27 三ヶ月天下(更新の可能性あり)


「S-1グランプリ……?」


 仕事終わり、ジムで適度に運動をしていたときに見つけた告知ポスター。ポップな文字で「誰でも参加可能! まってるよ!」とおそらくジムトレーナーのガルムさんイメージの可愛らしい虎のイラスト付き。

 何のイベントだろ。今度の日曜日かぁ。


「ねぇランスくん、これって僕も参加できるやつ?」

「死にたいのか?」

「物騒すぎる……」


 ほんと何のイベントなのさ。告知ポスターにしたって内容ほとんど書かれてないしさ。


「ちなみにランスくんは?」 

「出るぞ」

「出るんだ……」






「うぉぉおおお!!!!」


 日曜日、このジムで一番広いレッスンスタジオは異常な熱気に満ち満ちていた。筋骨粒々な男たちが所せましと溢れかえっていて大変むさ苦しいことこの上ない。


「さぁ始まりました第百六十七回最強一番グランプリ!実況は私、ジム支店長リュークと!」

「解説の山本光汰ですよろしくお願いします」


 どうしてこうなった?????


 いやいや皆さん、わーーーーぱちぱちぱちーーじゃないんだわ。僕がここに座っている事に対して疑問をもって。せめて誰だお前って顔して。

 なにも知らないまま今日のこのこやってきて、入り口で拉致されてここに座らされた僕の気持ち考えたことある??? お願いだから誰か説明して???


「ついにこの日がやってきましたねヤマモトさん!」

「えーっとそう……ですね? ……あ、カンペ。はい、『最強一番グランプリはたくさんの世界の猛者たちが集う当ジム当支店の名物イベント! 日頃の鍛練の成果を存分に出し合い誰が最強かを決める頂上決定戦です』……?」


 つまり?


「天下一武道会じゃん!?」

「なにそれかっこいい……! 次回からその大会名にしましょう!」

「やめてやめて問題しかない」

「はっはっは! それはともかく楽しみですねえ、実に三ヶ月ぶりの開催で私は昨日興奮して眠れませんでしたよ!」

「開催スパン短ッ!」


 最強ってそんな頻度で決めるもんなの!? 天下一武道会だって三年に一回の開催なのに!?


「おっと、そろそろ選手たちの準備が整ったようです!」

「僕は何の準備もできていませんが!?」

「ではさっそくはじめましょう! 第一試合、エズコネ組の鉄砲玉ビュリオス対紅き彗星の勇者ランス!!!」

「ランスくん!?!?!?」


 満員の観客たちの間から登場した二人は準備万端ヤる気満々な顔で前に進んでくる。

 ていうかランスくんに関してはまず色々説明してほしかったしこんなことやってるの知らなかったし紅き彗星の勇者ってその厨二病くさい二つ名なんなのとかいろいろ言いたいことはあるけどこれだけ言わせて。


「ランスくんの武器って騎槍ランスじゃないんだ!?!?」


 大剣かよ!!!!

 かっこいいな!!!!!


「さぁいきなり優勝候補のランス選手の登場、対するビュリオス選手は初出場です。この試合どうなりますかねヤマモトさん!」

「えっ!? うーんランス選手の大剣に対して、ビュリオス選手の武器はドスですから間合いの大きさ的には不利ですが、逆に懐に飛び込めればチャンスはあるんじゃないですかね」


 しらんけど!


 いやほんとに知らんのよ観客のみなさんはこんなド素人の解説聞いてなるほど~みたいな反応するんじゃない。絶対に君たちの方が僕より詳しいでしょ。


「それでは第一試合……開始ッ!!」


 カーーーン!!


「ゴング同時にビュリオス選手が突っ込んだ! しかし予想していたのかランス選手軽くいなします!」

「冷静ですねぇ。ビュリオス選手も動きが素早いですね。何度も突っ込んでいくスタミナもありそうです……あの、ところであのドスとか大剣って本物ですか?」

「もちろん本物ですよ! おっとランス選手の反撃! ビュリオス選手間一髪かわします!」

「ぎゃーーーーー!! 死ぬじゃん!?!?」

「相手を殺したら反則負け、そして天界からも追放です!」

「罰則が重すぎる!!!」


 第一試合、ランスくんが苦もなく勝利。さすが優勝候補……。僕は叫びすぎてもうすでに喉が痛い。これあとなん試合あるの……?



  

「第二試合、弊ジムの猛獣ガルム対暴走機関車ゼロ!!!」

「ガルムさんスタッフ側じゃないんだ!?」

「それでは……開始ッ! 両者武器なし、ステゴロでの戦いです!」

「ガルム選手、ガチ獣じゃん怖ッ!!! 虎の咬合力は四五〇キロくらいあるらしいですよ」

「あっ、だからこの前噛まれたときあんなに痛かったんですね!」

「噛まれたの!? なんで無事なの!?」



 

「第三試合、超人ヘラクレス対終焉の貴公子ナスル!!!」

「ヘラ……、ヘラクレス!? 嘘でしょ!?!?」

「試合開始ッ! おっとこれは、ナスル選手の持つステッキがなにやら怪しく光っています!」

「魔法ありなんですか!? 見た目には何も起こっていないですけど……」

「おやナスル選手から説明が。ふむふむなるほど呪いですか! だからヘラクレス選手は防戦一方なんですね!」

「フィールド型の呪いってここも範囲に入ってません!?!? ねぇ!?!?」




「第四試合、白百合の騎士アンリ対海道一の弓取りイエヤス!!!」

「いると思いましたよ家康さま!!! 対戦相手は女せ……あっ男性なんですね失礼しました」

「試合開始ッ! 優勝候補筆頭のイエヤス選手にどうくらいついていくのかアンリ選手!」

「家康さまは天下統一を果たした戦国武将で武術の達人ですから、そりゃあ強いですよね。両者剣での戦いですがとっても見ごたえが……ひぇッ!?」

「腕くらいなら治癒魔法でくっつくから大丈夫ですよ!」

「何も安心できな……いやあああああ!!!!」




「さぁ決勝戦! これにて最強が決まります!! 紅き彗星の勇者ランス対海道一の弓取りイエヤス!!!!」

「僕の知り合いたちが強すぎる……」


 僕はもうげっそりです。血沸き肉踊りすぎててつらい。平和ボケした現代人のか弱さをナメるな。


「ランスよ、同じ時に生きておったら重用したじゃろうにの」

「はッ。味方だとは限らねぇっすよ」

「マ、それもそうじゃの」


 うわなんかバトル漫画みたいなこと言ってる……

 現実でこんなこという人たちいるんだ……

 

「それでは決勝戦……開始ッ!!」


 カーーーン!!! ゴングが鳴る。


「両者、睨み合ったまま動きません!」

「実力者同士ですから、見定めているんでしょう」


 ランスくんの頬を汗が伝っていく。きっと彼らの中では今、数多の剣戟が繰り出されては弾かれ流され斬り斬られしているんだろう。


 ……しらんけど!!!



 ぽたり。汗が落ちた。

 瞬間、ぐっと踏み込まれた足が、――――――






「優勝はイエヤス選手ーーー!!!!!!」


 カンカンカーーン!! と試合終了のゴングが鳴って、会場は今日一番大きな歓声に包まれた。


「見事な試合でしたねぇヤマモトさん!」

「そうですね、ランス選手の怒涛の攻撃をすべて捌ききってカウンターを決めたイエヤス選手は流石の貫禄ですね」


 家康さま、強すぎか。

 いやでもランスくんもほんといいとこまでいってたと思うよ。これはもう経験値の差……天下統一した戦国武将と魔王討伐した勇者の経験値ってなに??? そんなもん二人ともカンストでは??? じゃあもうワカンネ~~~。



「次回はまた三ヶ月後、みなさんそれまで鍛練に励んでくださいね! それでは実況のジム支店長リュークと!」

「解説は山本光汰でお送りしました……」

「また次回お会いしましょう~~~!!!」

「えっ僕もまたやるの!?!?」

「スタメン入りおめでとうございます!」



 勘弁して!!!




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