第14話 ギルマスと伯爵

 「怪我の回復ポーション・魔力回復ポーション・体力回復ポーション全て低品質の初級ポーションだよ」


 「なんとまぁ~、こんな高品質な初級ポーションは初めて見たわ」


 「そうなの? 冒険者ギルドで物が良いとは言われたけど」


 「どれ位の量持っているの」


 「取り敢えず、それの査定をしてよ。この後商業ギルドでも査定をしてもらうから」


 ヘレサ婆さんが一本一本睨みながらブツブツと呟き、紙に書き込むと黙って差し出した。


 怪我の回復ポーション、

 初級(買値)14,000/(売値)20,000、-30%

 中級30,000/50,000、-40%

 上級50,000/100,000、-50%

 最上級・・・

・魔力の回復ポーション、

 初級7,000/10,000、-30%

 中級12,000/20,000、-40%

 上級15,000/30,000、-50%

 最上級・・・

 体力回復ポーション、6,000/10,000、-40%

・熱冷まし、3,500/5,000、-30%

・頭痛薬、4,900/7,000、-30%

・下痢止め、3,500/5,000、-30%

・咳止め、2,800/4,000、-30%

・酔い止め、4,800/8,000、-40%、二日酔いにも効く。

・痛み止め、3,600/6,000、-40%


 「声を出さずにお聞き、前が買い取り価格で後ろが売値だよ。あんたのは売値の5割増しでも飛ぶ様に売れるだろうが、ギルド長が通常の買い取り価格で買えと煩いのよ。回復薬用の薬草も高値で買ったら怒っちゃって、1本500ダーラで買えと怒鳴られたよ。ポーションは仕舞って、他も当たってみると言って帰りな。それと薬用も含め全てのポーションは半分でも十分な効果を得られるから、品質を落としなさい」


 「有り難う。此処へは、ポーションのビンや採取用の品だけを買いに来る事にするよ」


 こそこそと話し「有り難う、商業ギルドと冒険者ギルドにも行ってから考えるよ」と声を高めて礼を言い薬師ギルドを後にした。

 売値の30%引きの買い取り価格か、品質の良い物は買い取り価格を抑え気味にして高く売る。

 商売の基本だが、安いのか高いのか基準が判らないので判断のしようが無い。

 ヘレサ婆さんが良心的だと判っただけでも収穫だ。

 アリシア姐さんが買ってくれた価格が、冒険者の評価だとおもう。


 ・・・・・・


 「おう、アリシア・・・アキュラから怪我の回復ポーションを買えたか?」


 「買えましたけど、どうかしたんですかサブマス」


 「それっ、今持っているか? すまんが、それを鑑定させてくれ」


 「ん、ギルドは買わなかったんですか」


 「フランセの馬鹿が、ポーションを鑑定する前に断りも無くアキュラを鑑定しやがった。お陰で、ギルドにはポーションを売らないと言われてしまったよ」


 「あの馬鹿、またやったんですか? 2度も虚仮にされたら、そりゃー怒るよ」


 「ギルマスがムルバから話を聞いて、お前の怪我が治ったときの話も聞きたいとな。ポーションが買えたのなら、鑑定もしたいそうだ」


 「それならバルバスも居ますよ。奴も2本買ってましたし」


 ・・・・・・


 「アリシアとバルバスもポーションを売って貰ったそうで、二人に来て貰いました」


 「見せて貰えるか?」


 机の上にポーションを置くと、ギルマスが眉をひそめる。


 「此れを初級ポーションと言ったのか」


 「そうです、初級ポーションと中級ポーションと言って並べましたから。二人の怪我を治したのは初級ポーションと言った物でした」


 「二人は怪我を治して貰ったそうだが、効き目はどうだった」


 「ありゃー何時ものポーションとは桁違いの効き目だったわね」

 「ああ、霧吹きで怪我に吹きかけたら治り始めたけど、残りを飲まされたら5分もせずに綺麗に治ったからな。何時ものゲロマズのポーションとは大違いだぜ」


 「フランセ、鑑定してみろ! ふざけた事をすると許さんぞ!」


 サブマスの後ろで、隠れる様に控えていたフランセが真剣な顔でポーションを手に取る。


 「中級ポーションの中の上・・・と言ったところです」


 「薬師ギルドに取られたら大損害だぞ、奴等の卸すポーションは高い上に不味くて効き目が悪い。二人とも、そのアキュラとやらから又ポーションを買えるか」


 「買えると思いますね」


 「すまんが金貨1枚で一本ずつ売ってくれ」


 「そんなにしませんけど、良いんですか?」


 「ああ、お前達も良質なポーションが欲しいだろう。先行投資だよ、見本が無けりゃ信用してもらえないからな。今度アキュラとやらに会ったら何処に泊まっているのか聞いておいてくれ」


 ギルマスはそれだけ言うと、数枚の書類を手に取り慌てて出て行った。


 ・・・・・・


 「旦那様、冒険者ギルドのギルドマスター,オーガン様が至急ご相談があると参っております」


 フランドル領ハランドの領主エルド・ネイセン伯爵は、珍しい事も有る物だと小首を傾げたが、至急との言葉に直ぐ執務室に招き入れた。


 「急ぎご相談したい事が出来まして、参上しましたネイセン殿。先ず此れをご覧下さい」


 ギルマスのオーガンが差し出した二本のポーションを見て、此れが何かと目で問いかけるネイセン伯爵。


 「冒険者登録をすませたばかりの者が、売りたいと言って出した物です。本人は初級ポーションだと言ってますが、鑑定させたところ中級ポーションの中の上程度だと言いました」


 「此れを初級ポーションと言ったのですか」


 「効果は実証済みです。三人の冒険者の怪我があっと言う間に治ったそうです。一人は足を引き摺る程の傷でしたが、傷の場所にポーションを吹きを掛けた後に残りを飲んだそうですが、5分も経たずに治ったと言います」


 「それは初級ポーションどころか、中級ポーションでも良質な物の効き目ですよ。鑑定させて貰って宜しいか?」


 ギルマスの了解を得て、伯爵家お抱えの鑑定使いが鑑定をする。

 何も聞かされずにポーションの鑑定を命じられた鑑定使いが、明かりに透かしじっくりと観察する。


 「怪我の回復ポーション、中級品ですが上物です。所謂中の上、上級ポーションと言っても通用します」


 ネイセン伯爵とギルマスが、声も無く顔を見合わせる事になった。

 鑑定使いに口止めをして下がらせると、ネイセン伯爵とギルマスは薬師ギルドに渡せないと意見が一致した。


 お互い薬師ギルドから、高くて効き目の悪いポーションを買っている。

 冒険者登録した者から良質なポーションの提供を受けられるのなら、此に越した事はない。


 「その者を取り込めるかな」


 「それが不味い事になりまして」


 苦い顔で、ギルマスが冒険者登録前からの一連の出来事を説明する。

 説明を聞いたネイセン伯爵が、呆れた様な顔でギルマスを見るが此処で引き下がる訳にはいかない。


 「そこでご相談です。彼女からポーションを買い付けて欲しいのです。勿論適正価格で」


 「ちょと待って下さい。今彼女と言われたか?」


 「はい、アキュラと言う娘で冒険者登録したばかりです」


 ネイセン伯爵が考え込んでしまった。

 暫し考え込んだ後、執務机から数枚の書類を手に戻って来て「漆黒の髪に緑の瞳、龍人族とエルフのハーフ。出身地はヤラセンの里になっていないか」


 「顔は見ていないのですが、出身地はヤラセンになっていますね」


 ギルマスが持って来た書類に目を落としながら答える。


 「何て事だ・・・オーガン殿、彼女・・・アキュラを他のギルドには絶対に渡すなよ。それと彼女を利用しようとする輩には気を付けろ」


 「何事ですか? 伯爵殿」


 「アキュラの名に覚えは有りませんか、ヤラセンとヘイロンの騒動の事です」


 「確か大量の賊を捕獲したと聞いていますが、それ以上詳しい事は聞いていませんが何か?」


 「あの騒動の発端がアキュラなのです。彼女の治癒魔法を巡り、里の破落戸共と野盗が手を組んで拐かそうとしたのです。結果、返り討ちに遭い、双方会わせて90人前後が捕縛されました。ヘイロンを預かる領主は賊を捕まえたとは言え、大問題になっています」


 「治癒魔法、まさか・・・そんな事は一言も書かれてないが」


 ギルマスが書類に目を落とすが、申告書類には結界魔法と探索スキルのみが書かれている。

 鑑定使いの不手際とポーション制作能力から、鑑定スキルを有すると思っていたが大問題だ。


 「然もですよ、その騒動の発端から終わりまで、賊の大半を彼女が捕獲しているんです」


 ギルマスは何を言われたのか理解出来なかった。


 「オーガン殿、彼女はこの街の宝になる存在です。手荒な奴等が出て来る前に保護し、出来れば召し抱えたいものです」


 「ネイセン殿、保護は判りますが召し抱えるとは? お話しを聞く限り、彼女は治癒魔法を利用されるのを嫌って、ヤラセンの里を出た様に思われます。それと冒険者登録前後の出来事から、独立心が強い事が判っています。冒険者ギルドの一連の不始末から、彼女は何一つギルドに持って来ていません。たぶん、薬師ギルドと商業ギルドにポーションを持ち込み、査定をしていると思われます。気に入らなければ、他の街に移動してしまうでしょう。始めに申しました相談ですが、彼女と正当な取引をして欲しいのです」


 「勿論、適正価格で買い取らせて貰うよ」


 「そうでは在りません。いや価格もそうですが、ギルドのサブマスにもギルドの対応が気に入らないから売らないとはっきり言い、売るのを止めてしまいました。対等な相手として取引をお願いしたいのです」


 「私は彼女を軽んじるつもりは無いよ。私に仕えてくれたらとは思うが、無理強いをする気は無い。彼女はね精霊の加護を受けていると同時に、薬師エブリネの弟子でもあるんだよ」


 「まさか・・・いや、それならこのポーションの出来も納得できる」


 「治癒魔法も騒動になる程だ、それに加えて薬師としての腕も一流の上に精霊の加護持ちだ。そんな彼女を強引に囲い込んで見ろ、どんな反発が起きる事か」

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