30 増殖する社畜
すぅぅううう~~~……
はぁぁあああぁぁぁ~~~………………
よし、大分落ち着いたぞ。たぶん。
状況を整理しよう。っつってもゲートで背中押されて気がついたら知らん場所にいたってだけだから整理もなにもない。
「……ラジルさーん…………」
無音。ですよね。しってた。
いちおう呼んでみただけです。
携帯? 圏外だよ。わかってた。
たぶんここ、ラジルさんの管理する世界だよね。そこが天国の電波……電波? 天国って電波使ってるの? まぁよくわからんけど天国と一緒のものをつかってるはずないよね。
さて、それじゃこのへんで一番直視しなくちゃいけない現実に目を向けますか…………。
「はぁぁあああぁぁぁ~~~………………」
THE☆魔王城
みたいなやつが目の前にある。
僕がいるのはそのでっかい門の前。
あーうん、なんかね、デジャヴだよね。わかるわかる。あの時はもっと綺麗な門だったけど。
突然謎のでっかい門の前に立たされるの、人生で二回目なんだよなぁ……。いや、あの時ももうすでに死んでたから正確には死後二回目ですね。どういうことなの。
あの時は仕方ないから開けてみようかなって気になったけど、魔王城の門はちょっと……ね……。
いやぁそれにしても、こんな典型的な魔王城ってあるんだなぁ……。空は真っ暗で時々雷が光ってて、暗くてちょっと年期の入った城は崖なのか山なのかそんなところに建ってて。
それからこういうところってゴゴゴゴゴ……みたいな音がするよね。あれ何の音なんだろうね。そうそう、ちょうどこんな感じの…………って…………。
「フラグじゃないですーーーーーー!!!」
やめてやめてやめて。そんな音するよね、って思った瞬間にそんな音たてながら門が開き始めるのやめてもらえませんか!!! 僕はフラグを立てたかった訳じゃないんで!!!
それではここでもう一度僕の装備をみてみましょう。
【そうび】
ぬののふく
しゃいんしょう
さいふ
けいたいたんまつ
どう考えても魔王城に挑む装備じゃないでしょ!!!!
そもそも僕は休日にちょっと会社行くだけのつもりの装備だからっていうか魔王城を攻略するなら他にもっといい人材いたでしょ!!!
扉が開いちゃう!
僕これ本気で死ぬよ!? 天国最弱の男を舐めないでよね!!
「ひぇっ……!」
そこから出てきたのは大きな男だった。
真っ黒な服にこれまた真っ黒なマントが翻る。見上げるほどの背丈なのに、その頭の上には二本の立派な角があるから余計に大きく威圧感が凄い。青白く、生気のないような顔は歪んで眉間には深い皺が刻まれている。鋭い眼光が僕を睨み付ける。
どうみても
なんッでいきなりラスボスが出てくるの魔王なら魔王らしく魔王の部屋で立派な椅子に座って待っててよね一生行かないから!!!!!
「――――――、や」
魔王が口を開いて、
「ヤマモトさんですか……?」
「…………アッ、ハイ、山本ですこんにちは……?」
「改めまして……ランバートと申します。よろしくお願いします」
「山本光汰です。よろしくお願いします……」
魔王に連れられて、やってきたのは最上階の魔王の部屋。そこでソファに案内され、紅茶まで出され……思ってたのと違う……。
「あの……今日はどういった事で……?」
「えっ、神から何も聞いてないですか……?」
神様ってたぶんラジルさんの事だよなぁ……。残念ながら何も聞かされず突き落とされただけですね。
「す、すみませんご説明もせず……!」
「いえいえいえいえ! 魔王様のせいじゃないので!」
がばっと頭を下げた魔王にびっくり。魔王ってもっと尊大な感じを想像してたんだけど。この魔王……本当に魔王なのかな? 魔王(仮)にしとこ。顔はものすごく怖いけど、ずいぶんとまあ腰が低い。僕と同じ波動を感じるのは気のせい??
魔王(仮)の頭をなんとかもとの位置に戻してもらって、とりあえず説明をしてもらうことにした。
「お恥ずかしながら……我々魔族は頭を使った仕事が苦手な者が多くてですね……」
「……ああ…………」
魔王(仮)がチラリと目をやった先、バカみたいに大きいデスクの上にも乗りきらないほどの大量の書類がある。僕もさっきからすごく気になってたけど、突っ込んだら駄目かなと思って黙ってたんだよね……。
「事務仕事ができる者を各地の領主にしているのですが、それも人数が足りない状況で……。魔王城にいた数名の者をそちらに回してしまったので今ここは俺一人でやっているんです……」
「えっ……で、でも魔王城ってその地方領ぜんぶの集約しなきゃなんじゃ……」
「おっしゃる通りで……」
つまりこの城の仕事と、魔王城が管轄している領地の仕事と、国全体の仕事と、地方領のあげてきた仕事ぜんぶ一人でやってるってこと??? それはいくらなんでも無理がありすぎるのでは??
「それで、神に相談したんです。もっと事務ができる者が生まれるようにしてもらえないかと。そして緊急の対策として誰かこういう事が得意な者を見つけ出してくれと……」
「………………魔王様、つかぬことをお聞きしますが……この世界……国でもいいんですけど。なんていう名前ですか?」
「この世界ですか? フライオスタですけど……え、知らない?」
あーーーーーーーーーー…………。
それこないだ転移申請が書類不備で再提出になってたやつですね~~~。書類は適当だわ、期限は過ぎてるわでちょっと酷くて課長が直々に突き返しに行ってたやつ。僕は管理担当者の顔を見てなかったから気づかなかったな…………。
つまりこれは。申請が通らなかったから異世界課のヤツを強制転移させてしまおうっていう……。
でもそんなことできる? ……できるな。うん、現世行って金ローでジ○リみてる道真さまがいるんだからできる。僕がなんで受肉してんのかは分かんないけど。
最ッッッ悪の展開すぎない…………?
「魔王様すみません。実は僕、この世界の人間じゃないんです……」
「え、それじゃあどこの……」
「あなたの神様……ラジルさんですよね? 彼と同じところから来てます」
「え、、え……? じゃあ貴方も、神……様…………」
「だからこの世界のことよく知らなくて……ってちょちょちょちょちょ待って待ってなにしてるんですか」
だからあんまり役に立たないかもって言おうとしたら魔王(仮)が突然土下座スタイルになってビビった。
「大ッ変申し訳ございませんでした!! 神様に向かってご無礼を!!」
「えっ!? いやいやいやいや、僕はそんな偉い人じゃないんで!!」
「この命をもって償わせていただきたく!!」
「お願いだからそんなことしないでぇ!!!」
………はい、落ち着いた? もういい?
「すみません、取り乱しまして……」
「いえあの、僕の言い方も悪くてすみません……」
二人で謝り倒して、とりあえずソファに座り直した。つ、疲れた……。
「でもですね、そういう訳であまりお力にはなれそうにないかなー……と……」
うわ……すごい絶望した顔するじゃん……。
心がいたい……。僕だって手伝ってあげたいけど、この国の内情も、なんなら地名さえ知らんのよ。基本知識ゼロでできる仕事があればいいんだけど。
「それは当然の事なので……大丈夫、です……」
「ご、ごめんなさい……」
「こちらが無理を言っているのは分かっているので。大丈夫です、俺が寝ずに頑張ればできることなので……」
「…………ちなみに、何日寝てないんですか?」
「………………三……五日……? いや……」
「寝ましょう!!!! 今すぐ!!!!」
そりゃ顔色悪いはずだよ!!!!
僕がなんとかやってみるから寝ようよ!!!!
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