赤星は群衆と同化できるチケットだ

寂しいけど放っといてほしい。


断るけど誘ってほしい。


「人は皆、わがままだ」


と尾崎豊は歌った。


「仮面をつけて生きるのは、息苦しくてしょうがない」


とマーシーは歌った。


中国の変面師のように人は何枚もの仮面を被っているが、全部剥ぐとわがままな素顔が出てくる。


ディズニーランドで群衆を掻き分け次のアトラクションへ向かうとき、人の多さにうんざりする。


しかし、もしディズニーランドで自分しかいなかったらと考えると、この上なく寂しい。


ポツンは嫌だが人混みも嫌だ。


群衆に溶け込めないと悲観するナルシストは、自分以外の人がみんなそこに溶け込めていると感じる誤解がある。


自分から見れば自分以外の集合体は群衆だが、自分以外の人から見れば自分は群衆の一部だ。


赤星の美味うまさは、おそらくここにある。


赤星は、群衆と同化できるチケットだ。


うるさい居酒屋は誰しも嫌うが、賑やかな大衆酒場は人気である。


騒音が安堵感と化すのが大衆酒場であり、その象徴が赤星だ。


日本最古のビールなだけに、この国の酒場では赤星が愛され続けてきた。そのため、赤星があるだけで大衆酒場の雰囲気を醸し出す。


賑やかな大衆酒場で赤星を飲むと、群衆と同化し気が楽になる。うるさいと感じるのは外からの視点であり、うるさいの一部になってしまえば賑やかで楽しいと感じる。


そして自宅で一人飲んでいても、誰かと繋がっているような気になれる。


そんな役割を持つビールは2つとない。

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