6 創作サイトにいると雑学が増えていく
「パソコンは初期設定済みよ。これ、パスワード設定のマニュアル」
「ありがとうございます」
用意された席に戻ってパソコンをつける。おお、文房具も一式用意されてる。至れり尽くせりすぎる。
「ていうか天界パソコン使うんですね……。なんかもっと不思議なパワーでやるもんだとばかり」
「それだとできる人とできない人がいるからね」
なるほど、僕できない方だ。パソコンは覚えてしまえば誰でも使えるもんね。っていうか起動したけどこれ最新OSじゃんすごく見覚えがあります。モロ地球産。どこで買ってるの? 請求書の宛名どうしてんの?
「……マニュアルいらなかったわね」
「ソウデスネ……」
とにかくたったかたーとパスワード諸々を設定していく。僕もこれなら問題なく使えるね。初見の道具で仕事するかもってビビってたからひと安心だけど、こう、天国に対する夢とか理想とかが一個ずつ丁寧に捻り潰されていく感じが諸行無常だね。
「キーボード打つの早いな」
「そうだねぇ。僕パソコン苦手だから分からないことがあったら助けてねぇ」
「ひょわ」
変な声でた。いつの間にか両サイドからでっかいのとちっさいのにパソコンを覗き込まれてた。隣の席のランスくんと課長。
ランスくん、ごりごりのイケメンがそんな顔を近づけてはいけない。君のキラキラ顔面は凶器。眩しさで目が潰れるかと思ったし、ド平凡な顔の僕の心が潰れるいや潰れたしすごくいい匂いしたこれだからイケメンは。
そして課長。ちったいおててでデスクを掴んで、一生懸命背伸びしてる。かっ、かわいい~~~!!バーコードハゲだけどかわいい~~~!!ちょっとお腹がでてるおっさんだけどかわいい~~~!!
「な、慣れてるからだと思います……」
「じゃあそれだけできるようになるまで頑張ってやってたって事だな」
「いやそんな事は……」
「そんな事あるんだよ。凄いな、コータ」
イケメンは中身までイケメンだった。でもそのイケメンぶりを僕に発揮する必要あった?僕が女の子だったら惚れてたぞ。
しかも何故か頭をポンポンと撫でられた。
は??この顔面に微笑まれながらの頭ポンポンで陥落しない奴いる?? マァ僕はオチませんけど!
フリじゃないぞ。だって見てよ僕のこのTHE平凡顔を。日本人特有の平たい顔。
ランスくんのホリが深くて鼻筋とおってシュッとした顔と比較してみなさいよいや嘘やっぱ比べないで泣いてしまいます。
つまり、万が一僕がランスくんにオチたところで需要が無……あるな? なんかそういえば美形と平凡の組み合わせはよく広告バナーで出てくるな。ははァンつまりそういう事ね?ここでBLして需要を満たせって事ね?
だが断る!
「設定終わった? じゃあ早速やってみましょ」
こんなにけしからん見た目の上司が隣にいてBLする暇があると思うなよ!僕はイケメンの筋肉に埋もれるよりも美女のバズーカボインで窒息死する方を選ぶ!
「実際の申請を持ってきたから、この内容に合った人物を探してね。さっそくだけど日本指定よ」
部内システムを立ちあげて、人類データベースにアクセス。ここにすべての世界のすべての人のデータがつまっているらしい。膨大すぎ。
「今回は転生申請だから、すでに亡くなっていて次がまだ決まっていない魂か、直近で亡くなる予定の人から選んでね」
検索条件指定欄にどんどんチェックをいれていく。
世界名「地球」
国名「日本」
生死「死亡」→輪廻「未定」
「存命」→死亡時期「本日~五日」
申請に対する期日は五営業日だから、本当は今日から三日以内くらいじゃないとギリギリかな。でもとりあえず広めにとっておく。
「ええと、名前と性別、年齢は指定無しで……」
種族と魔力の有無は日本人であれば固定で「人間」「魔力なし」だから特にチェックしなくても大丈夫だろう。
性格も指定無し。趣味・特技欄に「農業知識があればなおよし」ってあるけど……それだけ?
「いや幅広すぎでしょ」
ほらもう検索結果余裕で二万越えてんじゃん。……えっ二万もいるの……? この条件で……? 試しに「死亡」のチェックを外してみた。今日から五日以内に死ぬ人、いちまんななせん……。
そっと「死亡」にチェックを戻した。
「とにかくもうちょっと絞らないと。あ、そういえば転生先の世界ってどんなですか?」
「世界のデータベースがあるわよ。デスクトップに戻って……このアイコン」
別システムにアクセスして、世界名で検索。おお、魔法がある世界なのか。ここ五十年くらいは大きな戦争もなし。平和だね~。でも平和になって色々発展したおかげで環境問題が出てきた。どこも似たようなものなんだね。
転生した後の設定が
性別「男性」
種族「人間」
魔力「有」
職業「領主」
付与予定能力「植物の成長促進魔法」
へぇ、成長促進魔法がチートでつくのね。
転生理由「都市部への人口流入、土壌汚染により農作物が減産傾向。将来予測される食糧難に備えるため他世界の知識を投入し農作物の増産を目指す」
すげー難しく書いてるけど、これって領地改革系異世界転生モノってことでおけ?
農業なんて分からんし、とりあえず農家さんから探すかな……いや待てよ。
「学歴って検索できます?」
「できるわよ。詳細検索の中にあるわ」
学歴「農業大学卒」「農業高校卒」
お、これでだいぶ絞れたぞ。
「どうして農業従事者から選ばないんですの?」
「領主っつってもこれじゃ農民みたいなもんでしょ?」
「ヒョッ」
なんか覗き込んでくる人が増えた!頭上から聞こえてきた可愛らしい声たちに恐る恐る上をみてみれば、綺麗な白金と薄紫。マリーちゃんとシャルロッテちゃん。
い、いいにおいがする~~~!
「で、どうなの?」
「アッハイ、あの、この転生理由を読んだ感じ、沢山収穫するよりもっと根本の、土壌汚染の方に問題があるんじゃないかなーって」
この世界の現状も読んだけれど、環境破壊が急激に進みすぎて何をしたらいいのか分からない状態みたい。だけど、まだ転生者で事足りる程度の時間的猶予がある。本当に切羽詰まってるなら成長するまで待たなくていい転移者を欲しがるはずだからね。
「植物の成長促進能力を農業に使うよりも、土壌の改良だとか痩せた土地でも育つ野菜なんかを研究する方に使った方が将来性も考えるといいんじゃないかなー……なんて……」
「それで学歴?」
「農業が主なら農家さんでいいと思うんですけど、この場合は専門知識が必要かなって……あと、領地経営も同時にしなきゃなので……例えば卒業後に農業関連の企業立ち上げた人とかいないかなーって…………」
別に社長さんじゃなくてもいいけど、ある程度人の上に立つ経験があればそれに越したことはないのでは。
「……アンタ……」
「ひっ!し、新人がナマ言ってすみません……!」
やっぱダメだった!? なんか違った!? 日本のサブカル知識でやろうとしてるのがまず間違いですよねすみません!!
「そうやって考えるんだ。参考にするね」
「えっ」
「ほら、やっぱりコータは凄いんだよ」
「うんうん、初めてとは思えないよぉ」
「あ、あの、そんな、こんなのはたまたまで……」
「過度の謙遜は嫌味に聞こえますわよ」
「ご、ごめんなさい」
褒められた……?
仕事で褒められるなんてはじめてすぎてよくわからないけど、
「今ある問題だけじゃなくて、その世界の未来の事まで考えてあげられるのは君の美徳ね。やっぱりコータくんをスカウトしてよかったわ」
「……えへへ」
エヴァさんがそうやって笑ってまた頭を撫でてくれるから、僕も思いきって働いてみようと思ってよかった、なんて。
そういう話を小説投稿サイトで読んだことあるだけってのはお口チャックしとこうね。
僕は死人だから口なんてないんだよ!
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