第8話 抜き打ち

 次の犠牲者を探すが、皆俺から目をそらして冷や汗を流している。


 「グズネス・・・お前を敵に回したら、ヤラセンでは安心して暮らせないってどう言う意味だ。教えてくれないか」


 「いい、いや・・・だなぁ。アキュラは何か勘違いしているよ、俺達はアキュラと敵対する気は欠片も無いんだ。うん、本当だぜ」


 「誰が俺を連れて来いってお前に命令したんだ、ん? 里の者以外もこんなに集めて」


 「それは、ゴラント・・・さっき死んだ奴が連れて来たんだ。アキュラ、あんたが治癒魔法使いだから金になると言ってさ。俺は反対したんだぜ、里の者を売るのは仲間として流石に不味いからって」


 「その口振りだと、里の者以外なら売り飛ばしても良い、て事だよな。俺がヤラセンの里に来てから、常に俺の周囲をお前の仲間がうろちょろしていたよな。おかしいよな、何処の誰とも判らないのに何故俺なんだ。それに治癒魔法の腕が良ければ、薬草採取やボーション作りなんてしないよ」


 「そっそんな、何か勘違いしているんじゃないのかな。俺達は長老やオルセンを尊敬しているし、里の掟に背いた事も無いぜ」


 「別にお前に喋って貰わなくても良いのさ。お前以外に里の者は8人も居るから、お前の裏の顔もペラペラ喋る奴は居ると思うね」


 それだけ告げてグズネスの衣服を切り裂く。


 「おいおい、止めてくれよアキュラ。本当に俺は何も知らないし、何もしていないじゃないか」


 「手間暇掛けてお前から聞き出すのは面倒だから、お前の手下から聞くよ。お前はウルフじゃなくて、ゴブリンあたりの餌になって貰うよ。生きながら喰われる時間も長いだろうし、骨までしゃぶって貰えそうだもんな」


 切り裂いた服で猿轡をし、残りの衣服や武器を一纏めにしていて気付いた。

 切り裂いた衣服の中に、マジックバッグと同じ素材の小袋が有った。

 先にグレイウルフの餌になった奴の服の中からも同じ物が出てきたのでマジックポーチに違いない。


 (鑑定!)〔マジックポーチ・3/25〕〔マジックポーチ・3/32〕


 「グズネス、予定変更だ。こいつの使用者登録を外して貰おうか」


 「お前は盗賊になるつもりか? 犯罪奴隷は辛いぞ、と言うか二人も殺したんだから犯罪奴隷確定だけどな。残りの人生を犯罪奴隷として過ごすのか、可哀想になぁ」


 「そうか、俺の事より自分の心配をしろよ」


 笑うグズネスの股間に、ほんの少し魔力を込めたフレイムを乗せてやる。

 お湯を沸かすときに使う量だから2分前後は燃えているだろう。


 〈ウオゥォォォ、熱い・・・止めて、お願いしま・・・〉あっさり気絶していやがる。


 野営の時の薪集めが面倒で考案したフレイムだが、玉焼きにも役立つとは意外だ。


 「お前達の中で、此と同じマジックポーチを持っている者は、早めに申告しろよ。股間の丸焼きなんて嫌だろう」


 そう告げてから、安らかに気絶しているグズネスの鼻にフレイムを乗せる。

 ピクリとも動かなかったが、直ぐに起きるが拘束されているので悲鳴だけの目覚めになった。


 〈うわー熱っつ、止めろ、殺す気か!〉


 「当然だよ、殺られる前に殺れ! は、俺の信条だからね。使用者登録を外すか、延々と火炙りを続けるか好きな方を選べ」


 俺を睨み付け低い唸り声を上げているので、再び股間にフレイムを乗せてやる。

 3度の股間焼きに耐えたが、四度目にポーションで股間の火傷を治してから再び玉焼きを始めると、泣きながら使用者登録を外しますと頭を下げた。


 タープを取り出して広げ、マジックポーチを逆さまにする。

 マジックポーチとマジックバッグ複数にロングソード多数、様々な衣服や装飾品が出て来る。

 剣鉈に似たナイフを拾い上げ、グズネスの足に突き立てる。


 「結構稼いでいるじゃないか、俺が犯罪奴隷になるよりお前の方が先だな」


 〈糞っ垂れがぁ~〉


 「おっ、それだけ元気が有れば、未だまだ甚振れそうだな。俺をどうするつもりだったんだ、ゴラントとの繋がり共々喋れよ。素直に喋らないと玉焼きの続きを始めるぞ」


 そう言って股間にフレイムを乗せて放置、ギャァギャァ喚いているが見せしめに丁度良い。

 と思ったが、直ぐに泡を吹いて失神してしまった。


 「マジックポーチ持ちはもう居ないのか? 後で持っているのが判ったらウルフちゃんの餌だぞ」


 マジックバッグが4個とマジックポーチが2個出てきたので、全て使用者登録を外させて没収する。

 グズネスのマジックポーチから出てきたマジックポーチとマジックバッグは、使用者登録以外に略奪盗難防止策が施されていて、使用者登録を外しただけでは他人が使えないと判った。

 バッグの中身は本人なら取り出せるが、使用者変更は正式な手続きを経て魔道具ギルドでしか出来ないらしい。

 意外にハイテクな魔法の世界なのね。


 犯罪者集団の取り調べなんて面倒な事は、長老のオルザン達に丸投げする事にして、誰が俺を拉致しろと命じたのかそれだけを重点的に吐かせた。

 ヤラセンの里から南東に5日の場所に、死んだゴラント達のアジトが有ると喋った。

 そのアジトに残るボス、ダグリンの命令でやって来たと口を揃える。

 隠すつもりだった治癒魔法だが、色々教えを請う為に話したのがやっぱり不味かったな。


 治療した病人や怪我人には口止めしたし、ボーションを重点的に使っての治療でも噂が広がっている様だ。

 髪もそこそこ伸びたし、ヤラセンの里を離れる時かもしれない。


死んだ3人を除く17人を一纏めにし、魔力をたっぷり込めたバリアを張り、それ以外のバリアをキャンセルする。

 次の餌を待っていたグレイウルフの群れが近づいてくるが、外部から見えなくしたので戸惑っている。


 バリアの外のグレイウルフの首に、結界のリングを嵌めて軽く締める。

 息が苦しくなったグレイウルフが藻掻き、残りのグレイウルフが不思議そうに藻掻く仲間に近づく。

 集まって来るグレイウルフの首に、次々とリングの首輪をプレゼントするとパニックになったグレイウルフ達が散り散りに逃げていく。


 里に帰る前に、もう一度バリアに10/100の魔力を流し当分壊れない様にしておく。

 中の17人には何も告げずに外に出ると、安全を確認してから里に戻る。


 ・・・・・・


 長老オルザンの元に行き、グズネス達に襲われた事を伝える。

 全てを話し終え、オルザンの反応を探る。


 「グズネス達が、ダグリンとやらの盗賊団と結びついていた証拠は有るのか」


 「20人中17人は捕らえている。里の者が9人と盗賊団の者が8人だな。3人は尋問中に死んだので、通りすがりのグレイウルフの餌になったよ」


 オルセンが顔に手を当て〈なってこったい〉と困惑気味に唸っている。


 「アキュラはどうしたい?」


 「皆殺しにしても良いのだが、里の者の事だし、グズネスの仲間が相当いるって言ってたからなぁ。そいつ等をどうするかは長老達の仕事だろう。承認が要ると思って生かしているよ」


 そう言って、グズネスから取り上げたマジックポーチの中身を床にぶちまけた。

 オルザン達は目の前に出てきた、マジックポーチとマジックバッグ複数にロングソードとショートソード多数に様々な衣服や装飾品を見て顔色がない。

 それとは別に、マジックバッグ4個とマジックポーチ2個を放り出す。


 「そのマジックバッグとマジックポーチは、使用者登録を外させたが中は見ていない。里の者と盗賊達の物だが、中は同じ様な物だろう」


 長老ボルムの顔色が悪い。

 オルザンとモルガン2人の長老と、オルセンが鋭い視線をボルムに投げかけている。

 ボルムの腰巾着・・・護衛がそろりと移動し、オルザン達の背後に回っている。


 「グズネス達は無事なんだろうな」


 ボルムが喉に痰が絡んだ様な声で尋ねてくる。


 「さぁ、あれを無事と言って良いのかな。ボルム長老、グズネスはあんたの身内か? 賊の1人が『グズネス達を敵に回すって事は、ヤラセンの里でも安心して暮らせなくなるぞ』って脅してきたが、あんたが後ろ盾になってやらせていたのかな」


 オルザン達の後ろに回った男が、そろりと腰の剣に手を添えようとしていた。

 馬鹿が、白状している様なものだ。

 男とオルザン達との間に1枚の結界を張るが、無色透明無味無臭なので気付いていない。


 「グズネス達が、盗賊共と手を組んで悪事を働いていたのは間違いない。捕らえた8人以外に、この里に仲間が多数居るはずだがどうする気だ。オルセンあんた以前俺に言ってたよな、街に向かったり狩りに出た者が時々消えるって」


 オルザン達もボルムも決断できない様なので、後押し代わりに蹴りつけてやる。


 「決断が付かない様なら、奴等を広場に連れてきて、満座の中で悪事の一部始終を吐かせてやろうか」


 〈むうぅぅぅ・・・殺れっ!〉


 ボルムの叫びに、抜き打ちの一閃が〈キイーンンン〉と金属音を立てて結界に弾かれる。

 驚愕するオルザン達、俺は素早く抜き討った男の首にリングを嵌め絞り上げる。

 見えない手で首を絞められ、慌てる男の手足を縛り動きを抑えてから首のリングをキャンセルする。


 腰を浮かせ逃げようとするボルムだが、後ろから腰を蹴り手足を縛り上げる。


 〈何をする! 放せ!〉


 煩いので薬草袋を口に押し込み黙らせる。

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