11 流行りのカフェより、コン・アモーレ
さぁ、今日もお仕事頑張るぞい。
ガス使ってない、電気ぜんぶ消した。おっけー。天気もいいし、洗濯物だって帰ってくる頃にはからっからに乾いてるだろう。
玄関を出て、エントランスを出て。あれ?
「ほら、言ったでしょう?」
「ロッテってば予言者じゃん」
「マジかよコータ」
「え?え?」
なんかみんながいた。
全員社宅ちがうはずなのに。なんで?
「あのな、コータ。今日土曜日。わかるか?」
「え、うん」
「うちの部署、土曜と日曜はお休みなんだよ」
「おやすみ……?」
「分かってませんわね」
ランスくん、マリーちゃん、シャルロッテちゃんに取り囲まれた。あわー朝から視界いっぱいの良い顔。
「コータさん、休日の意味はご存知?」
「会社にあんまり人がいない日」
「うわ……」
なんかマリーちゃんがすごい顔した。
「休日というのはね、会社に行かない日の事を言うんですのよ」
「会社に……あっ在宅勤務?」
「マジかお前」
ランスくんまですごい顔した。
ていうか在宅勤務ならパソコン持って帰らなきゃ。あれ、でも支給されたのデスクトップだな。
「つまり、自宅用のパソコンを自分で買わなきゃいけなかったんだ! どうしよううっかり!」
「違います」
え、違うの?
シャルロッテちゃんのその顔、視線が氷点下だよ怖……。美人の真顔って怖いんだね……。
「コータさん、休日は、仕事を、しない。お分かり?」
「え、え……?でも、」
「復唱しなさい。休日は、仕事を、しない」
「休日は、仕事を、しない……」
「はいもう一度」
結局十回以上言わされた。
洗脳されちゃうぅぅぅぅ!!
「逆だぞ。洗脳解いてるんだ」
「あ、ハイすみません」
「ロッテがさ、コータはお休みの日も仕事しようとするだろうから止めないとって言ってくれたんだよ」
「そうなの……?」
「だってあなた、奴隷洗脳されている自覚なんてないのでしょう?」
奴隷洗脳て……。日本の会社員ってそんな物騒な事されてると思われてるのかな。
「シャルロッテちゃん、心配してくれてありがとう」
「別に、お礼を言われるような事はしてませんわ」
「でも来てくれたでしょう?」
ありゃ、そっぽ向いちゃったや。
もしかしてこれがツンデレとかいうやつなのでは。なるほどこれはかわいいぞ。
「マリーちゃんもランスくんも、来てくれてありがとうね」
「俺は休みの日もこの時間ならトレーニングで普通に起きてるからな。たいした労力は使ってないさ」
「あ、じゃあさ。コータにちょっとお願いがあるんだけど。ね、ロッテ」
「うん?」
僕にできることなら何でもするよ。
じゃあ、ってことで一時解散して十時に駅前集合になった。
なんてったってまだ朝の七時半。
「やったーー!!これ飲んでみたかったんだ!!」
マリーちゃんテンション爆上げ。その横のシャルロッテちゃんもおすましさんしてるけど目が輝いている。
「興味があったのですけど、システムなど色々よく分からなくて……」
「ああーー……はい、これは」
なるほど、そりゃわからんね。日本人でも慣れてなきゃ難易度エクストリームだもの。
亜人種というかモンスターというか怪物の、緑色のロゴがトレードマークのコーヒーショップ。あらまぁこの間ぶり!死んでからも見るとは思わなかったよ。
「そもそもあれは飲み物ですの?食べ物ですの?」
「うーん、その中間かなぁ」
しゃりしゃりしたゆるーい氷をストロー使って飲むアレ。
みんなでやってきた大きなショッピングセンターの一角に店を構える見慣れたあのお洒落さんは、最近できた地球のお店として今注目を集めているらしい。ていうか天界にも進出してるんだねこの店。ほんとどこにでもあるね……。関係者が天界に来たのか。それとも閉店店舗がニルヴァーナしたのか。店って輪廻転生あるの?そして仕入れ先はいったいどこなんだ。
「メニュー表借りてきたよ。このへんがシャリシャリの冷たいやつ、ここがコーヒーでこっちが紅茶ね」
「私あの期間限定のやつがいい!」
「うーん……ベリーのにしようかしら」
「俺はあんまり甘くないのがいいな」
やっぱり三人はあのしゃりしゃりにするみたい。僕もたまには飲みたいけど、お腹弱いからあんなにたくさん飲めないんだよね……。ショートサイズでもお腹痛くなっちゃうから……。
「じゃあマリーちゃんとシャルロッテちゃんはサイズと……何か追加トッピングしたいならここから選んでね。ランスくん、このコーヒー味のやつはどうかな。エスプレッソショット追加すればけっこう甘さは抑えられると思うよ」
「私、普通サイズでホイップ多め!」
「私も普通のサイズで、今回はトッピングなしにしますわ」
「俺はコータのオススメしてくれたやつにする」
「わかった。じゃあ、……えっと……」
実は僕、ずっと前から気づいてた。僕の説明を聞いてるのが三人だけじゃないってこと。
「カフェラテは分かるが、他のコーヒーはどういうモノなのだ」
「えっと、これはキャラメル、これはチョコレートのシロップが入っています」
右斜め後ろのチョビヒゲのおじさん。
「この紅茶はなぁに?」
「いろんな味のミルクティです。甘さも選べますよ」
左斜め後ろの豹のお姉さん……補食されるかと思った……。ガチめのデカイ肉食獣が背後にいるのは恐怖しかない。
「大きさが分からないのよねェ」
「レジで言えば見本を出してくれま゛ッ……っす、よ……」
真後ろのブヨブヨのナニカさん……補食されるかと思った……。振り返ったら視界いっぱいの口だった今夜夢に出る(確定)
とにかく三人のぶんの注文をしよう。そうしよう。
でもやっぱり他のみんなもぞろぞろついてくるよね、そうだよね……。
「そなた、日本人か」
「あ、はい。えっと、もしかしてあなたもですか」
「うむ」
右後ろにいたチョビヒゲのおじさん……確かに背が低くて黒髪。とっても親近感。しかし日本人なら注文方法くらい分かったのでは?
「私は承和の生まれなのでな」
しょうわ……これ昭和じゃないな確実に。いつよ。知らんよそんな年号。日本の年号レパートリーの多さよ。
そんなこんな会話をしてたら順番がきた。僕も含めて四人ぶんの注文をして、会計は僕。今朝のお礼だからね。さ、あとはあっちで受け取るだけなんだけど……。
「えっと、分かります……?」
「…………」
ですよねーーー!!
おじさん、そんな顔しないでよ僕おじさんのこと見捨てたりしないよ!!
そんでもってその後ろの豹のお姉さんもブヨブヨのナニカさんも!そんな顔で僕をみないで!!表情なんてまったく分かんないけどそういう顔してるんでしょ知ってるんだからね!!
結果。
「よろしければメニュー表どうぞ!分からなかったら聞いてくださいね!」
緑色のエプロンが貸与された。
解せぬ!!!
「コータ、働かないと死ぬ呪いにでもかかってるんじゃないのか?」
「呪われてる感じはしないんだけどなぁ……」
「働くのを止めたはずなのに、結局働いていますわね。それに、あの方働きすぎでお亡くなりになったはずでは?」
「働いても働かなくても死ぬのか……」
そこ!!!不穏なこと言わない!!!!
僕すでに死んでるからさすがにもう死ねないよ。
「いやぁ本当に助かりました。人手が足りなくて案内まで手がまわらなくて」
「いえ、僕実は学生時代にバイトしてたので……」
「えっそうなんですか!」
「……
「……あー…………」
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