34 魔王城攻略RTA
魔王城前。
ランス、マリー、シャルロッテ、チーフ、課長、道真公、家康公のコータ捜索隊七名はそれぞれ
「うわ懐かしいなこの感じ」
「そういえばランスくんは本物の勇者様だったねぇ」
「儂も。
「ニホンには魔王が六人もいたの?」
「はっはっは」
のんきに冗談交えて話しているが、全員……ではないけれど戦闘に関しては自信があるのでこの余裕である。弱いやつは近づくことができないオーラすらある。
魔王城内部も、強者の群れがやってきたと気付きにわかに騒がしくなっている。最上階の二人はそれどころじゃないから気付いていないけれど。
「よし。そんじゃ……行くか」
ランスが大剣を振り上げる。己の気と魔力をのせる。ぐっと溜めて溜めて、振り下ろすと同時に一気に解き放つ。
――――ドォン!!!
すさまじい剣圧と共に解き放たれた紅い衝撃波が、重い城門を吹き飛ばした。
舞った門が、ぐしゃりと音を立てて落下する。下敷きになった魔物たちは、断末魔をあげる暇すらなかった。
「今行くぜ、コータ!」
真面目で優しくて人畜無害で気弱でお人好しでコロコロ表情の変わるちっちゃいアイツを、絶対に助け出す。
四方から飛びかかってくる魔族を先陣きって突き進んでいくランスと家康公。二人がばっさばっさと斬り捨てていくその後ろで、マリーが真横から飛び出してくるやつらを光の壁で弾き飛ばす。
それに悠々とした足取りでついていくのは道真公とチーフ、それからチーフにくっついたシャルロッテ。二人はそれぞれ雷と神通力で空から来る飛行タイプの魔族たちを叩き落としていく。
最後尾は課長(ほんらいのすがた)。見た目がモンスターすぎて目の前にいられると敵か見方か分からないし、魔物よりも魔物っぽい見た目をしてるのでこの配置。後ろからジュッという音がする度に断末魔が聞こえるので、シャルロッテは決して振り向かないと心に決めた。
それにしても。
魔族側にしてみたら、なんというか……マァ、相手が悪かったというか。
脳筋すぎてずっと座ってるとか無理で書類仕事ができなくても、魔王城にいる魔族が弱いわけない。むしろこの世界最高レベルの戦力がいるはずなのに。
ここまで一方的な魔王城攻略はそうそうないと伝説になるレベルでの蹂躙。なんかもう魔族のみなさんが可哀想になるレベル。束になっても敵わないってこういうこと。
一番の急所というか、唯一の一般人であろうシャルロッテを狙いに定めたヤツはマリーとチーフに完膚なきまでにフルボッコにされたうえで「サイテー。消えろゴミクズ」「自分より弱い相手にしか攻撃できないなんて、つまらない男ね」なんて美少女と美女に罵倒されて心にまで傷を負った。まわりでそれを見ていたやつはさっと目をそらしたし、以降シャルロッテは狙われなくなった。
そんな入口付近の攻防を経て、魔王城内に入ることに成功したコータ捜索隊メンバーだったが。
階段のぼって、中層階あたりから様子がかわった。
途中で出会った使用人と思われる魔族のおねえさんに魔王の居場所を聞き出したら、「でしたらついでにコレ持っていってくださーい」と何故か二人分の食事を渡され。
謎のでかい箱をいくつも抱えた屈強な魔族と出会った時には、すわ戦闘かと剣を構えたが「お疲れさまでーっす!」と元気に挨拶してその魔族は走り去って行ってしまった。
「……あのさぁ、」
「うーん……念のためまだ油断しない方がいい……とは思うけれど……」
「サンドイッチとスープ持って油断もなにもなくない?」
なんというか、平和すぎて。
すれ違う魔族が普通に挨拶してくるんだけど。武器持ってるの見えてない? さっきまで外で戦ってたし、凄い音とかしたハズなんだけど、ご存知ない感じ? ……ないかぁ。そっかぁ。
「…………着いちゃったけど」
最上階。魔王の部屋。
テンプレ通りのバカみたいにでかい扉は閉まっているので、中を見ることはできない。耳を澄ませてみても分厚いであろう扉に阻まれてなにも聞こえない。
「一応、警戒はしておこうねぇ」
「油断させておいてー……なんてパターンかもしれぬでな。念のため」
んな事はないと思うけど。
という言葉は皆それぞれ飲み込んで、とりあえず先頭のランスが扉を開けるためにノックをしようとして、ちょっと考えてやめた。いちおう、これでも魔王を倒しに来た勇者のていだったので。
勢い良くバァンと蹴り開ける……のも止めて、会社のドアを大きく開くくらいのテンションで開けた。さじ加減が難しい。
魔王の部屋の中は、よくある目が悪くなりそうな薄暗さでもなく、なんでこんなだだっ広い部屋に椅子一個しか置いてないんだみたいなクソ雑インテリアでもなかった。
ただ、異様といえば異様。
でかい事務机と、応接セットの上には書類が大量に置かれ、さらに部屋の隅にも箱に入ったなんらかの書類が積み重ねられていた。ああ、さっきすれ違った人が持ってたのってこれかぁ……。
ところでこれ、入っていいのか……?
「わん!」
「は? ゼオガス……?」
入り口で入室を躊躇していたら足元にちっちゃい何かが駆け寄ってきた。それは、みんなそれぞれ生前に住んでいた世界にいた生き物にそっくりだった。でもそれよりちょっと小さいような……?
「ま……まさか……」
「…………コータ、なの……?」
ここに来る前に読んだ資料にあった、現魔王の特性。対象者をまったく別の生き物に作り替えてしまう……。
最悪の事態を想像して声もでないみんなの足元を忙しなく動き回るこの生き物。
茶色くて、もこもこで、ふあふあで、目がまんまるくりくりで、ちょっとぴるぴる震えていて、わんわんきゃんきゃんくんくん鳴いているこのちっちゃい生き物は。
真面目で優しくて人畜無害で気弱でお人好しで表情がコロコロ変わるちっちゃな愛玩動物みたいなヤツだとは思っていたけれど、まさか本当に愛玩動物になってしまうだなんて!!
「――――ふふ、あはは、あはははは……!」
全員がバッと顔をあげる。
さっきは魔王の部屋とは思えない雰囲気のせいで気がつかなかったけれど、椅子をガタリと蹴立てて立ち上がった男がいた。
ランスと家康公が剣を構える。マリーが小さなカフィーを抱き上げて、シャルロッテに手渡した。
高笑いする男の頭には二本の大きな角。魔王の特徴と一致する。こちらを一切見ずに、虚空を見つめて嗤う男からは異様な圧がビリビリと伝わってくる。
「ははは、あーっはっはっはっは! ははっ、は、は……オエッ……はぁ…………」
すっ、と再び席についた男が項垂れながらペンを手にして何かを書き始めたのを確認して、ランスと家康公は剣を完全に鞘に納めた。かちゃん。
「…………え、あ、ど、どちら様ですか…………?」
その音に気づいたのか、魔王……魔王? なのか? 本当に? 特徴は一致するけど……よく分からんから魔王(仮)にしとこ。
魔王(仮)は落ち窪んだ生気のない目でランスたちを見てビクついた。そんなびびり散らかすなよ魔王(仮)だろ。
「えーっと……俺たちコータっていうヤツを探してるんだが、ここに来てないか?」
「あ、コータくんのお友だちですか?」
「ああ」
「コータくん~。お迎えきたよ~」
魔王(仮)が保育園の先生みたいな台詞で呼び掛けたのは、シャルロッテの腕のなかにいる茶色いもこもこ……ではなく、紙が山と積まれた机のほう。
けれど返事がない。
ランスたちがその机の向こうを覗き込むとそこには、
「――――うっわ…………」
丸めた毛布を撫でくり回しながら物凄いスピードでペンを動かすげっそりやつれたコータがいた。
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