3 日本のパスポートって世界最強クラスらしいね


「大丈夫?」

「ハイ……大変申シ訳ゴザイマセンデシタ……」


 落ち着きました。

 錯乱してウスイホンで一億回くらい読んだ台詞を口走った気がする死にたい。あ、もう死んでたんだった死ねない。生き恥じゃん生きてないけど。


「話には聞いていたけど、日本人って本当に綺麗好きなのね」

「いやまぁ……そうかもしれないですね……?」


 あっ種族的なものだと思われた。それならそれでいいや。


「じゃあ改めまして、私はエヴァ。もしも君がうちで働いてくれるのなら直上司になるわ。よろしくね」

「山本光汰です。よろしくおねがいします」


 こんなエッチなお姉さんが上司ならいくらでも働く。せいいっぱいキリッとした顔でお返事すればエヴァさんはにっこり笑ってくれた。眼福。


「まず、わが社は沢山ある“世界“を管理する非営利法人です。君がいた地球も沢山ある世界の内のひとつよ。」

「世界の管理……」

「我々管理者や運営者の事を君たち人類は神と呼ぶわね」

「えっじゃあ僕も就職したら神様ですか?」


 新世界の神となる……ってコト!?

  

「新たに発生する世界の運営に就けば確かに新世界の神だけど……ごめんね、うちの部署運営部じゃないのよ」

「あっ大丈夫ですそういうのじゃないです」


 大丈夫、僕は別に名前を書くと大変なことになるノートとか持ってないし、持ってたとしてもビビりなんで使えないです。ていうか日本のネタですみません、通じないよね知ってた。


「世界ってそんな……発生? するものなんですか?」

「ええ、放っておくとどんどん出てくるのよね」

「雑草かな?」

「だから私たちが管理しているのよ。際限なく増えていくし、場所はとるし」

「雑草ですね?」

「食いあって消滅しちゃったりするし」

「雑そ……突然の物騒」

 

 なにそれ怖い。そんな蠱毒みたいなことになるの世界って。それ、その世界にいた人たちはどうなっちゃうの?


「適正に管理して、粗悪な世界は間引いたりしながら良質な環境を整える事で、世界が発展して長く続くのよ。君のいた地球みたいに」

「そうなんですか」

「一つ一つの世界に運営管理者が就いて、そこで生まれる命や生態系を観察したり、時には手を加えたりして発達を記録して次の世界に繋げてくの」


 手を加えるとは……?

 深淵を覗きそうだからスルーしよ。心の安寧ってだいじ。


「協会についてのざっくりとした説明はそんなところね。詳しい事は入社後に。それで、うちの部署についてなんだけれど」

「はい」

「君は、異世界転生ってわかる?」

「はい?」


 唐突にオタク談義くるじゃん。まさかエヴァさん、こんな見た目でオタクだったらどうしよう結婚してほしい。じゃなくて、


「ええと……死んで違う世界に生まれ変わるやつですよね?」

「異世界転移は?」

「生きたまま別の世界にいくやつ……」

「すごい、完璧。さすが日本人ね」


 ぱちぱち~と拍手された。こんなことで。でも美人に誉められるのってすごいね、自己肯定感爆上がりするね誉められた内容はさておき。


「あの、なんの関係が……」

「それをね、うちの部署がやってるのよ」

「えっ」

「ようは人材派遣なんだけど」

「えっ?」


 転生とか転移って人材派遣だったんだ?? 言われてみればそう……ではないと思うよ??


「いやでもそれ、漫画とかラノベの話ですよね?」

「ううん、現実よ」

「いやいやいや。そんな非現実的な事、実際に起こる訳ないじゃないですか」

「そう思う?」

「だって突然地面が光って吸い込まれたら聖女になったり、トンネルのむこうの不思議の街の公衆浴場で労働したり、トラックに轢かれて死んだら勇者になって魔王討伐したり、過労死したらギルドに拾われて事務仕事す僕じゃん~~~!ここギルドじゃないけど僕じゃん~~~!」


 現実~~!!!実際に起こってる~~!!!


「転生と転移がちょっと前から運営部のなかで大流行してるのよね」

「こっちでも大流行でした。ファンタジーの話ですけど……」

「ああそれ、あんまりにも転生と転移が多いから周知しておこうって運営部の方で手を入れて流行らせたみたいよ。ほら、先に知識があると説明が省ける事が多いから……」


 まさかのそんな理由で。数年前からの異世界モノのオンパレードは神様の業務の一環だった……?


「じゃあ地球じゃない別の世界でも異世界モノが流行ってるんですか?」

「ううん、地球の日本だけよ」

「そうなんですか?」

「運営部の中でね、転生転移させるなら日本人が大人気なのよ」


 おっと??

  

「あんまり文句も言わないし、真面目だし順応性も高いし……。あと職人気質なのもあって、技術の応用とか改造とか得意な人が多いのよね。だから停滞気味の世界に入れると起爆剤になったり。あとは、食べ物にこだわりのある人が多いでしょう? 食が豊かになるのよね」

「うわぁそういうの読んだことある……」


 狙われてんじゃん日本人……。ていうかさっき僕自信も思ったよね、文句言わないって。そういう所かーなるほどね?? 扱いやすかったんだろうなぁ。


「僕もですか……」

「君も実は転生の候補に入ってたんだけど、うちが人手不足だったからこっちで引き抜いちゃったのよ。……ごめんね、転生したかった?」

「いえ、そういう訳じゃないですけど。僕でよかったのかなぁって」


 きっと僕以外にも候補なんて山ほどいただろうに。よりにもよって僕を選んだ理由がさっぱりわからない。だって僕、お世辞にも仕事ができるなんて言われたことないし。


「君の人となりも仕事ぶりも確認済みよ。その上で、君ならできると思ったし君と仕事したいと思ったの。……駄目かしら」

「いいえ。そういう事なら、ぜひよろしくおねがいします」


 よかった、決まりね。そう言ったエヴァさんのにっこり笑った顔がとっても綺麗で。うん、それだけでも働く理由になるし、それに。君と仕事したいだなんて言われたらもう頑張るしかないでしょう。


 

「…………ちなみに、転生するとしたら僕どんなのになる予定だったんです?」

「ええと、たしかその時あったのは……ダンジョンの三層目の初期ボス付きの戦闘員、魔法学校で王子の取り巻き成金貴族令息、パセリ、魔界との境で被害が耐えない村の農民……」

「ここで働かせてくださいッ!!!」


 ぜんぶ絶妙に嫌だ!!!

 パセリ!?!?!?

 



******

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