなアピールをするって話」

「男らしい優しさ?」

「鉄板のやつよ。判断や行動が早いとか、決断力があるとか。買い物したら、重い荷物は持ってあげるとか? 今は友達同士で異性とか関係ない仲なんだけど、友達以前に男の人と2人で歩いてるんだっていうのを意識させるんだよ」

「ほう、なるほど」



 しばらく考える素振りをして、陽人は私を見下ろした。




「めっちゃむずくない?」

「むずくないよー! 鉄板なのでいいってば」

「でも、今後も俺がちゃんとやり続けられる事じゃないといけないでしょ?」

「そう、だね?」




 陽人の言わんとしている事が分からず、返事が曖昧になる。




「その場しのぎのアピールじゃ意味ないじゃん。続けられるやつじゃなきゃ」

「そりゃそうだけど……」

「その、荷物を持ってあげるのとかも、できる事だけど、それが鉄板なのも謎」

「荷物持ちは嫌って事?」

「んー?んー……今までも気を遣ってしてきたけど、持って当たり前で、持ってくれない人は悪い人みたいな風潮……は大袈裟かな? なんか圧を感じる」

「ごめん、すっげー小さい事言ってるように聞こえる」




 凄い眉間に皺が寄っている気がする。チラリと外の闇によって鏡がわりになった電車の窓ガラスを盗み見ると、凄い顔で陽人を睨む私がいた。




「認める!俺、小さいよね!でも凄い、その……品定めされてるみたいで圧感じる」

「え、ごめん今好きな人の話をしてると思うんだけど……、好きな人の為に何かする事が嫌だって話してる? 他人に強要されてるみたいで?」




「割とドン引きなんだけど」って言葉は、鋭い自制心でもって、飲み込んだ。それでも私の声音や表情に異変を感じたらしい。陽人は「う、うん……」と控えめに返事をする。

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