7 トイプーは可愛い。異論は認めないこともない


 転生の軽めの案件を回して貰ってやっていれば、あっという間に昼、そして夕方だ。

 そうそう、昼休みとかいう文化があったんだよ。すごい。都市伝説の類じゃなかったんだね。マァ隣のビルに書類提出しに行ってたら終わっちゃったけど。うーんお役所。


「今日のお仕事もおしまい!この後どうする?」

「そうですわね、コータさんも来たことですし」

「コータ、何食いたい?」


 キンコンカンコン鐘が鳴って、まわりはざわざわ声が大きくなった。隣からランスくんが聞いてくるけど。


「まだこれ終わってないので……」

「それ今日来た申請でしょ?まだ時間あるじゃん」

「えっでも……まだ十七時ですよ?」


 だってまだ外明るいよ?こんな明るいうちに仕事が終わることなんてないんだよ。


「あのな、ここ十七時が定時だぞ」

「知ってますよ」

「知っているなら何故帰ろうとしないんですの」

「定時で……帰る…………?」


 とは?


「駄目だこりゃ」

「ハイハイ、撤収~」

「この子昼休みも抜けて大丈夫ですか?って聞いてきたのよ」

「末期ですわね」


 横からのびてきたランスくんとチーフ ――エヴァさん皆にチーフって呼ばれてるから僕もそうすることにした―― の手のひらに頭をわしゃわしゃ撫でられている間に、マリーちゃんとシャルロッテちゃんによってデスクの上が片付けられパソコンが落とされてしまった。


「あ、あのあの……僕まだできますよ?」

「よし行こ。ランス、コータ持って」

「おう」

「あわぁ!?」


 ランスくん急に持ち上げないで!ていうかなんで僕だっこされてるんです!?!?こんなイケメンにだっこなんてされたら全世界の女子から刺されるでしょよく考えて!いやその前にだっこしなくてもよくない?


「じゃあチーフ、先行ってるね」

「ええ、課長と後から行くわ」


 どなどな。




「地球は随分若いうちからお酒が飲めますのね」

「国によりますよ……?」


 会社近くの居酒屋にて。

 そう、居酒屋。どこからどうみても居酒屋なのここ天界なのに。「居酒屋 東京」は大にぎわい。満席だ。

 マリーちゃん曰く「ちゃんと地球人がやっている地球食のお店だからおいしい」んだって。どこにでもそういう問題ってあるのね……。


 満席直前で席を確保して、とりあえず飲み物をオーダーしてお通しとおしぼりが目の前にでてきて。そんな日本の日常。実家にいるような安心感。


「お待たせしましたぁ!生二つ、ジンジャエールと烏龍茶です!」


 アルバイトの店員さんがスライム状のナニカさんでなければね!!!

 店主は地球人というか日本人だから大丈夫。味はちゃんと日本の味だよ。


「日本では何歳からお酒飲めるの?」

「二十歳ですよ」

「えっ」


 国によるっていってもだいたいそのくらいからじゃなかったかな。十六から二十一くらいまでの間。

 ていうか三人とも固まっちゃったや……。


「……僕、みんなより年上ですよ」

「え、冗談でしょ」


 ランスくんが二十五、マリーちゃんが十八、シャルロッテちゃんが十九だったっけ。


「僕三十二歳です」

「その見た目で!?」 


 そうだよこの見た目でね! 

 慣れてるからいいけどね。世界的に童顔に見える日本人の中でも童顔中の童顔とは僕のことだ。未だに中学生に間違われるんだぞ。コンビニでお酒買う時は免許証をお金と一緒に出すし、夜中に帰宅中に警察に声かけられて職質かと思いきや補導だったんだぞ。

 黒髪だと余計に中学生だから茶色に染めてパーマまでかけたというのに効果なんてなかった知ってた。


「こんなに小さいのに?」

「僕だって背伸びしたら百六十越えるよ!」


 ぜんぜん伸びなかった身長はしょうがないじゃん!成長期なんてものはマボロシだったんだ……。

 あと隣に推定百九十センチオーバーのランスくんがいるのがいけない。僕が余計に小さく見える。


「そうやってキャンキャン鳴いてるところもな」

「せめて吠えてるって言って」


 ランスくん曰く、僕はゼオガスっていう魔獣の幼獣ににているらしい。なにそれ魔獣とかかっこいい。名前も強そう。


「こっちにも似てるのいたよ。カフィーっていうやつ」

「私の世界だとチャスムという幻獣が似てますわね」

「へぇーどんなの?」


 幻獣だって!すごい!ファンタジーだあ!

 本当にみんなちがう世界から来たんだね。居酒屋でみんな携帯端末(天国の門支給、移住者特典。僕ももらった)いじってるからあんまり実感ないけど。日本じゃんココ。


「これゼオガスな」

「カフィーってこれ!」

「チャスムはこれですわ」

「どれどれ…………トイプー!!!」


 ぜんっっぶトイプー!!

 みんなの携帯端末に表示されているその魔獣というか幻獣というか茶色いモフモフ、地球だとトイプードルっていうんだぜよろしくな!


「世界が違っても同じ生き物がいるんだね」

「そうみたいですわね、名前は違いますが」

「魔獣ならこいつ火吹いたりするの?」


 名前もかっこいいし、もしかしたらそういう可能性もある? 進化とかしちゃう? ポケ◯ン的な。

 

「いや、鳴くだけ」

「うちも」

「こっちもそうですわ」

「なんでだよ!!」

「かわいいよ?」

「でしょうね!!」


 トイプーの可愛さは全世界(異世界含む)共通なんだ。ということは、トイプーに似てるという僕も全世界(異世界含む)共通で可愛いということ……? いやんなわけあるかい。


「えっそれで僕の頭撫でてたの……?トイプー可愛い~って思われてたってこと……?」

「まぁそうだな」

「否定してよぉ……」


 しょんぼり。前に座っているマリーちゃんがフライドポテトをつまんで僕の前に。それをぱくり。もしょもしょ。おいちい。


「かわい~い」

「中身おじさんだよ……」

「そう見えないからいいの」


 いいんだ……。まぁマリーちゃん十八才、女子高生くらいだもんね。JKなら仕方ない。ていうかJKにあーんされちゃったや。向こうは僕のことトイプーだとしか思ってないけど。


 ついでだからと僕も携帯端末を出してみんなとアプリのID交換してオトモダチになった。

 初期設定のまま変えていなかった僕のアイコンはJKの手により無事にカフィーという名のトイプーの画像に設定された。




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