25 キーボード不調につきフリック入力したけど二度とやりたくないと作者が言っています



「コータくん。これ書いておいてね。来週中よ」


 天国にも……自己評価シート…………あるんだ……。






 

「……本当はね、再提出にしようと思ったくらいなのよ……」

「や、やっぱりダメですか」


 だよね、僕やっぱりちょっと調子に乗りすぎたよね。こんな自己評価盛ってる書き方したら流石に、


「自己評価が低すぎるわ」

「えっ」


 自己評価シート提出後の面談で、怒られたかとおもったらよくわからない怒られ方をされている……。チーフは怒っているというよりは困っている顔をしてるけど、僕も困ってる。どういうことなの。


「まずね、この『システムの使用方法がわからずチームに迷惑をかけた』なんだけど」

「はい」

「これは初出勤あたりの事を言ってるのかしら」

「はい」

「そう……」


「それから、ここに『申請の処理が終わらず、時間内に業務を終えることができない事が多かった』ってあるんだけど」

「はい」

「一人で残業したことあった?」

「一人ではしていないです」

「そうよね……」


「あと、この『申請内容が理解できず、申請者に確認連絡を取る事が多くあり他部署へ迷惑をかけた』っていうのは」

「はい」

「詳細を聞くためにやってる事よね?」

「求められた人物像と解離するとマズイので……」

「うん……」


 

 そんな確認をして、チーフは溜め息をつきながら天を仰いでしまった。ふーーーーっと長ぁい息をぜんぶ吐ききって、こっちを見る。目にハイライトがない。そんなに?


「ちなみに、この書き方は誰に習ったの?」

「えと、生きてた頃勤めてた会社の上司に……」

「その人の名前を教えなさい。ああそれから、今度酷い条件の申請が来たら私に回して。いいわね?」

「え、ええと、はい……、??」


 なんかよく分かんないけど、チーフの勢いが怖い。怖いから思わず名前教えちゃったけど、そんなの聞いてどうするつもりだろ?


「あの、再提出は」

「しなくていいわ。内容の確認ができたから」


 そっか。よかった。あの内容で問題な「でも問題だらけだから、次回は私と一緒に書きましょうね」……oh……。


「すみません……」

「君は悪くないわ。教えられた書き方が一般的なものではなかっただけだもの」


 一般的とは。なにが違ったんだろ、文法?


「普通はね、出来たことを中心に書くし評価点数は自分で一やニなんてつけないのよ」

「そうなんです?」

「そうなのよ」


 なにそれ初耳なんだけど。評価は出来なかったことを書くもんだし、点数は一かニ。そうやって新卒当時から言われてきたんだけどそれは……


「そんなものは忘れなさい今すぐに」

「アッハイ」


 圧が凄いよぅ。


「コータ君はね、とっても仕事ができるのよ」

「そんなことは……」

「あるのよ。あのね、君はうちのシステムを一回の説明できちんと理解してすぐに使えるようになったわ」

「それは、パソコンが地球産だったからで……」

「そうね。けれど、やり方も検索対象も一回で覚えてくれたわ。それに、君は申請の処理速度がとっても早いわね」

「検索エンジンには慣れてますから……」

「実はね、私と課長は度々残業して申請処理してたのよ。それがコータ君が来てからはずいぶん減ってとっても助かっているわ。君は内容も正確だから差し戻しされることもないし」

「担当の方にたくさん聞いちゃってるので……」

「聞くことは悪いことじゃないわ。それに、君が詳しく聞いてきちんと人を選ぶからとっても良い人が来てくれたって運営部からたくさんお礼が来ているのよ。コータ君だって、最近は相談をよく受けるでしょう? みんな君を頼りにしてるわ」

「そ、れは、」

「コータ君」 


 チーフと目が合う。すごく綺麗に微笑んでいるチーフと。

 

「良い機会だから、君の思う君の駄目なところを全部言ってみなさい。仕事の事も、そうでない事も。そんなもの、私が全部否定してあげるわ」


 思わず涙がでそうになって、慌てて下を向いた。これじゃ泣きそうなのバレてるよなぁ。

 でも、そんなことを言われたのは初めてで。

 もしかしたら自分が、こんなにも駄目な自分が、もしかしたらそんなに駄目なわけでもないんじゃないかって。

 

「もっと自信を持って。コータ君は、君自信が思うよりもずっとずっと凄い子よ」





 そんな面談終わり。さぁデスクに戻ろうかというタイミング。


「あ、そうだ」


 ミーティングルームの扉を開けたところで、チーフがこちらを振り返った。

 

「有給休暇とりなさいね」

「有給……休暇……?」

「有給休暇。10日あるわよ」

「し……知らない子ですね……」

「君の子よ。認知して」


 通りかかった人にものすごい勢いで二度見された。



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