32 直接行った方が早いと思ったら、そうでもない場合も多い



「コータくんの話が聞きたいなぁ」

「ええ、僕の?」


 デスクの上の書類と格闘をはじめてどのくらい経ったかな。片付けても片付けても、次から次へと運び込まれてくる紙。その合間にスタッフが食事をもってきてくれたり。魔王の部屋ってこんなに出入り激しいんだね。

 ていうか食事がぜんぶ片手で食べれるやつってところが生きてた頃みたいで闇を感じてとっても懐かしいね。


「だってコータくん神様でしょ? 天国ってどんなところ?」

「確かに天国在住だけど、僕は神様じゃないよ」

「そうなの?」


 うーん……どこから説明したらいいんだろ……。


「僕もランバートくんと同じで、ある世界で普通に生きてた普通の人間だよ」

「え、本当に?」

「うん。で、ある日突然死んじゃって」

「なんで!?」

過労死仕事のしすぎ

「嘘でしょそれ死ぬの……?」


 死ぬよ(経験談)

 ランバートくんは本当に気を付けた方が良いと思うマジで。予備軍だもん。いつか僕と同じ道をたどりそうで心配だよ。


「で、でもそれで天国行けたんでしょ? コータくん優しいもんね」

「いやそういうんじゃなくて……」

「え?」

「天国にある企業からのスカウトで……」

「どゆこと????」


 それはそう。それは僕も今でも思う。


「え、え……でも、まって。つまり……天国にも仕事がある……ってこと……?」

「…………はい」

「この苦しみからは死んでも逃れられない……」


 すごい絶望するじゃん……。闇落ち寸前みたいな顔になってるよ。でもまぁ、その気持ちは分からんでもない。だって天国だもんね。イメージがね。


「ヤ、でも生きてた頃の仕事は天と地っていうか天国と地獄くらいの差があるよ」

「それはどういう……」

「まず完全週休二日でしょ」

「天国じゃん」

「祝日休み、有給休暇あり、各種保険・福利厚生・手当・特別休暇あり」

「そんなまさか……」

「そしてなんと残業ほぼなし」

「それは流石に詐欺」

「ところがどっこい」

「マ?」

「マ」

「天国すごい……」

「ほんとそれ」


 ここまで、二人とも驚異のスピードで手を動かしながらの会話なんだよなぁ。休憩中かと思った? ここは天国じゃないから休憩なんて言葉は存在しないんだよ。ははっ。



 


 *****


「光汰がいないとな?」

「そっす。休みの間に消えちまったみたいで」

「ふむ。先週末は会っておらぬのでな……」

「儂は土日ジムにおったが見ておらぬの」

 

 運営本部 科学世界課 地球チーム。

 運営部のなかでも最大級と言っていいほど大きなこのチームは、ひとつの世界でなんとワンフロア使っている。そのなかでもひときわ大きく場所を取っているのが日本班。

 そのデカさに若干腰が引けドン引きしながらも、ランスはお目当ての人物にたどり着いた。長かった

。ここまでの道のりが、物理的に。内線かけりゃよかった。


「なんだなんだ」

「光汰? 誰?」

「噂の異世界課の坊じゃと」

「いなくなったとな」

「そりゃあ大変じゃ」

「トんだんか?」

「いや、あれはそのような事をする者ではございませぬ」


 しかもなんか、わらわら集まってくる。

 大きい人もいるけど、やたらと小さい人もいる。すごく痩せ細った人もいれば、太っている人もいるしナゼかでかい袋を担いでいたりする。

 けどまぁ、平均すると身長はランスよりだいぶ小さい。んで細い。

 なるほど、コータサイズ。


 しかもこのフロア、日本班にたどり着くまでに地球チームの中を通り抜けてきたわけだけれど、なかなかどうして姿形がバラエティに富んでいる。生きている人間と神の姿はだいたい同じ所が多いって聞いていたのに。

 犬とか猫とか、象とか。手がいっぱいある人とか。どうみてもモンスターとか。魚っぽい見た目の人はここ水なんてないけどどうやって息してんだ。あと燃えてる人。大丈夫か?


 改めて、世界っていろいろあるんだなぁとランスは思ったし、あの真面目で優しくて人畜無害でちっちゃくて弱すぎる友人のことが少し分からなくもなった。

 なんなんだ地球この世界




 *****



「それで、コータくんはどんな仕事をしてるの?」

「あ、ごめん言ってなかったね。えっと……この世界って死んだら生まれ変わるって概念ある?」

「うん」

「基本は同じ世界の中で転生するんだけど、別世界の神様からの要請で人材を引っ張ってー……つまりね、別世界に生まれ変わることがあるんだ」

「へぇ~はじめて知った」

「僕は"こんな人材が欲しいな"っていう要望を聞いて、それに該当する人を探し出す仕事をしてるよ」

「それは……」


 ランバートくんは、んん、と斜め上を見上げてちょっと考えてから僕をみた。


「やっぱコータくん神様じゃん」

「え? 違うよ」

「死んだ誰かの、次の行く先を決めるんでしょう? それはもう神様のやることだよ」

「そりゃ内容だけ聞けばそうかもしれないけど……」

「実際そうだよ」

「そう、かなぁ……」

 

 要望がなけりゃなにもしないし、探すだけで決定権は運営部にあるからどっちかっていうと人材斡旋業なんだけどな。


「それはそうと、だったらうちの神様ラジル様もコータくんに頼んで人を探してもらえばいいのに……」

「あ、申請はされてたよ」

「本当っ!?」

「あーー……書類不備があって…………」

「………………正直、そんな気はしてた…………」


 ごめん、ごめんてマジで。そんな落ち込まないでよぉ。ランバートくんの場合、すごく切実だから気持ちは分かるんだけど。


「コータくんもしかして、代わりに来させられた感じ……?」

「……あーー……」

「本当にごめんね……」

「ランバートくんが謝ることじゃないよ」


 たぶんランバートくんの事だから、僕がここに来たのも無理矢理だったって気付いてるんだろうな。でも、本当に君のせいじゃないんだよ。


「ランバートくんはさ、生まれ変わったら何になりたいとか考えたことある?」

「えぇ……? そんなこと考えたことなかったけど……そうだなぁ…………景色のいい自然のなかで動物とか野菜とか育てたいなぁ……」

「あーーね……」

「のんびり生きたい…………」


 それなー……。全社畜の夢だよね。わかる。

 



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