神店員の裏事情

とある量販店で買い物をしたときのこと。


神店員がいた。


40代後半の、スラッとした女性だった。


「5円にはなってしまうのですが、Mサイズの袋が良いかなと思うのですが、いかがでしょうか」


ポイントカードの確認、駐車券の確認、袋の有無の確認。


品物を置き、会計を終えて出るときまで、100点満点というありきたりの評価では済ませられない、そんな神店員に出会うことが、たまにある。


言い方、イントネーション、タイミング、間合い、その表情から動作まで、全てが気持ちがいい。神の領域にいる店員は、これら全ての要素を踏まえた上で、マニュアルを超越した対応ができる人だ。いや、神だ。


客の事情やそのときのタイミングに合わせて、縦横無尽に対応できる。そうした方がお客様にとっていいだろうという完成形に、毎回たどり着く。


この人なら上場企業の社長秘書もできるに違いない。大学病院の受付もできるだろう。コンビニにもたまにこういう神店員がいるが、そのうち地元企業の社長からスカウトされるんじゃないかと思う。


「…でも吉田さんって、なんでこんなところでバイトしてるんですか?」

「なんで、って?」

「だって、仕事めちゃくちゃできるじゃないですか。吉田さんならもっと別のところで稼げそうなのに。前ってどこでしたっけ」

「病院」

「わー。やっぱり。すごい」

「いやただの受付だから。でも、もういいかなあ、ああいう仕事は」

「なんでですか?」

「まあいろいろあってね」

「いろいろって…クレームとか?」

「それはうちも一緒でしょ」

「じゃあなんだろう。あっ、病院って不倫多いとか聞きますよねー。医者と看護師とか」

「はは。そうなんだよね」

「えっ? 吉田さんも?」

「バカだよね。本当に」

「そうだったんですね…」

「だから大きいところはもういいかなって。お金とかも最低限あればさ」

「でも結構お給料良かったんじゃないですか」

「前はね。だから少し貯蓄もあるし。だいたい投資に回しちゃってるけど」

「投資? 吉田さんて投資家なんですか?」

「投資家って。違うから。NISAとかiDecoとか今いろいろあるじゃん」

「なんですかそれ。私にも教えてくださいよー」


なんて会話が、休憩室でなされてるに違いない。


…と一人想像しながら店を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る