TikTok収益化開始に見るネットメディアの未来
「虫歯を削って治す時代は終わった」
私はこの情報を今から20年前くらいのテレビで見たが、今なお削る治療が主流だ。
月面旅行とか火星移住計画と言われても、未だに健康診断でバリウムを飲んでる時点で信用ならない。自分の胃にさえ辿り着けない人類が、そんな簡単に火星に住めるものか。最後に下剤飲んでバリウム出してくださいねってなんだそれは。どこが宇宙時代だ。
「これからは宇宙ビジネス」「GAFAはどうなる」「イーロン・マスクが」
本連載「8割の流儀」は世の中を形成しているその他大勢の目線から綴ったコラムだ。最新虫歯治療も宇宙旅行も一部の金持ちに与えられた選択肢の一つであって、ガソリン代が180円台に突入して騒いでいるような私を含むその他8割の人にとっては、身近ではない話であることには違いない。イーロン・マスクがなにを始めようが、卵の値段の方が大事なのだ。
8月10日より、TikTokの収益化が日本でも始まった。
これを、その他8割の人間の観点から考えてみる。
アメリカと中国の覇権争いが繰り広げられているが、YouTube(Google)一強だったネットメディアを、中国発のTikTokが今制圧しようとしている。
ここに「待った」をかけたのがやはりGoogleで、YouTubeショートを実装し、今年2月に収益化も開始した。「ショートを投稿するならTikTokでやるよりYouTubeでやった方がいいですよ」という訴えだ。
アメリカではTikTokの利用を停止する法案が議会へ提出されるなど、TikTokを脅威に感じていることは間違いない。
しかしTikTokには、Googleでさえ追いつけない独自のアルゴリズム作り出したことで、良質なコンテンツならフォロワーがいなくても一撃で何百万再生とバズる可能性が高く、これから参入するクリエイターにとってはTikTokの方が魅力的には見える。
YouTubeは未だに登録者数優位であり、1~2割の勝ち組YouTuberならまだしも、完全にレッドオーシャン化した今から新規参入するその他8割の人たちにとっては、例え収益化されていてもYouTubeはハードルが高く、自分の実体験からいっても、TikTokのバズり方は半端じゃない。YouTubeショートは投稿を続けていないとバズりにくいという特性もある。
そして、TikTokでも収益化が開始されたわけだが、収益率を見てもYouTubeショートは1再生0.006円に対しTikTokが0.02円であるため(※金額は国やアカウントによっても違うためあくまで参考)、この勝負はTikTokに軍配が上がるのではないかと予想される。
これらを考慮すると、3つの結論が導き出される。
1つ目の結論はこうだ。
ネットで何かを広めるにはTikTok向けに作ったコンテンツを投下し、そこからYouTubeやSNSやブログに引っ張ってきて見てもらう、ファンになってもらう、という戦略が最短であるということ。
(その際作ったTikTok動画は、YouTubeショートとInstagramリールにも再活用するとして)
2つ目は、テキストコンテンツのさらなる縮小。
TikTokの収益化開始により、ショート動画戦争はより激化する。人は常に面白いものを求めるが、2023年只今現在のその究極系がスマホ全画面縦動画ショートだとすれば、その形からかけ離れたネットコンテンツに関心を見出されにくくなる。
1分~3分程度で、音がある動画で、縦。その形ともっとも離れているのがテキストコンテンツなので、カクヨムやnoteにしても、利用者が減ってしまう、あるいは、利用時間が今以上に減ってしまうことが見込まれる。
逆に考えれば、全てのテキストを自動音声化してくれるテキストサイトが誕生すれば、参入者も利用者も増えるだろう。「音」が生まれれば。AmazonはAudible、聴く読書を推奨しているし、オーディオブックも広がり始めている。
既存のテキストサイトにそういったデフォルト機能を最初に実装化するところはどこか、という視点もいいかもしれない。
3つ目は、新たなスターの誕生。
TikTokの収益化が意味するものは、競争激化だけでなく「整理整頓」だ。
これはYouTubeでも過去起きたことで、それまではとにかくバズらせたものが正義であったが(Twitterでは今なおそう)、収益化機能が成長していくと不適切コンテンツの除外が始まる。
TikTokは今なお一昔前のYouTubeのように不適切コンテンツがチラホラ散見されるが、収益化が始まるとクライアント向け(広告)サービスの充実を図るはずで、バズらせるために無茶をしても一円も稼げず意味がない、という認識が広まっていく。
すでに現時点でもTikTokのバン機能は強く私もいくつか動画を停止されたが、これがもっと強まるはず。
人が関心を持つものはいつの時代も「暴力」と「性」であるが、この2つが緩やかに消えていく。つまり、「整理整頓」される。
そうすると、無茶ができる根性勝負ではなく、より実力主義の世界になり、そこから新たなスターが生まれてくる。
まとめると、ネット発信はTikTokが主流になり、テキストコンテンツは今以上に縮小し、新たなスターが生まれる、この3つ。
テキストコンテンツから見ればいい話ではないが、プラットフォーム側の対策としては自動音声化機能の実装と、書き手の対策としては、TikTokから自分の小説やコラムの拡散を促すことに一縷の望みがある。
私もこの半年間、週一でコラム『8割の流儀』と小説『ブルーハーツを聴かずに親父は死んだ』の連載を続けてきたが、ここに辿り着いてくれた人のほとんどがTikTok経由であった。
終身雇用制度の崩壊、続く増税・物価高。その中で、自分が頑張りたいと思うことで生活費を稼ぐためには、大局の流れを掴むのも大事だが、足元の現実をよく見ておかないと小石につまづいて落ちた穴の中から叫び続けることになり、誰にも見つけてもらえなくなってしまう。
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