35 風通しの良い、オープンな職場です



「あれ!? みんな来てくれたの!?」

「コータさん、貴方ってば本当に……」

「もー! 心配したんだからね!!」

「ま、無事でよかったな」

「みんなありがとう~~~!!」


 天界からわざわざ迎えに来てくれたらしいみんな。ゴリゴリの勇者みたいな格好してるランスくんとか、ガチもんの聖女みたいな神々しいマリーちゃん、甲冑着て戦国武将に戻ってる家康さまとか。

 何がどうしてそうなったの? え、魔王城攻略? 勇者と聖女と悪役令嬢と女神とクリーチャーと怨霊と戦国武将のパーティーで? それはもはや弱いものいじめなのでは……?


 課長とチーフ、道真さまと家康さまに囲まれて事情聴取されてるランバートくんはすごく戸惑ってるけど、ちゃんと相談したらその人たちがきっとなんとかしてくれるよ。


「この度は皆様にご迷惑をおかけ致しまして……」

「君のせいじゃないわ。今までよく頑張ったわね」

「この事はきちんと運営部で報告して部内会議にかけるから安心して良いぞ」

「異世界課からも言っておくからねぇ」

「おお、それなら百人力じゃな」


「よかったね、ランバートくん」

「うん。コータくん、本当にありがとう」


 ランバートくんの働き方改革はこれからだ!

 これを機に職場環境が改善されたら、僕も騙されて突き落とされたかいがあるってもんだ。


「あれ、そういえばみんなよく僕がこの世界にいるって分かったね」

「みんなでいっぱい探したからね」

「まず課長とチーフがコータさんの家まで行って……」


 ランスくんが運営部まで行って、そこで犬を借りてにおいを辿って、天国の門の受け付けに問い合わせて……。みんな本当にいろいろしてくれたんだなぁ。

 …………、……、……。


「………………犬…………?」

「ええ、あんまり大きいからモンスターかと思いましたわ」

「地球ってすげぇのな。あんなのがいてお前よく生きてこれたな」


 なにその感想……。え、……なに犬?

 道真さまと家康さまを振り返る。


「ギリシア班のハデス殿が快く貸してくれたぞ」

「それケルベロスーーー!?!?!?」

「ほら、コータ前に公園でその犬と蛇の喧嘩に巻き込まれたことあったじゃん? それでコータの事覚えてたらしくて」

「その節はどうも!!!!!!」


 特に気にしていなかったので本気でお気遣いなく!!!

 そして僕の事は記憶から消していただいて構いませんマジで。冥界の王に存在認知されてんの怖すぎ。

 ていうかマリーちゃんケルベロスとヒュドラのこと犬と蛇って言った?? 強者すぎんか??? あと地球に対して変な印象が刷り込まれてってない??? あんなもんが普通に闊歩してると思われてない???


「まぁ通行人は何人か気絶しておったが……」

「被害が出てる!」


 におい辿ったって事はケルベロス連れて天国の門まで行ったんでしょ?? ごめんね新たに解脱してきた人、天国はそんな物騒なところじゃないんですたぶん。


吉備津彦命桃太郎様に犬をお借りしようかと思ったのだが、ちょうど有給休暇でな」

「それもちょっとご勘弁願いたいんですけど」


 あれは創作であって、本物は犬も猿も雉もきちんと人間(もしくは神様)の家来のはずでは??


「いや普通に飼っておられるのだ」

「あっそうなんですか」

「イメージは大事なんじゃと」

「そんな理由で」


 それなら、まぁ……い……くない。だめです。

 これ以上日本の、そして地球の神様たちと顔見知りになりたくない。心臓がもたない。もう止まってるけど。


「コータくんのお友達って面白いね」

「そうかな?」

「みんなコータくんの事心配して探しに来てくれたりして、優しくていい友達だね。……いいなぁ」

「え?」

「僕、友達いないから……羨ましいな」


 ランバートくん、まわりに武闘派脳筋しかいなくて話が合う人がいないらしい。頭脳労働班は仕事で各地に散っちゃうし……うわぁ、それはなんというか……


「でもさ、僕たち」

「――――伏せて!!!」


 あとの言葉はとんでもない破壊音にかき消されてしまった。凄まじい轟音と振動で頭がぐわんぐわんする。

 一生懸命目を開けたら、頭上に白い光の壁。あ、これマリーちゃんの防壁だ。

 レースのカーテンみたいなその光の向こう、部屋の壁だった部分がなくなって、真っ暗な空が見えている。


「勇者ってのァここかぁ!!!」


 ばさり、翼がはためく。空に浮かんだそいつは、真っ赤な皮膚をもつ魔族だった。そいつが外から壁をぶち破ったってこと?

 ……ていうかさ、


「…………うっそでしょ…………」


 終わらせた仕事書類、全部吹き飛んだんだが???


 僕が呆然とデスク(だったもの)を見ている隣で、ランバートくんも同じように舞い散る紙たちをみて、そして。


「――――なんてことを」


 ゆらりと立ち上がった。

 ランバートくんの身体から、真っ黒な何かが湧き出てくる。それはぐるぐると渦を巻いて、通気性のよくなった部屋を覆っていく。

 チーフがそっと僕の手をとって、ランバートくんから距離をとった。


「――――きみ、誰?」


 ランバートくんが問う。恐ろしいほど冷えた声で。


「この城の上半分は暴力沙汰禁止だって知らない?」

「俺ァ城勤めじゃないんでね、ンな事ァ知っていようがいまいが関係ねェな」

「――――そう」


 確かに耳を澄ませたら外から「やめろ!」だの「止めるか!?」「いやでもあそこは」だの聞こえてくる。魔王城の人たちはそうやって上層階に行くのを戸惑っているらしい。ランスくんに確認してもあんなやつは見ていないとのこと。なるほど完全部外者。

 

「ここにあった書類はね、俺たちが――――コータくんが一生懸命手伝ってくれてやっとできたものなんだよ」


 ちらりとデスク(だったもの)をみて、顔を歪める。

 

「こっちの事情に巻き込まれただけで、手伝う必要なんてないのに、僕が困ってるからって手を貸してくれた優しいコータくんに」


 ああ。ランバートくん、僕のためにガチギレしてくれてるやつだ。

 

「お前のその首を差し出して謝らなきゃね」



 それは……いらない…………!!




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