8割の流儀

鷺谷政明

アダルトビデオなんかいらない

アダルトビデオはないほうがいい。


映像の進化や入手が容易になったことで、男たちは草食男子と性獣の2つに分かれた。

リアルな女性を必要としなくなる前者と、創作の世界でおこなわれていることを現実に持ち込む後者。


いつの世も、議論は二極化して見せることで盛り上がりを演出できるため、以上のような理由からアダルトビデオは良くないとでも掲げれば30分くらいは持つ議題になる。


しかし実際は、前者2割、後者0.1割、その他7.9割といったところ。街を歩いていて、ちょっと変わった人や犯罪者とすれ違った回数を考えてみれば、これくらいだと感じるはず。


世の中は、「普通の人」で成り立っている。性善説とも言い換えられる。ちょっと変わった人と犯罪者がいるにはいるが、7.9割は普通の人。


たいていの人は、アダルトビデオで健康的な性欲を維持し、実際の女性と触れ合う時には、それまで見てきたことを一部参考にはしながらも相手に配慮を持ってそれに当たる。関係性が構築されていけば、ちょっと変わった性癖も顕れるかもしれないが、創作世界で見たレイプや痴漢モノをそのまま実社会で働く愚か者はそういない。リアルな女性なんか必要ない、ともならない。


しかし令和に入り、この割合に変化を感じる。前者3割、後者0.1割、その他6.9割。もう少し押されてきているか。


映像の鮮明度は劇的に上がり、VRのような没入型も生まれ、AIが美女を創造する時代、ハイ・テクノロジーなアダルトコンテンツを手軽に思いのまま消費できるようになると現実との境目はいよいよ曖昧になり、「ちょっと変わった人」が「普通の人」になっていく。時代は常にそうして変化する。


技術の進歩によりバーチャルなものが横行すると、性風俗店のようなリアルな産業が衰退するかと思いきや、コロナがあったにも関わらず店舗数はそこまで減っていない。


全国防犯協会、風俗環境浄化活動公式サイトの各種風俗店舗の届出件数をまとめている方の記事によると、「ソープランドは2.5%、ラブホテルは10%減少しているが、デリヘルの数は7%増加」しているそうだ。形態は変わっても、需要は常に一定数あることが伺える。


「20~40代未婚男女のうち、恋人がいる人の割合は33.4%、恋人がいない人の割合は66.6%」というゼクシィが集計したデータがある。7割近い人に恋人がいないと聞くと少ないように感じるが、20年前、40年前はどうだったのだろう。


そもそもこの手のデータをどこまで信用するかという側面もあるが、バーチャルなコンテンツの進化に伴い、リアルなものの進化があってもいいように思う。形態を変えるだけでなく、性風俗店をいっそ国が運営してしまえばいいという人もいる。


シンガポールにはゲイランという国営の性風俗街がある。得てして繁華街は反社会的勢力が裏で牛耳り、喧嘩やドラッグが横行しがちだがゲイランにはそんなものはなく、実際行った人によれば驚くほど治安がいいという。国営だから。


ビデオやバーチャルではなく、実際の女性とコミュニケーションを取る性風俗店は人としての作法も問われるし、お店のルールは存在するし、バーチャルコンテンツを入手するより何倍も高い料金設定のため、経済効果も大きい。


一つ断っておくが、私はアダルトビデオが大好きである。


YouTubeで映画批評をおこなっているが、見た作品数でいえば映画の比ではない。


もし今私が10代だったら、現実の女性に当時ほど躍起になっていなかったような気はする。それくらいアダルトコンテンツの進化はすごい。幸い40を過ぎているため昔のように猿ハマりすることはないが、完無視ともいかない。


楽しいものはだいたい悪い。しかし、悪影響を与える恐れがあるものを排除していくのが人生だとも思えない。不要不急という言葉が横行したとき、誰もが一度はそんなことを考えた。


養老孟司さんはこう言った。「あるものはしょうがない。」

そこにあるから手が伸びる。なければ手も足も出なかった。


アダルトビデオはないほうがいい。


出典 : https://axl2010.livedoor.blog/archives/47013518.html

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