旅館の金庫意味ない説

旅先の宿でいつも疑問に思うことがある。


金庫の意味だ。


出かけるときここに貴重品を入れておけば例え誰かに侵入されても安心ですよ、という意味だろうが、この理屈はたった2つの条件が重なるだけで、全く意味をなさなくなる。


・金庫の鍵が部屋鍵と一体化してる・大浴場の脱衣所に鍵付きロッカーがない


この2つが重なると、脱衣所で鍵が盗まれたら終わりだ。


しかも結構な確率でこの条件は重なるので、私は「旅館の金庫意味ない説」を提唱する者である。


脱衣所に鍵付きロッカーがない以上、部屋鍵もそこに置かざるを得ない。ご丁寧に客室番号まで鍵に書かれていれば大サービスで、犯行に及ぶ者にすればこんな楽なことはない。


金庫がナンバー式であれば破るのは少々手間になる。あるいは、脱衣所に鍵付きロッカーがあれば、それを破るのも人目があるのでリスクが伴う。


しかしそうでなければ、脱ぎ捨てられた浴衣の中から鍵を盗み出せば一撃だ。例え脱衣所で人のカゴをごそごそあさっているところを誰かに見られても、はたから見れば自分のものを触っているようにしか見えないので、不審がられることもない。


なので、この2つの条件が重なる宿の場合、私は金庫に鍵をかけて、貴重品を別の位置に隠しておく。なぜなら、私が泊まるような庶民的な宿にプロの窃盗団が潜んでいるとは思えないので、金庫を開けてカラであれば焦って立ち去るはずだからだ。


金庫は、簡単に開けることができないという意味で防犯の役割を持つが、大事なものがそこにあるというサインにもなってしまう。それを開けるのが鍵しかないなら、その鍵を盗まれてしまえば意味がない。


そもそも私は旅先に大金もカードも持っていかない。盗まれてもたいして引き出せない額しかないカードを、100円ショップで買った財布に入れて持っていく。


部屋鍵と金庫鍵が別々になっている場合は、金庫鍵を部屋のどこかに隠しておくのも有効である。脱衣所から部屋鍵を盗んで部屋に侵入した犯人が、鍵のかかった金庫を確認したとき「金庫の鍵も脱衣所にあったのか」「別の同伴者が持っていったのか」「どこかに隠されているか」そう考えているうちに退散するはずだ。


一人で行く場合はこういった対策くらいしかないが、グループでも同性で一緒に風呂に入るとなると、結果一人の場合と同じになる。


夫婦やカップルで宿泊するなら、同じタイミングでお風呂に行く際は鍵を分けて持っていけばいいが、そうすると、部屋鍵を持つ者は必ず先に風呂から出なければならないという使命が生まれる。金庫鍵を持つものが先に出てしまうと部屋に入れないからだ。


いつもならこっちの方が早く出るだろうと踏んでも、初めて行く宿で初めて入る風呂、そういうときに限って勝手が違って時間がかかってしまい、喧嘩になったりするのが旅行である。


あらゆる宿は、客に喧嘩の火種を作ってはいけない。


旅館の金庫意味ない説を防ぐにあたり、一番コストがかからないのは脱衣所の貴重品ロッカーの設置だと思う。


全部屋の金庫をナンバー式に入れ替えるのも大変だし、24時間入れる温泉宿だと、常に受付に誰か配置させておくのも人件費がかかる。


ただここで注意してほしいのは、その貴重品ロッカーに100円式を採用するのはやめてほしい。ああ財布持ってこなかった、と一度部屋に戻ることになり物凄いストレスになる。じゃあ財布ごと持っていこう、になると防犯上よろしくない。


こんないい旅館なのに、なんで低評価の人がいるんだろう?


と思うことがたまにある。


それは、ほんのちょっとしたことが火種となって揉めて、その宿ごと悪印象になったのかもしれない。もしかしたらその元凶は、金庫の鍵問題だったのかもしれない。

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