8 どんな世界で生まれてもJKは携帯が体の一部



「皆さんココで働いてどのくらいなんですか?」

「敬語なしでいいぜ。そうだな、じゃあ軽く自己紹介でもするか?」

「そだね。あ、あたしもフツーに話してよ」

「うん。わかったありがとう」


 最初はマリーちゃん。一番先輩。


「改めまして、マリーだよ。十八才ね。レギューって世界で生まれて十六でショーホルって世界に転移して聖女やってたんだけど、クソアマに嵌められて偽聖女って言われて牢屋に入れられちゃってさぁ」

「まって」

「で、ちょうどスタンピードが起きちゃって、結界の人柱にされて死んだんだよね。ちょうど二年くらい前かな」

「まっっって」

「あ、趣味は料理だよ。今度お菓子作ったら持って来たげるね」


 最後のやつだけで十分だった。自己紹介ってこんな重いやつだっけ? 死んでるから? いや死に方ァ……。


「次は俺だな。ランスだ。二十五歳。ヤグンからナチカテに転生したんだ。田舎の生まれだったんだが勇者の適正があるのがバレちまってな。勇者なんてやりたくなかったんだがオフクロと妹を人質にとられて仕方なく」

「ひィん……」

「運良く魔王を倒せたのは良かったんだが英雄って事になっちまって大変だったよ。最期は暗殺者に刺されて終わり。王様に危険視されたみたいだな。で、こっちに来たのが一年前」

「どうして……」

「トレーニングは趣味で続けてるんだ。一緒に筋トレするか?」


 どんなメンタルしてたらその状況でトレーニング続けよ!ってなるの……でも筋トレはする……ありがとう……。


「最後は私ですわね。シャルロッテ、十九歳です。私は転生も転移もしておりません。ずっとルウェサーバにおりました。公爵家に生まれ、第一王子の婚約者でしたの。けれど、転生してきたクソアマ……あら失礼、男爵令嬢を虐めた罪とやらで婚約は破棄されました」

「おぉう……」

「国外追放の途中で野盗に襲われてそのまま。まぁあの野盗もあの方の手の者でしょうけれど。それが半年前のことですわ」

「わりと最近んん……」

「趣味は読書ですわ。それと、私にも普通に喋ってくださって構いません。私の口調は癖なのでお気になさいませんよう」


 悪役令嬢とかいうやつだ……僕しってる……。ていうかそんなガチガチのお嬢様がよく一人で生活できてるね。慣れた? 偉いねぇ……。


「いやおっっっっも!!!!」


 重い重い重い重い重い!!!!

 設定が!!! 重すぎる!!!!

 その設定こんな居酒屋で合コンのノリで発表するやつじゃなくない!?!? こんなところで言うより小説にしてカク◯ムとかで連載した方がいいよ人気でるよ!! ていうかなんでそんな軽いの!? 僕がおかしいやつ!?!?


「ま、死んじまったもんは仕方ないしな」

「そだねー。私なんかはもう二年も経つし」

「私も特に」


 ええ……僕だったら絶対無理。実際そんなことされたら死んでも相手を許さないと思う。


「「「それはそう」」」

「あ、許してはないんだ……」


 そうだよね、死んだくらいじゃ許せないよね……死んだっていうか感覚的には移住だしね。

 

「で、コータの自己紹介は?」

「この流れで……? 山本光汰、三十二歳です。地球生まれの地球育ち、先祖代々由緒正しき一般市民。就職した会社がブラック企業で二十四時間三百六十五日、帰宅・食事・睡眠ほぼなしで働いていたら急性心不全で死んじゃいました。約一週間前に。趣味はとくにないけど、温泉めぐりとかしたいなぁ」


 これだけ。促されてとっさに自己紹介しちゃったけどマジでこれだけ。皆の壮絶エピソードの後だとインパクトが足りなさすぎる。いや、来歴というか死に方にインパクトはもともと必要ないな?


「貴方これだけって言いますけど、私たちと大差ないですわよ?」

「それ、社畜っていうんだよね? 地球の言葉で」

「奴隷扱いされてろくな飯も寝床も用意されずに使い潰されて死んだって事だぜ?」

「……おやぁ?」


 いや、そこまでは……と思ったけどマァ確かにそうかもしれないな?

 でもみんなみたいな壮絶人生と比べられてもな。どう考えても盛り上がりに欠けるよね。みんなはその人生でラノベ一本できあがるけど僕はどう考えても無理。ヤマもオチもイミもない。いやそれは違うやつ。ところで今時これ知ってる子っているの?


「お疲れさま~」

「あ、課長、チーフ。お疲れさまです」


 ワァ絶世の美女が居酒屋に。他のテーブルもみんなこっち見てるじゃん。マリーちゃんもシャルロッテちゃんも美人だから人物と居酒屋背景のバグ感がヤバイ。そういえばランス君もイケメンだからこのテーブルだけ顔面偏差値激高。は? フツメンなめんな?


「よいしょ」


 あ~~~課長だけが癒し~~~。

 頑張って自力で椅子に登ろうとしてランス君に引っ張りあげられてるのどうみても可愛い優勝バーコードハゲのおっさんだけど。


「ビールとカシスオレンジお待たせしましたぁ!」


 ビールはチーフの前、カシオレは課長の前。

 かーーーわいーーーい!!


「じゃぁカンパァイ」

「ところでなんの話してたの?随分盛り上がっていたみたいだけれど」

「コータの奴隷洗脳が解けてないって話」

「ああ。やっぱりカウンセリング必要だと思う?」

「うん」

「ああ」

「はい」

「おおごとになっちゃったな」


 カウンセリングとかいらないよ~って言おうとしたらシャルロッテちゃんに唐揚げ口に突っ込まれた。もしょもしょ。おいちい。


「ちょっと迷ったのよ。一回転生させて魂を休ませてからこっちに呼ぶか」


 それカウンセリングなの?魂をちょっと休ませてからって、あのラインナップで心が休まるかというとたいそう微妙では。


「植物ならいいかなって……」

「えっじゃあもしかしてコータ、あの時のパセリ……?」

「人違いです!!」


 僕はパセリではございません!! パセリにならなかった男、そう、パセリ未満。なんかやだ!!


「植物への転生申請は珍しいから私も覚えていますわ」

「そもそも何でパセリ……」


 人間から野菜に転生させられたら暴動が起きるよ。いや起きないな野菜だから。パセリの暴動ってどんな? ブロッコリーにでもなる?


「いやでも凄いパセリだったんだぜ? 誰よりも小さかったのに立派に成長して家を飛び出して、その身を削ってパセリの地位向上を訴えた伝説のパセリとして後世に……」

「それ頑張ってるのパセリじゃなくて農家のおじさん!!!」


 ただのパセリに伝説とか背負わせないで!!

 それただ種から育って出荷されておいしく調理されただけだから!!


 結果、アプリのアイコンがJKの手によってパセリを背負ったカフィーという名のトイプーの画像になった。


 解せぬ。




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