23 小説投稿サイトの斬新な使い方



「さぁて、次の申請は?」


 ペラリと取った一枚の紙。

 ざっと目を通して、うん。


「悪役令嬢……」


 僕の呟きを拾ってしまったらしいシャルロッテちゃんの目が死んだ。


 

 

「転生先は魔法世界。公爵家のご令嬢」


 うんうん。よくある申請だね。それで、欲しいのは乙女ゲームの知識を持っている人。わぁ、幅広いようで限定的。っていうか何故。


「ええと、貴族学校へ転入してくる特待生がこの悪役令嬢(仮)ちゃんの婚約者およびその周辺の男子を誑かす予定なので、それに対抗できる精神力のある子が欲しい、と……」


 誑かす予定 is 何?


「内線しよ……」



 そんなわけで内線をかけた五分後。僕とシャルロッテちゃん(アドバイザー)の前にはめそめそと泣く真っ黒い羽をもつお姉さん。

 どうして???


「ぅう……すみません、こんな申請……」

「いやあの、それはいいんですけどそろそろ泣き止んで……」


 こんなところで泣かれると、僕がなんかやって泣かせたみたいじゃんか。周りの目が気まずいよぅ。


「コータさんに限っては誰もそんな事思いませんわよ」

「それは信頼されてるってことでいいんだよね?」

「ノーコメントですわ」


 よしじゃあ信頼されてるってことにしとこ! コータが女の子を泣かすようなマネする訳ないってね。泣かせるような女性関係なんてないだろって言ったのは何処の誰ですか僕にだってそのくらい…………ないけどさぁ!!


「つまり、同僚さんの嫌がらせで特待生ちゃんが洗脳されるから、その対策でって感じですね」

「はい……」


 泣き止むの待ってたら日が暮れそうだからもう進めちゃうけど、このお姉さん同僚にずっといやがらせを受けているらしい。平民で魔力もちの子どもがどうしても必要なのに、その誕生をこれでもかというほど妨害されてきて、やっと生まれるというのにそれをとんだクソビッ○にしてやるって給湯室で喋っているのを聞いてしまったらしい。


 それに対抗するにはどうしたらいいか、考えた結果が「乙女ゲームの知識持ちを転生させる」。うーん、この……


「巻き込まれる方は大迷惑ですわね」


 場外乱闘もいいとこ。僕たちもだけど、転生させられるその子は本当にただ見知らぬ喧嘩に巻き込まれるだけでは……


「す、すみませ……あ!!」

「え、なに」

「その……同僚が、」


 泣いていたお姉さんが突然テーブルの下にさっと隠れてしまった。同僚?

 振り返ったら、遠くのほうに真っ白な羽の人が歩いているのがみえた。ああ、なるほどあの人なのね……。そういう事情なら異世界課にいるのバレたらヤバいもんね。内線かけたら「そっちいきます!」ってダッシュで来るくらいだし。


 天国にもいろいろな人がいるし、いろいろあるんだねぇ……。




 

「で、どうするんですの」

「うーん。とりあえず申請は通っちゃってるし、不備もないからやらなくちゃね」

 

 それはちょっとどうなの、って思っても、そんな主観で書類を突き返す事ができないのが社会のシステム。



「今回は元の世界を指定されていないけど、日本からいくよ」

 

 世界名「地球」

 国名「日本」

 生死「死亡」→輪廻「未定」

   「存命」→死亡時期「本日~五日」

 年齢「十五歳~」

 趣味「女性向け恋愛シミュレーションゲーム」


 精神的に強そうな人がヒットしてくれればいいけど……。だってこれ、よくあるやつじゃん。婚約者およびその周辺が全員敵になって婚約破棄されて、

 

「よくて別の方と婚約、最悪処刑ですわね」

「やっぱそう思う?」

「ええ。私これでも最近勉強してますのよ」

「勉強……? え、凄いね」


 さすがシャルロッテちゃん、とっても真面目だけど勉強ってなんの? 転生の? 教材はなに?


「これですわ」

「わぁとっても地球の小説サイト~!」


 カク○ムとな○うじゃん……。それ教材なの? この部署それでいいの?? まぁ僕だってだいたいの転生転移知識はそこからだから人のこと言えないけども。


「あたしも読んでる~」

「俺もだ」

「うっそでしょ」


 みなさ~ん! 勇者と聖女と悪役令嬢ご本人様たちに読まれてますよ~! 三次元ジャンルナマモノにはご本人様NGって書かないと……。


「ハーレムに王子と宰相の息子と騎士団長の息子がいる場合は、高い確率で処刑か追放ですわ。あと爵位没収とか」

「破滅ルートしか存在しないじゃん……ところでシャルロッテちゃん無理してない? 大丈夫?」

「してませんわよ。だって私は私ですもの」

「そっかぁ」


 ならいいけど。う~ん、お強いですなぁ。

 かちかち画面をスクロールしながらざっと見ていく。これは検索範囲を広げたほうがいいかな……お?


「いい人いまして?」

「あーいや、うん……?」


 いい人、というか、まぁ。


「あら、男性」

「うん。ちょっと珍しいよね」


 乙女ゲーム好きな男の人。しかもこの人、自衛隊の人だ。こち、と画像リンクをクリックすると出てきたのはムッキムキお兄さん。このランス君に負けず劣らずの肉体美が乙女ゲーム好きというギャップよ。

 しかもこの人、断罪もののウェブ小説いっぱい読んでるっぽい。


 ちなみにこの人類検索システム、名前生年月日に死亡予定日はもちろんのこと写真がついてるから見た目も分かるしなんなら蔵書もパソコン携帯の検索履歴も見れてしまう。


 プライバシー? 知らない子ですね……。


 ほんとにゴメンとは思ってるし、なんなら僕だってここに来る前にチーフとかに履歴見られてたらと思うと死にたくなるんだけど僕もう死んでるし。自ら地雷を踏みにいく勇気があるはずもないから「見ました?」なんて聞けもしないという地獄。


「その方にしますの?」

「……うん、そうだね」


 性格も経歴も確認した。何でも頑張って、最後までやり遂げるような人だ。同僚にも部下にも慕われていたみたいだし、上司からの信頼もあつい。

 

 この人ならどんな逆境も、きっと乗り越えてくれる。

 それが例え婚約破棄からの処刑でも、前世知識で予想できるだろうから回避可能だと思うし、追放されたってサバイバルできる人だからたぶん大丈夫。平民になったって元々日本人だから大丈夫だしそれこそ前世知識で何か商売とかやったらいい。だからたぶん大丈夫、たぶん……。


「強く生きて……」 


 破滅フラグしかない悪役令嬢に転生させちゃった……

 



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