人の感情を動かすのは視覚より聴覚だった

「男なのにいつも家事してて偉い」


とよく誉められる。


確かに私は毎日自炊するし、掃除洗濯もする。


はたして本当に自分は家事が好きなのか、冷静に考えてみたことがある。


私は家事をするとき必ず、Bluetoothイヤホンをつける。


YouTubeか音楽かNetflixか、なにかを聞きながら家事をする。


試しに、一度これを外してやってみた。


これがひどく面倒に感じた。


本当に家事が好きな人間なら、掃除機をかけていても洗濯物を干していても、楽しいと感じるはずだが、Bluetoothイヤホンなき家事は、とんでもなく退屈だった。


つまり私は、家事が好きなのではなく、なにかを聞くことが好きなのだ。


小学校の通知表にはいつも、「落ち着きがない」と書かれていた。


今でも、ソファに座ってゆっくりなにかを聞く、ということができない。


通勤中に聞く、マラソン中に聞く、家事をしながら聞く、なにかをしながらでなければ、「聞く」という行為ができない。


面倒でもやらなければならない家事


聞きたいものはあるがおとなしく座って聞くことができない性格


この2つが出会うと、家事をよくする男が誕生する。


なにかを聞いているだけで、面倒に感じる時間が楽しい時間に変換される。楽しいと感じているから家事ができるだけ。Bluetoothがない時代だったら、全く家事をしていなかったと思う。


面倒なものを楽しい時間に変えてしまう聴覚の力は、逆もまた然りだ。


文章を書くときは、言葉が入っているものは聞けない。英語(洋楽)なら大丈夫かと思ったが、ダメだった。


文章を書くときはインスト一択。それくらい聴覚は、人の感覚を奪う。


ホラー映画が苦手な人は、一度無音(消音)で観てみてほしい。さほど怖くないはずだ。


情報量は聴覚より視覚の方が多いが、人間の感情は、視覚より聴覚によって動かされることがわかる。


免許の更新でいくら教習ビデオを見せても煽り運転をする奴は絶えないが、電話(音声)だけで大金を振り込ませることはできる。


催眠術も、耳を塞いでいるものにかけることはできない。


それならばと、エロビデオを無音で見てみた。


これが見事に興奮しない。


おそらくこう言っているのだろう、こういう声を出しているのだろうと、予測でいくらか興奮できても、とうとう賢者に達することはできなかった。


しかし、音声だけで賢者に達することはできる。


ダイヤルQ2やセクシーボイスが流行った時代はあっても、サイレントAVが流行った時代はない。


人の感情を動かしたいときは音。


これは、恋愛でもエンタメでも活かせることである。

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