味覚がなくなりました

ネット社会の到来でSNS時代になると、なるべく短く注意を引ける、過剰とも言える強烈な引きの一文が正義となる。


炎上しようがなんだろうが、ページビュー、リツイート数、再生回数さえ取れればこっちのもの。金になるし、それでいい。


すると、一部の極端な思想や物言いが、一般論のように扱われるようになる。ただ、現実世界に目を向けると、やはりそれはネット向けの極端なイロモノだと普通は気づく。


しかし長い間ネットに住んでいると、次第にその狭間が分からなくなり、現実世界にその“ノリ”を持ち込む者が出てくる。迷惑系YouTuberもその類。


世界はその他大勢の8割の人間で構成されている。ほとんどの人はまともだ。


一部の極端な炎上商法が正義とされる世の中だからこそ、その他大勢の観点から綴っているのが、この「8割の流儀」だ。


しかしこの度、その他大勢の8割ではなく、極一部の1割、厳密には0.1割かまたはそれ以下か、そんな希少種になった。


味覚障害だ。


今なお味覚がない。嗅覚もない。


数日前、発熱した。


熱はすぐに引いたが、味覚が消えた。


そこから今日で7日経つ。


嗅覚はわずかに感じるようになった。


味覚も、最初だけわずかに味を感じる。


口に入れる瞬間わずかに香りを感じるからかもしれない。


味覚障害は亜鉛とビタミンB12と鼻うがい。ネットの情報ではそれが共通している対処法だった。


いずれも実践しているが、まだ戻らない。早い人で4~5日、平均で2週間程度とも言われるし、半年以上戻らなかったという人もいる。


味覚障害になって、人は物を食べるために生きていると改めて感じる。


原始時代にまで遡らなくても当然だろうが、飽食の現代においてもやはり私たちは物を食べるために生きているようだ。


食がなくなるだけでこんなにも世界が味気なくなるのかと痛感したからだ。


喉が渇く。小腹が空く。その次の瞬間憂鬱になる。そうだ、味分からないんだったと思い出すから。味覚がなくなったことに慣れることはない。


怪我をしたとき、病気をしたとき、日常に感謝する。


味覚という当たり前の感覚がなくなった経験から得れるものは多い。


味覚以外は正常だとすれば、五臓六腑、五体満足の現在に感謝せねばならない。


明日指が一本消えたら、片腕が、片足がなくなったら、胃が、肺がおかしくなったら。


味覚がないのは確かに辛いが、それ以外は正常だという奇跡を忘れてはならない。


現代の日本に生まれただけで宝くじに当たったようなもの、何度もそう言ってきた。


続く物価高、増税、うんざりだ。いつまで経っても未来が不安だ。僕らの手の中にあるはずだった未来は随分重たい。


それでもやはり、現代は恵まれていると言える。


不満はある。しかし明日爆弾が落ちてくる緊張感はないし、水がなくなる心配もない。夜寝ていて殺される心配もない。ラッキーだ。


味覚が戻ったら、それはやはり奇跡だ。

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